加藤嘉一「野田首相はどんな戦略があって尖閣諸島の『国有化』を打ち出したのか」

週プレNEWS / 2012年9月10日 15時0分

領土に関する問題について、ぼくの基本的な立場は「非難するだけでは



まったく解決しない」ということ。具体的な戦略の提示を強く望みます。

領土に関する議論が紛糾(ふんきゅう)しています。議論する上で大前提となるのは、政治家やメディア、国民が“この問題”の本質と背景を実情に即した形で理解している、ということです。それを知らずして意見を述べても、ぼくも含めて、犬の遠吠えにしかならない。

そもそも、実効支配「されている」竹島と、実効支配「している」尖閣諸島では日本の立場がまったく異なり、同列に語ることはできません。

竹島の問題は、間もなく任期満了を迎える李明博(イミョンバク)大統領の支持率低下という政局下において、政治的に利用された感が強い。韓国側が拒否する見込みとはいえ、日本が国際司法裁判所への共同提訴を呼び掛けたことで、少なくとも“領土問題が存在する”という国際的なアピールはできたでしょう。

尖閣に関しては1972年の日中国交正常化、そして78年の日中平和友好条約を締結する際に、当時の中国共産党首脳だった周恩来(しゅうおんらい)氏や鄧小平(とうしょうへい)氏が、「今はこの問題を取り上げるべきではない」と“棚上げ”し、次世代へ託しました。当時、日中間には“反覇権”という大義名分があり、ともにソ連に対抗して両国関係を実質的に推進することが急務だった。ぼくは、中国政府は今でも「棚上げでいい」と思っていると分析しています。

一方、少なくない日本人は「現状維持ではまずい」と思っているようです。経済発展を遂げ、軍事力も増強しつつある中国に尖閣を持っていかれるのではないか……という危機感が背景にあるようですが、こういう主張をする方は中国を買いかぶりすぎていると思います。今の中国にそんな余裕はありません。国内問題で精いっぱいです。

本当の危機は別のところにあります。

石原慎太郎東京都知事の“東京都買い取り発言”を受けて、野田首相は「国有化する」という政府方針を発表しました。考えてみれば、国家安全保障上の重要な問題について、いち地方自治体のトップの発言で国が動くというのはおかしな話ではありませんか? 野田首相はどのようなゴールを設定して、あの発言をしたのでしょうか?

閣内できちんと議論され、挙閣一致で提起された戦略なのでしょうか?

少なくともぼくが情報収集をした限り、今の野田内閣には明確なロードマップもビジョンも存在しない。これでは「苦し紛れに言ってしまった」感は否めません。

どんな戦略があって「国有化」という方針を打ち出したのかを論理立てて説明できないという状況が、日本の国益にとってどれほど危険なことか理解しないといけない。「領土問題は存在しない」という“原理原則”を繰り返すだけで国際社会で生きていけるのなら、外務省なんていう組織はそもそもいりません。現実はそうでないからこそ、各国とも対話と協商で問題を解決する調整機関を置いているわけです。

もし仮に今、ぼくが官房長官だったら国民に対してこう言います。

「わが国の立場として、法理的には領土問題は存在しません。しかし、外交的には“領土に関する紛争”は存在する、いや、むしろ悪化していると指摘せざるを得ない。国民の皆さんと一緒に、真剣に議論し、日本の立場を主張していく必要がある」

ただやみくもに相手国を非難するばかりでは、領土に関する問題の背景を理解する議論はまったく生まれない。今こそ「相手を知り、己を知る」という基本に立ち返らないといけない。なぜいつまでも思考停止しているのか、その理由を逆に教えて!!

今週のひとこと



「国有化」に関するロードマップは



いったいどこにあるんですか?

●加藤嘉一(かとう・よしかず)



1984年静岡県生まれ。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。国境を越えて多くの著書を持つ国際コラムニスト。最新刊『脱・中国論 日本人が中国とうまく付き合うための56のテーゼ』(日経BP社)が好評発売中!

 



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