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バーベルの重さ、上げる早さを最適化。「無人個室AIジム」の驚くべき機能とは

集英社オンライン / 2022年8月10日 13時1分

次世代型マイクロジムの企画・開発・製造、およびトレーニングジムの店舗経営を行うスタートアップ企業・株式会社 ONE SLASH ONE(以下 1/ONE)が2022年5月9日、創業以来ステルスモードで開発を進めてきた次世代型マイクロジム「1/workout」のプロトタイプを公開した。同社のホームページによると、独自設計のトレーニングマシンや、AIカメラを駆使した無人個室が特徴のようだ。従来とは全く趣きが異なる新しいタイプのジムと、その開発の経緯を取材した。

趣味の筋トレにイノベーションを

無人のマイクロジム「1/workout」の開発を進めているのは、スタートアップ企業、1/ONE。2018年12月に設立し、非日常の空間で内省的に自分と向き合う時間を「第4の時間」とし、その創出を目的としている。



2022年5月9日、同社はニュースリリースにて「1/workout」プロトタイプを公開。そこにはバーベルのトレーニングマシン以外に目立つ設備がなく、専属のトレーナーもいない。従来のジムとは全く異なることがうかがえる。

こちらを開発した経緯や独自設計のトレーニングマシンなどについて、1/ONEの開発担当者と、マーケティング担当者に聞いた。

1/ONEの創業メンバーは共にGoogle出身で、職種は異なるものの、オフィスでは席が隣同士だった。当時、お互いに筋トレが共通の趣味であると知り、筋トレの世界にはテクノロジーによるイノベーションが起きていないと気づく。趣味で筋トレに励んでいたこともあり、思い浮かべていたアイデアを実現させようと、プロダクト開発に着手したというのがきっかけだ。

「バーベルを使ったフリーウェイト種目はトレーニング効果が高いと言われているので、これを一人でも安全かつ効率的に、かっこいい空間でストレスなくできるようにしようと、プロダクトを作ることにしました」(開発担当者)

Google時代とは全く異なる仕事内容だが、会社の立ち上げから約3年。開発してきたものが形になり、世の中に発信していくフェーズになった。

人間のトレーナーが行うサポートを機械で

バーベルのトレーニングは、腕、下半身、胸の筋肉など、バーベルひとつでいろいろな部位を鍛えることができる。しかし、種目を変えるごとにプレートを全て付け替え、バーベルの高さを変えなければならず、実際のトレーニング時間に比べて準備の時間のほうが圧倒的に長くなることもある。

「我々がまず実現したかったのは、セットアップの全自動化です。ユーザーはここでトレーニングするだけ。プレートを付けたり、種目に合わせてバーベルの高さを変えたりするのは、全て機械にやってほしいと考えて設計しました」(開発担当者)

これを実現する上で欠かせない部品の1つに『ボールねじ』がある。ボールねじはもともと、工場や倉庫で重いものを運ぶために利用されている。このマシンに採用したボールねじはかなり大きなものだが、昔から使われていて信頼性が高いという。

画像中央のらせん状の部品がボールねじ

ただし、ボールねじの動き方はそれを回転させるモーターに送る命令で大きく変わる。そこで、ボールねじの動きをコンピューターで制御し、さらにAIも活用している。「バーベルを持ったら台を下げる」「バーベルを載せたら台を上げる」など、ユーザーの動作に合わせた知的な動きができるようにした。

「マシンの物理的な機構はすごくシンプルで、古くからある技術を組み合わせています。しかし、それをコンピューターで、人間のトレーナーがしているようにサポートするという仕組みは、これまでになかったと自負しています」(開発担当者)

「アシスト機能」の追加に苦労

トレーニングマシンの製作には、東京都葛飾区の町工場・株式会社小川製作所が協力した。開発担当者の設計を形にできる企業を探した結果、紹介を経て同社に辿り着いた。

そして、トレーニングマシン初号機が2019年4月に完成。開発担当者が見込んだ通り、ボールねじの機構がバーベルの支持にも有効であると判明した。一方で失敗もあり、ユーザーがバーベルを持ち上げる際に、台を下から追従させるアシスト機能は実現できなかった。今回取材したのは、空間もプロダクトの一つとして設計された2号機で、そちらにはアシスト機能が備わっている。

