加藤嘉一「ルーティンや大事なものを失ったとき、どう動けるか。それが肝心です。」

週プレNEWS / 2012年5月21日 15時0分

“あの出来事”からしばらくの間、ぼくは息をしていないも同然でした。



そんな状態からどう立ち直るのか。ぼくにとっても新しい挑戦でした

久しぶりの衝撃の報告です。

以前、「普段かからないはずの風邪をひいてしまい60秒ほど落ち込んだ」というお話をしましたが、今度は風邪どころの騒ぎじゃありません。このぼくが10日間ほどブルーな気持ちになったんですから……。

白状します。ぼくとしたことが、病院に行かなければならないほどのケガを負ってしまいました。テレビ番組のロケで、足元が滑るなかを全力で走り、ガラスに足を突っ込んで5針縫うはめに陥いったのです。

念のためにお断りしておくと、痛みに耐えかねてブルーになったわけではありません。医者からは「10日間は安静に」と言われましたが、ぼくに休んでいるヒマなどない。手術1時間後には仕事を再開しました。

なぜブルーになったのか。賢明な読者の皆さんならすでにお察しのことと思いますが、足をケガしたということは、すなわち「走れない」ということです。

この10年間、10日以上も走らなかったことはありません。ぼくにとってランニングは呼吸と同じですから、まさに無呼吸状態。塗炭(とたん)の苦しみとはこのことです。行く先々で「顔色悪いね」とか「肌艶がよくないね」と言われました。生気がなかったのでしょう。「おい俺、何をやっているんだ!」「おい俺、生きている資格があるのか!」と、自分を激しく責めました。

冷静に考えてみると、結局のところこれは自分自身の不注意にほかなりません。自己管理が行き届いていないからこういうことになるのです。油断して調子に乗っていたに違いない。

油断大敵。好事魔多し。うまくいっているときほど慎重に、アクセルだけでなくブレーキをきちんと踏むことが大事。「気の緩みは自分を危機に陥らせる」という教訓を身をもって知ることができました。ランニングにおいて“いい練習”と“故障”は紙一重ですが、それは人生も同じこと。ぼくのように何事も全力以上でやってしまう人間は、その境目を往々にして見失いがちなのかもしれない。

サッカー日本代表の本田圭佑(けいすけ)選手は、ケガをして所属チームで長期欠場を余儀なくされた際、「これはチャンスだ」と言っていました。面白いことができるかもしれない、と。それと一緒で、ぼくもケガを機に違う角度で物事を見て、ポジティブに自分を見つめ直そうと真剣に考えた。

これまでぼくは、一日24時間のうち1時間をランニングに割いてきました。ケガをした後は「時間的な余裕ができた」と考え、筋トレと読書にあてて穴埋めをしています。下半身に偏りがちだった筋肉を上半身にもつけるべく、激しく補強あるのみです。

ルーティンや大事なものを失ったとき、どう動けるか。それが肝心です。うろたえて引きこもってしまっては、失った意味がない。失って初めてわかるありがたみを全身で感じつつ、現状を把握して、やれることを全力でやること。信念を貫き通すことは大事ですが、貫きすぎた過程で見失うものもあるかもしれない。時には足を止め、周りを見わたしてひと息入れる余裕も必要なんだと知りました。

他者からの罵詈雑言(ばりぞうごん)に対しては、不思議なほどまったく心に痛みを感じないぼくですが、自省という部分で非常に痛みを感じた出来事でした。この借りは2倍、いや10倍にして必ず返します。こういう状況に追い込まれても燃えない男がいるというなら、なぜなのか逆に教えて!!

今週のひと言



大事なものを失ったときこそ、男の真価が問われるんです!

■加藤嘉一(かとう・よしかず)



1984年4月28日生まれ。高校卒業後、単身で北京大学へ留学。年間300回の取材、200本のコラム執筆、100回の講義をこなし、国境を越えて多くの著書を持つ国際コラムニスト。近著に『北朝鮮スーパーエリート達から日本人への伝言』(講談社)、『いま中国人は何を考えているのか』(日本経済新聞出版社)がある。



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