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大手広告代理店の新入社員を追い詰めた長時間勤務とパワハラ

集英社オンライン / 2022年7月14日 9時1分

煩わしい組織や人間関係から抜け出し、未来世界で生き延びるヒントが満載! これからの生き方・働き方に危機感をいだいている人、必読の1冊。『不条理な会社人生から自由になる方法 働き方2.0vs4.0』(PHP研究所)から一部抜粋・再構成してお届けする。

大手広告代理店の新入社員はなぜ死んだのか?

大手広告代理店に入社してわずか8カ月の女性社員がクリスマスの晩に投身自殺したことで、日本企業の長時間労働とパワーハラスメントが強い批判にさらされました。会社側は

「現場へのプレッシャーも含めてマネジメントが配慮すべきだった」
「複雑で高度な作業に対して恒常的に人手不足だった」

と説明しており、新人社員が混乱する現場と稚拙なマネジメントの犠牲になったことは明らかです。批判を受けて広告代理店は、本社ビルを夜10時に一斉消灯するなど深夜残業を抑制する措置をとりましたが、こんなことではなんの解決にもなりません。



広告代理店はこれまで、テレビと新聞・雑誌を主な媒体として営業を行なってきました。それが2000年代に入って急速にインターネットにシフトしたため、従来のビジネスモデルを大きく転換しなくてはならなくなりました。

欧米企業はこのようなとき、まずはインターネット広告に精通した人材を外部(たとえばヤフーやグーグル)から引き抜き、プロジェクトチームのトップに据えます。チームのメンバーも、プログラミングやWEBデザインの経験がある若手をベンチャー企業などから集めるでしょう。まったく新しい分野なので、本社の社員は他部門との連絡役がいればいいだけです。

こうしたエキスパート集団なら、ネット広告のイロハも知らない新人が配属され、素人同然の上司に翻弄されて擦り切れていく、などという事態は考えられないでしょう。だったらなぜ、こんな簡単なことができないのでしょうか。

「不適材不適所」を長時間労働のマンパワーで解決!?

それはいうまでもなく、年功序列・終身雇用の日本企業では、プロジェクトの責任者を外部から招聘したり、中途入社のスタッフだけでチームをつくるようなことができないからです。そのため社内の乏しい人材プールから適任者を探そうとするのですが、そんな都合のいい話があるわけがなく、「不適材不適所」で混乱する現場を長時間労働のマンパワーでなんとか切り抜けようとし、パワハラとセクハラが蔓延することになるのです。

なぜ労基署は、この違法・脱法行為を是正できないのでしょうか。それは官公庁こそがベタな日本的雇用の総本山で、民間企業を強引に指導すると「だったらお前たちはどうなんだ」とヤブヘビになるからです。事件を批判するマスメディアも同じ穴のムジナで、無意味な説教を繰り返すだけです。

こうしてどれほど犠牲者が出ても、長時間労働も過労死も一向になくなりません。森友学園の決裁文書を違法に書き換えるよう強要され、自殺してしまった近畿財務局職員の悲劇はそんな日本社会の残酷さを象徴しています。

これは日本の会社(役所)の構造的な問題なので、ほとんどのサラリーマンがいつかはこの罠にはまってしまいます。これが、日本のサラリーマンのエンゲイジメント(仕事へのやる気)が国際的に極端に低く、会社を憎んでいる理由でしょう。

だからこそ「働き方」改革が必要とされるのですが、それは一朝一夕には実現できず、10年、20年と「改革」を待ちつづけているうちにこころが病んでしまうかもしれません。だとすれば残された方法は、自力でこの罠から逃れることしかありません。これがフリーエージェント化です。

うつ病の原因は自分の能力を超える仕事

日本ではサラリーマンの職場うつや過労自殺が社会問題になっており、長時間労働の是正が叫ばれていますが、こころの病は長く働くことが原因ではありません。「いやなこと」をえんえんとやらされるから苦しいのであって、好きなこと、楽しいことであればどれほど長時間労働でもまったく苦になりません。スティーブ・ジョブズはマッキントッシュのコンピュータをつくるとき、「1日8時間労働」とか「残業は週15時間まで」なんて考えませんでした。ガレージに寝泊まりして夢中で働いたのは、それが楽しかったからです。

「いやなこと」は、大きく3つに分けられるでしょう。

1つは、なんの意味があるのかわからない仕事。すなわちブルシットジョブです。

2つめは人間関係。「今日もまた怒られるのか」と思いながら会社に通ったり、「顔も見たくない」同僚が隣の机に座っているのは苦痛以外のなにものでもないでしょう。

3つめは、自分の能力を超える仕事の責任を負わされること。内向的な社員が重いノルマを課せられ、同僚と営業成績を競わされるような場面を思い浮かべるでしょうが、それだけでなく日本の会社ではこうしたことがあちこちで起きています。

あらゆる仕事で高い専門性が要求されるようになるなかで、「ゼネラリスト」としての経験しかないサラリーマンが、必要な知識やスキルを獲得できないまま年功序列で役職を与えられています。そうなると、「この仕事をやりとげるだけの能力が自分にはない」と思いつつも、誰にも不安を打ち明けることができず、上司や同僚、部下、クライアントの視線に戦々恐々としながら日々をやり過ごすようなことになりかねません。

40歳を過ぎたサラリーマンは「監禁」状態にある

プログラミングの知識がほとんどないにもかかわらず、多数のプログラマーを束ねる大きなプロジェクトを任されたら、うつ病になっても不思議はありません。こころを病めば仕事から外れることができ、〝ウソ〞がばれずにすむのですから。

家族の死という大きな不幸でも、それが1回かぎりのものであればひとは耐えることができます。これがこころのレジリエンス(回復力)ですが、この素晴らしい能力は、いつ終わるかわかない苦痛に対しては無力なことがさまざまな心理実験から明らかになっています。

子どもは3年間(小学校なら6年間)のいじめを永遠のものに感じてときに自殺してしまいますが、サラリーマンの会社人生は40年以上あり、日本の労働市場は流動性がないため40歳を過ぎると転職はきわめて困難で、最後の20年間は会社に「監禁」されるような状況になってしまいます。

こんな環境でこころを病むことなく、日々楽しく仕事ができるのはごく一部の幸運なひとだけでしょう。

『不条理な会社人生から自由になる方法 働き方2.0vs4.0』(PHP研究所)

橘玲

2022年3月18日

968円(税込)

文庫 336ページ

ISBN:

978- 4-569-90208-1

人生100年時代に、日本人の働き方はどうシフトすべきか?

本書では、世界の潮流を例に、旧来の日本的なライフスタイルではいずれ立ち行かなることを示しつつ、どのように働き方を変えれば、日本のビジネスパーソンが生き残ることができるか、その解決策を具体的に提示する。

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