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子どもがいじめの被害者にも加害者にもならないために必要なこと

集英社オンライン / 2022年8月4日 13時1分

大津市中2いじめ自殺事件、川崎市中1男子生徒殺害事件、旭川女子中学生いじめ凍死事件。誰もが「いじめ」や「犯罪」の被害者にも加害者にもなる可能性がある。そうした危険から身を守るための対処法が書かれた『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』(フォレスト出版)から一部抜粋・再構成してお届けする。

コロナの影響でいじめは減ったものの…

日本のいじめの現状を見ていきましょう。いじめの認知件数は毎年過去最多と報道されていますが、本当なのでしょうか。

2020(令和2)年度の文部科学省による調査(「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導 上の諸課題に関する調査」)では、2020年の小・中・高等学校および特別支援学校におけるいじめの認知件数(学校側が把握できているもの)は、51万7163件でした。前年の2019(令和元)年の認知件数61万2496件と比べると、かなり減少していますが、新型コロナウイルス感染症の影響で、物理的にも人との距離が離れたことが大きな理由として考えられています。


※文部科学省「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」を基に作成

実は、いじめの定義が法律的に定められた2013(平成25)年から、2019年まで毎年増加していました。2013年の18万5803件と比較すると、ここ数年で認知件数がかなり増えていることがわかるかと思います。

■学校側が積極的にいじめの事実を認めはじめている

続けて、いじめの状況もあわせて確認してみましょう。調査の対象になった全学校の中でいじめを認知した学校の割合は「78.9%」でした。ほとんどの学校でいじめが認知されていると言ってもいいかもしれません。

しかし、これらの数値だけを見て、「いじめが増えている!」「学校がいじめを放置しているから増えているんだ!」と考えるのは、少し早い判断です。

もちろん、突然いじめが急増した可能性もあります。ただ、学校におけるいじめが社会問題として強く認識されるようになり、学校側もいじめを隠すのではなく、積極的にいじめを認知して、対応するようになったために急増していることが考えられるわけです。

そのため、単純に学校の治安が悪化しているとは言い難く、むしろここで問題となるのは、「いじめを認知しなかった学校では、本当にいじめがなかったのか」という点です。

本当にいじめが根絶されているのか、それともいじめが放置されているのか。文部科学省も同じ懸念を有しているのか、次の通知を発しています。

いじめの認知件数がゼロであった場合は、当該事実を児童生徒や保護者向けに公表し、検証を仰ぐことで、認知漏れがないか確認すること。
―平成30年3月26日 いじめ防止対策の推進に関する調査結果に基づく勧告を踏まえた対応について(通知)

つまり、本当にいじめがないのか、保護者等からも聞けと指示しているのです。

学校や教師の隠蔽体質は改善されているのか?

大きないじめ事案が報道されると、「学校はなぜいじめを認めたがらないのか」という話が持ち上がります。昔は、「いじめのある教室は生徒を管理できていないダメな教室」として、担任教師が自身の評価への影響を恐れ、いじめを報告しないこともありました。

事案ごとにさまざまな理由が考えられますが、個人的には、大きないじめ事案の場合、「当該行為をいじめではないもの(ケンカやじゃれ合い)として認識して放置していた」、または「当該行為をいじめと認識しながらも適切な対応を講じなかった」結果、大きないじめ事案に至った例が多いように考えています。

一方で、大きないじめ事案にまで発展していない段階でも、教師と保護者の関係がこじれて話し合いが難航しているパターンや教師の多忙化、いじめ調査に時間を要して報告が遅れているケースなどがあると考えられます。

特に教師の多忙化は、「いじめ」に並ぶ教育現場の課題となっています。

このことを考えると、いじめの対応については、専門の担当者を窓口に配置して、保護者や生徒への対応やいじめの調査を一任させたほうが解決が早いと考えます。

実際、岐阜市ではいじめ自殺をきっかけに市内の全公立小中学校に「いじめ対策監」を配置し、教諭などから選ばれたかれらが「いじめの予防」と「早期発見・対応」を専門的に担っています。

※「いじめ対策監」とは…2019年に岐阜市内で派生したいじめ自殺の反省を基に創設された制度。いじめ対策監は、市内の全公立小中学校に各校1名ずつの他、いじめの早期発見、早期対応、発生時の対応を専任で行うことになっています。いじめの対応の中心に「いじめ対策監」を置くことで、学級担任の負担も軽減される効果も期待されます

