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TKGを世界食に! 卵に命を懸ける「日本たまごかけごはん研究所」の挑戦!

集英社オンライン / 2022年7月29日 13時1分

日本の食卓で広く愛されている国民食のひとつ、TKG(卵かけご飯)。手軽に作れることから、ほぼ毎日食べているという熱心な愛好家もいるのではないだろうか。このTKGという日本独自の食文化にさらなる発展をもたらすために、飽くなき探究心と情熱を持って活動するのが、一般社団法人日本たまごかけごはん研究所だ。どのような想いで団体を立ち上げたのか、代表の上野貴史さんに話を訊いた。

卵という食材の奥深い魅力

日本たまごかけごはん研究所はその名の通りTKGの研究を行う団体だ。「生産者の応援」「地域創生」「日本食文化の普及活動」の3つを理念として掲げており、2019年の設立以降、TKGレシピの研究やたまごかけごはん祭りなどのイベント開催といった活動を行っている。



代表理事を務める上野さんは、フレンチとイタリアンのシェフを経て、「日本一栄養バランスが優れた学食」と称される女子栄養大学の学生食堂に12年間勤務した経歴の持ち主。料理人として経験を積んだ後、数ある料理の中からTKGを選んだのは、卵が持つ奥深さに魅力を感じたためだという。

「日本たまごかけごはん研究所」代表のMr.TKGこと上野貴史さん

「卵は作り手の知識と技術で全く違った表情を見せる食材です。物事を追求することが好きな自分の性格に合った食材だと感じています」(上野貴史さん。以下同)

他に類を見ない栄養バランスの高さも、卵の特筆すべき魅力だ。

「卵は単体で完全栄養食品と呼ばれる唯一の食材で、ビタミンCと食物繊維を除くすべての栄養素が含まれています。最新の研究結果では、1日に2個以上食べることが推奨されていて、健康な人であれば1日に10個まで食べても大丈夫だと言われています」

研究のために毎日8〜10個の卵を食べている上野さん。それだけの数の卵を食べる生活を始めてからは、髪や爪が伸びるのが明らかに早くなったそうだ。毎日たくさんの卵を摂取することで、全身に栄養が行き届いているのではないかと分析しているという。

「コロナで苦しむ生産者の力になりたい」

日本たまごかけごはん研究所では、厳選したブランド卵の販売店「幻の卵屋さん」の運営も行っている。店を始めた背景には新型コロナウイルスの感染流行があったという。

コロナの流行は卵の生産者へも深刻な影響を与えた。普段は一流のホテルやレストランに出荷される高級卵だが、緊急事態宣言で買い手が休業したため売り先を失った。それでも卵は毎日生産され、飼料や設備の費用は発生し続ける。

「付き合いのある養鶏所がコロナ禍で厳しい状況になっていると聞き、自分達が力になれないかと考えました。そこで思いついたのが卵の販売店だったんです」

当初は10前後の養鶏場から卵を取り寄せて、土日だけで販売を開始した。販売所は、東京・巣鴨にある研究所の事務所が入る建物の軒先に、長机を並べた簡素なものであったという。

買い手の多くが近隣の住民という状況で販売を続けていたが、珍しい卵屋があるという評判を聞きつけたショッピングモールから、催事場へ期間限定の出店オファーを受けたことで転機を迎えた。

各地に期間限定で出現する「幻の卵屋さん」

初の出店が好評を博し、認知が拡大。たちまちオファーが激増し、幻の卵屋さんは出店予約半年待ちの人気イベントへと成長した。現在も都内を中心とした駅やデパートの催事場に期間限定で出店をしている。

養鶏所の面白いチャレンジ

幻の卵屋さんの店舗では、取り扱いのある全90種類以上の卵から、日替わりラインナップに選ばれた約20種類の卵が店頭に並ぶ。

「幻の卵屋さん」の卵ラインナップの一部

気になる価格は、6個1セットで800円(税込)。卵の組み合わせは自由に選ぶことができる。一般的な卵と比べると高額だが、ブランド卵の食べ比べができるという点は他にはない魅力だ。中には、一風変わった試みで作られる卵も存在する。

ひとつひとつ個性ある卵が選べて楽しい

「兵庫県の『夢美人』という卵は鶏にモーツァルトの曲を聴かせて育てています。一般の卵よりも、味がまろやかになるそうです。富山県の『ちどりたまご』は、生の酒粕を餌として与えた鶏の卵。TKGにすると、冷めてきたときにほのかに酒粕の風味を感じます」

他にも「北陸物語日本海食べてご卵(たべてごらん)」という富山産の卵は、のどぐろ・甘海老・ずわいがに等を鶏に食べさせているというから驚きだ。

「海の幸に加えて地元ブランドの飼料米も与えているので、この卵を産む鶏は海鮮丼を食べて育ったようなものですね。白身は蟹の風味がして、塩をかけると魚介の味わいが出る珍しい卵です。色んな卵があるので、たくさん試してお気に入りの卵を見つけてもらえると嬉しいですね」

新規の卵の取り扱いは、研究所の理事全員で試食した上で決めているという。特に注目している点は生産者の養鶏に掛ける想いだ。

「卵は水と餌で99%味が決まるので、味見をすれば作り手のこだわりがわかるんです。私は、初めて食べる卵のテイスティングでは、白身を飲み、黄身を舐めて味を見ます。卵の味から養鶏に対する作り手の想いを感じ取っています」

卵の生食文化を世界に拡げる挑戦

日本たまごかけごはん研究所は、卵の生食文化を世界中に拡げることを最大のミッションとしている。しかし、現在卵を生で食べる文化は海外にほとんど存在しておらず、外国人からするとTKGは異様な食文化に見られるそうだ。

その理由は、海外の卵にサルモネラ感染症のリスクがあることが大きい。鶏舎の環境整備や卵の殺菌など、徹底したサルモネラ菌対策を行う日本と比べると、加熱処理が必須となる海外の卵は生食への障壁が高い。

「映画『ロッキー』で、主人公のロッキーがボクシングの試合に向けて過酷なトレーニングをするシーンがあります。その中でジョッキに生卵を5つ割り入れて一気に飲み干す場面がありますが、これを見た時の感想に日本人と海外の人では大きな隔たりがあります」

日本人からすると素早い栄養補給のための行動に思えるが、海外では見方が異なる。

「同じシーンを見た海外の人は『飲んだら死ぬかもしれない、危険な生卵を飲まざるをえないほど追い詰められている』という鬼気迫る印象を受けるそうです。ロッキー役のシルベスター・スタローンには、このシーンの撮影のために保険として出演料と別途でギャラが支払われたと言われています」

米国では、法律で外食での生卵の提供を禁じている州もあり、TKGを世界に広めるために乗り越えなければならない障害は多い。

一方、海外で生食文化の芽吹きを感じる事例も存在する。ハワイには、日本から輸入した技術を利用して生食可能な卵を生産する養鶏所があり、1日に8000個を売り上げる程人気を博しているそうだ。

年月が掛かっても、いつかTKGが世界で受け入れられる未来が作れると上野さんは考えている。

「ニューヨークに初めてお寿司屋さんができたのは1970年代です。それから50年経った現在、寿司は世界中で食べられる存在になりました。生の魚と同じように、生の卵も世界のどこにでもあるのですから、50年あればTKGも世界に広めることができると思っています」

50年後を見据えた日本たまごかけごはん研究所の挑戦はまだまだ始まったばかり。日本の国民食が世界のTKGへと羽ばたく未来に期待したい。

取材・文・撮影/内田陽 画像提供/日本たまごかけごはん研究所

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