アシスト機能を実現する台は、バーベルの下にある

「上級者になればなるほど、疲れてきたところから追加でさらに何repか(バーベルを上げ下げする回数、1repで1往復)やりたいというニーズがあるんです。パーソナルトレーニングでも、限界が近づいて来ると『もう一回』とアシストするんですけど、あれを機械で再現したかった。2号機では、それが実現できるようになりました」(開発担当者)

ボールねじは、正確な位置に正確なスピードでものを運ぶことには長けているが、人間が出している力に合わせた適切な力で制御するのは難しい。またアシスト機能改善やソフトウェアの大幅アップデートが必要となるなど、開発は想像以上の労力を要した。

なぜ筋トレにAIが必要なのか?

また「1/workout」では、3つの目的を達成するためにAIを活用している。1つ目は『安全性の確保』だ。非常に重いバーベルを動かすため、マシンが意図せぬ動きをしないよう、特定の状況・動作を検知すべくジムにカメラを9カ所に置いている。たとえば「室内で人が倒れていないか」というように、カメラに映っている人を判定し、AIがそれを学習することでトレーナーがいなくても安全が確保できる空間を作っていく。

AIカメラ(画像左)でユーザーを検知し、安全で科学的なトレーニングを提案

2つ目は、『VBT理論の実践』だ。VBT理論はVelocity-Based Trainingのことで、バーベルを上げる速さを最適化してトレーニングの効果を最大限に高める最先端のトレーニング理論だ。バーベルを全速力で上げて速さを計り、それに基づいてバーベルの重さや、上げる回数を決めてトレーニングを行う。日本ラグビーチームや、海外のプロスポーツチームにも普及しているトレーニング理論だ。

実は、バーベルを持ち上げられる重量の限界は、その日の体調によって変化する。体調が良ければ重くできるし、悪ければ軽くする。VBTでは常に全速力でバーベルを上げ続け、その速さに応じてバーベルの重さを調節。それでも一定の速度より遅くなったらトレーニング終了となる。こうすることで、その日の自分に合った負荷で、プロと同じ方法で身体を鍛えることができるという。

そして、3つ目は将来的な展望になるが、「AIによるフォーム指導」だ。フリーウェイトは、正しいフォームや力の入れ方でトレーニングできないと効果が薄い。当面の間はトレーナーがついて指導するが、最終的にはVBTに基づいた安全なトレーニングを1人ででき、初心者もトレーニングスキルが習得できるAIの開発を目標にしている。

ユーザーテストも好評、今後の予定は

筋トレ経験者を中心にVBT理論に基づいたトレーニングを体験してもらっているが、まるでプロのコーチに指導を受けているような質の高さが好評を得ているという。

「私も体感しましたが、最初は衝撃が走るんですよね。もうここでトレーニングを止めてしまうのか、と。ただ、それが正しいタイミング・重さだとわかるとトレーニングに対する考え方も変わりますよね。自分であともうちょっとかなと考えなくていいのは、トレーニングだけに集中できるので良いなと思います」(マーケティング担当者)

「追い込むことが絶対という、強いステレオタイプが筋トレにはあります。そこに対して『そんなことないですよ』というのがポイントなので、筋トレの経験が少ない方も抵抗なくやれると思います」(開発担当者)

「1/workout」製品版のイメージ(画像提供:1/ONE)

1/ONEでは、現在ソフトウェアのアップデートと最終製品に近い3号機の開発に着手しており、年内の完成を目指している。来年以降は順次3号機を展開予定で、ユーザートライアルを行った後に商用プロダクトとしてローンチ。将来的には、組み立て分解が可能で、どこにでも展開できるようなプロダクトを目指すという。また、すでに商業施設やホテルからも問い合わせを受けているとのことだ。

コンビニに行くように、至る所で筋トレができる。そんな未来が、やがて訪れるかもしれない。


文・撮影/若林健矢

次世代型マイクロジム「1/workout」の公式サイトはこちら。

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