2022年4月期ドラマのラインナップには、いわゆる『医療ドラマ』が含まれていなかった。次クールである2022年7月期ドラマにおいても、医療ドラマはゼロである。
直前の2022年1月期においては『ドクターホワイト』(フジテレビ系列)『逃亡医F』(日本テレビ系列)と2作が放送されていた。医療モノは視聴率が取りやすいとされ、ドラマのなかでも定番ジャンルであるにも関わらず、2クール連続で制作されないのは稀だ。
医療ドラマの制作が避けられている理由を踏まえつつ、これからの時代において、医療ドラマをバズらせるために必要な要素を考察する。
ドラマ界に異変! “医療もの”が、この2クール続けて放送されない理由
集英社オンライン / 2022年6月26日 14時1分
ドラマの定番ジャンル・医療ドラマが、2022年4月期に続き7月期もゼロだ。その理由と、これからの時代において、医療ドラマをバズらせるための必要要素を考察する。
2022年春クールのドラマをおさらい
2022年4月期に放送された、ゴールデン帯のドラマは以下のとおり。
月:『元彼の遺言状』『恋なんて、本気でやってどうするの?』(ともにフジテレビ系列)
火:『持続可能な恋ですか?』(TBS系列)
水:『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』(日本テレビ系列) 『ナンバMG5』(フジテレビ系列)
木:『未来への10カウント』(テレビ朝日系列) 『やんごとなき一族』(フジテレビ系列)
金:『インビジブル』(TBS系列)
土:『パンドラの果実』(日本テレビ系列)
日:『マイファミリー』(TBS系列) 『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系列)
ミステリー、恋愛、お仕事ドラマ……さまざまなジャンルが散見されるが、医療ドラマはゼロ。恋愛ドラマの存在感も薄くなっている印象だ。月9といえば王道ラブストーリーのイメージが強いが、3クール続けてミステリーものが放送されている。
医療ドラマ、恋愛ドラマ。こういった定番ジャンルが影に追いやられつつあるのは、なぜなのだろう。
バズる医療ドラマに、印象的なキャラ&セリフあり
これまで放送された医療ドラマについて、高視聴率を獲得した人気作品を中心に見ていきたい。医療ドラマと聞いてまず浮かぶのは、以下のような大人気シリーズだろう。
・『白い巨塔』(1967年〜/フジテレビ系列)
・『Doctor-X ~外科医・大門未知子~』(2012年〜/テレビ朝日系列)
・『JIN-仁-』(2009年〜/TBS系列)
・『Dr.コトー診療所』(2003年〜/フジテレビ系列)
・『ナースのお仕事』(1996年〜/フジテレビ系列)
・『コード・ブルー -ドクターヘリ救急救命-』(2008年〜/フジテレビ系列)
どれも平均視聴率20%超えのマンモス級な人気を誇るシリーズものばかり。時には社会現象も巻き起こし、対ドラマファンだけでなく、一般的な共通言語として機能しているといっても過言ではなかった。
上記に挙げたドラマを中心に考えてみると、どの作品にも象徴的なキャラクターが登場していることがわかる。
『Doctor-X』シリーズなら、言わずと知れた大門未知子(米倉涼子)の堂々とした態度と凄腕っぷりは、一度見たら忘れられない。『JIN-仁-』では、綾瀬はるかが演じた橘咲の真摯な様が印象的。『ナースのお仕事』は、観月ありさ演じる後輩ナース・朝倉いずみと、松下由樹演じる先輩ナース・尾崎翔子の掛け合いが、ドラマの色を決めている。
加えて印象的なセリフも外せない。『Doctor-X』シリーズでは“私、失敗しないので”。『JIN-仁-』では“神は乗り越えられる試練しか与えない”。『ナースのお仕事』では“あ・さ・く・ら〜!”など。
「このドラマといえばこれ!」といったお決まりのセリフがあるのも、大人気シリーズたる医療ドラマの条件なのかもしれない。
これからの医療ドラマに必要な3つの要素を考察
これからの医療ドラマにおいても、先に挙げた2つの要素は外せないだろう。
要素1. 象徴的なキャラクター
要素2. 印象的なセリフ
この2点はどんなジャンルにおいても必要な要素ともいえるが、医療ドラマにおいては特に重要であると考える。
他ジャンルにおいては、この2点の力が弱かったとしてもストーリー性があれば補える。ミステリーなら謎解きの精密さ、恋愛ならメインキャラ同士の駆け引きなど……むしろストーリー性をフックとしたほうが好まれる傾向にある。
だがドラマでは、人類にとって普遍的な“生と死”をメインテーマとして扱うことが多く、だがストーリー性としてはすでに申し分ない。このテーマにキャラクターとセリフを工夫することによって、ドラマとしての味を深めていくのが、医療ドラマの正規ルートのように思える。
要素3. ”これまで以上の”リアリティ
さて、3つめの要素として、これからの時代、とくに医療ドラマにおいては“これまで以上”のリアリティが求められるだろう。
それは、新型コロナウイルス流行により、年齢や性別、環境を問わず生死が身近となったからだ。
コロナ禍になる前、私たちにとって生きていることは当たり前であり、死ぬことは何十年も先の未来だった。死の当事者になるのは、まだまだ先のこと。予期せぬ病気や怪我になることはそうそうない。健康な状態で、わざわざ死について考える人のほうが珍しかった。
そんな情勢で見る医療ドラマには、必要以上のリアリティは求められないと筆者は考える。視聴者の想像力で補えるだけの描写と、専門家が見ても違和感のない最低限のファクトさえあれば、ドラマとして成立するはずだ。
だからこそ、これからの医療ドラマには、生身の人間がダイレクトに感じた死生観を、恐れずに反映させる気概が必要なのかもしれない。
そう考えると、今現在、医療ドラマが制作されていない事実にも頷けてしまう。コンプライアンスの重要性も叫ばれる昨今、ドラマとしてのおもしろさを担保しつつリアリティまで追求するのは難しい。それに加えて、単純に医療現場での取材も進めにくいだろう。
今後、象徴的なキャラクターと印象的なセリフで、一般の視聴者にとってもおもしろく、かつ医療従事者へのリスペクトを感じられる名作ドラマが生まれることを期待したい。
文/北村有
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