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なぜ、みずほ銀行のATMばかりシステム障害が起きるのか?

集英社オンライン / 2022年8月18日 13時1分

また、みずほか!?――これまでみずほ銀行は、ATMが全国的にストップするなどの大きなシステム障害を3度起こしてきた。なぜ、みずほ銀行のATMばかりが止まるのか? 『みずほ、迷走の20年』を著した日本経済新聞社・河浪武史金融部長に、その理由を訊いた。

みずほ銀行ばかりが目立っているが…

第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が合併してみずほ銀行が発足したのは2002年4月。

資産規模では世界最大(当時)のメガバンクの誕生だった。ところが、その経営統合初日に大規模なシステム障害が発生。ATMでキャッシュカードが使えないなど、さまざまなトラブルが起こった。

2度目は2011年。東日本大震災から数日後に大規模なシステム障害が発生し、全国のATMが停止した。きっかけは義援金の振込が集中したことだった。記憶に新しいところでは、2021年2月に起こった全ATMの約7割が動かなくなるというトラブルもある。



以後、2022年2月までに軽微なものも含めて計11回ものシステム障害が繰り返された。日本経済新聞社・河浪武史金融部長はその原因をこう語る。

「じつは金融機関のシステム障害は日常茶飯事で、みずほ銀行に限らず、様々な銀行で発生しています。最近でも、今年のゴールデンウィークの最初の週末にあたる4月30日に三井住友銀行の本支店のATMやクレジットカード取引でシステム障害が発生しました。

金融庁の集計では、2021年度の国内発生件数は1700件もあります。システムが複雑化するデジタル時代の宿命ともいえるでしょう。にもかかわらず、みずほのシステム障害ばかりが印象に残っているのは、それぞれの大規模障害が、タイミングの悪さ、原因の根深さ、事後処理のまずさなどで際立っていたからだと思います」

2002年と2011年の大規模障害の原因は根深く、①組織、②不良債権問題、③古いシステムにあるという。

「合併比率1:1:1で3行が統合したのがみずほ。そのため、旧行を代表するリーダーが3人並立し、合併当時は"キングギドラ"なんて揶揄されていました。結果、真のリーダー不在で、意思決定が遅い組織になってしまった。また、縄張り意識が残り、組織のスリム化ができないといった弊害も顕著でした」

大幅なコストカットが招いた3度目の障害

持ち株会社と傘下2銀行の当初の役員総数は90人。それをぴったり30人ずつに旧行に割り振ったのがみずほ銀行という組織だった。一方、他のメガバンク2行を見てみると、三菱UFJフィナンシャル・グループは三菱東京とUFJが、三井住友フィナンシャルグループは住友とさくらが、それぞれ約1:0.6で合併。当初から三菱主導、住友主導の組織運営が明確だった。

「加えて、メガバンク3行の中でもっとも厳しい不良債権問題を抱えていました。コストがかかる組織運営を続け、不良債権処理に追われたことで、システム統合の費用を捻出できなかったのです。結局、1980年代に開発した化石のようなシステムをつぎはぎして使わざるをえませんでした。こうして起こったのが2002年と2011年の大規模障害です」(河浪氏)

他のメガバンクが2000年前後にシステムを刷新する中、みずほが新たな基幹システムの開発を始めたのは2011年、完全に刷新されたのは2019年のことだった。にもかかわらず、2021年、3度目の大規模障害が発生してしまう。

過去の障害の原因だったシステムが刷新され、組織的にも旧行対立もかなり解消され、収益面での改善もみられていた。それなのに、なぜ障害が再発したのか?

「ひとつの要因は、統合から20年の反省をふまえて、コストを大きく圧縮したことにあります。組織のスリム化が行なわれ、結果としてシステムの運営部門の人員が大きく減らされました。また、システム周辺で使うハード機器の交換も先延ばしにされました。

さらに、組織のスリム化にともない、行内が委縮してしまい、問題を上層部に報告しにくい組織になっていました。それを金融庁からは、『言うべきことを言わない』と指摘されました。実際、2018年に同じようなATMの障害が起きていたのですが、それが経営陣に矮小化して伝わっていたため、ATMの仕組みを変更するような予防策がとられなかったということが判明しています」(河浪氏)

では、今後4度目のトラブルは起こるのだろうか?

みずほだけの問題と言えるのか…

「小さなトラブルは発生すると思いますが、システムが新しくなったことにより、それが銀行全体に波及してシステムダウンしてしまった2002年や2011年のような大規模障害は起こりにくいと思います。いわゆる旧行対立についても、今や行員の約7割は統合後に入行した世代で、すでに問題は過去のものになりつつあります」

むしろ問題は、みずほが金融のデジタル化をリードしていけるか否かにあると河浪氏は指摘する。

「すでに金融界はフィンテックの時代に入っています。フィンテックとは、従来の金融サービスとテクノロジーを組み合わせたサービスのこと。みずほはシステム障害があったことで、デジタル化についてはマイナスからのスタートです。それを克服してチャレンジできるかどうかに注目しています」

キャッシュレス化が遅れる日本で今後のデジタル化はどうなるのか

一方で、『言うべきことを言わない』風土についてはどうか? 河浪氏は、若返った経営陣のもとで風通しが良くなったというが、「ただし」と続ける。

「みずほ迷走の背景にあるのは、『事なかれ主義』、『減点主義』、『無謬主義』。これらは日本型組織そのものの問題ともいえます。言いたいことを言わずに済ませ、失敗しないことを求め(結果、チャレンジの意欲を失わせ)、間違いに目をつぶり追及しない…。

和を重んじる日本社会の中で、これらを打破していくのは並大抵なことではないでしょう。『言うべきことを言う』ためには、個々人が常に自分を律し、他者を説得するだけの正しさを備える必要があります。私自身、自分に甘く、人に誇れるような立派な人間ではありません。

ですから、『みずほ、迷走の20年』をまとめる作業は、私にみずほの失敗をとがめる資格があるのかという"不愉快な自問"であったように思います」

みずほの失敗が日本型組織の弱点の縮図だとすれば、単にみずほを批判して終わるだけではなく、自分ごととしてとらえ、"不愉快な自問"をする機会にすべきなのかもしれない。

取材・文/鍋田吉郎

『みずほ、迷走の20年』(日経BP 日本経済新聞出版)

河浪 武史

2022年6月11日

1760円(税込)

文庫単行本(ソフトカバー) 240ページ

ISBN:

978-4-296-11375-0

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