このような動きは、これからも各地で見られていくようになるでしょう。

大津いじめ自殺事件では…

いじめっ子は罰せられないと思って、モヤモヤしている人も多いでしょう。

しかし、大津いじめ自殺事件においては、加害少年3人のうち、当時14歳だった2人は滋賀県警に暴行容疑などで書類送検され、大津地検によって大津家庭裁判所に送致されました。

また、13歳だった1人については、滋賀県警が暴行などの非行事実で児童相談所に送致し、児童相談所が大津家庭裁判所に送致しました。ただ、事件が大きくならないと加害生徒は罰せられないのか、との声もあります。しかし、現在の制度でも、学校側はいじめや校内暴力などの問題行動を起こす生徒に対しては、「出席停止」の措置を行うことができます(中学校までは義務教育ですので退学や停学にすることができない)。

これはあくまでも、いじめっ子の教育の機会を奪うものではなく、学校の秩序を維持し、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するためにとられる措置とされます。また、学校側は出席停止されたいじめっ子に対して、学校へ円滑に復帰できるよう学習を補完するなどの必要な対策をしなければならないとされています。

文部科学省は通知(問題行動を起こす児童生徒に対する指導について)などを通して、市町村教育委員会に対して出席停止措置をためらわずに検討するように要請しています。

しかし、出席停止措置の利用条件はたいへん厳しいものとなっており、学校側の負担が大きいことや、子どもの義務教育を受ける権利の保障の観点からも、なかなか利用が進んでいないのが実情です。

懲戒規定はないが…

では、いじめが発生した場合、担任教師を厳しく処罰することは可能なのでしょうか。まず、現行法上の話をすると、いじめが発生した場合にクラスの担任教師を処罰できるとする法律はありません。

また、いじめ防止対策推進法には教師に対する懲戒規定がありません。

しかし、いじめの放置や隠蔽など、いじめを認識していながらも適切な措置をとらなかった場合には、地方公務員法32条に違反することになりますし、東京都の場合には「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」によると、教師がいじめを助長したり、隠蔽したり、その他不適切な対応をしていた場合には、当該教師を懲戒処分する規定を設けているので処分される可能性があります。

最近だと、重大事態としていじめ調査を行わなかったことや、校長と教頭などが「いじめはなかった」旨を発言していたことは、職務上の義務に反し、国家賠償法上の違法になると判断された裁判例も出てきました。

この判例は「教師がいじめを否定すること」や「いじめによる不登校という重大事態 の調査を行わないこと」を司法が違法だと明言した点で非常に画期的なものでした。つまり、いじめを隠蔽したり、意図的に放置したりしても、教師は何も罰則を受けないということはないのです。

このように文部科学省は、むしろ積極的にいじめを発見して対応するように求めており、「いじめがある学校=ダメな学校」と認識していません。「先生に罰則があれば先生も必死にいじめを根絶してくれるのでは?」これもよくお問い合わせいただく話です。

いじめを根絶するのは難しい

たしかに、いじめが発生したらクビという処罰規定が定められたら、学校の先生は、必死になっていじめが発生しないように監視してくれるかもしれません。

しかし、いじめが発生する場所や理由について考えた際、多くの場合、学校の先生の見えないところで行われるものであり、発生する理由も些細なきっかけから始まり、徐々にエスカレートしていくことが多いわけです。

また、これまでの話から、いじめを完全にゼロにすることはたいへん難しいことは理解してもらえたかと思います。

たとえば、この状態で担任教師や学校にだけ過度な処罰規定を設けた場合、おそらく多くの学校はいじめを隠蔽してしまうか、「ふざけ合い」「じゃれ合い」といじめをなかなか認めようとしなくなるでしょう。いじめ被害者にとってはたいへん不幸なことになります。

「いじめは隠すものではなく、積極的に掘り下げて対応しよう」

これが現在の我が国の方針です。そのため、いじめが発生した段階での教師への処罰規定は設けておらず、悪質な隠蔽や放置など、いじめ防止への義務を意図的に怠った場合にのみ、当該教師を処罰できるようになっているのです。

『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』(フォレスト出版)

犯罪学教室のかなえ先生

2022年7月21日

1540円(税込)

単行本(ソフトカバー) ‏240ページ

ISBN:

978-4866801735

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