アノニマスジャパン“覆面”座談会「われわれは“国際的ハッカー集団”ではない」

週プレNEWS / 2012年10月24日 13時0分

“アノニマス”の日本人メンバー。日本の官公庁などへのサイバー攻撃の翌月には渋谷で清掃活動を行い世間を驚かせた

今年6月、違法ダウンロードの刑事罰化を盛り込んだ著作権法改正案が衆参両院で可決された。だが、摘発対象となる違法行為の定義が不明確で「ザル法」「別件逮捕の温床」との批判も多い。そして、この法案に対して、強烈な反発を示し、抗議を繰り返す集団がいる。

その名も「アノニマス」。過去にはサイバー攻撃を武器にエジプトの独裁政権やメキシコの麻薬マフィアと渡り合ったこともあり、“国際的ハッカー集団”と呼ばれている。彼らは6月25日付で抗議声明を発表。日本の官公庁や日本音楽著作権協会(JASRAC)の関連サイトへのサイバー攻撃“オペレーションジャパン(OpJapan)”(*1)を開始した。一方、翌月にはアノニマスの日本人メンバーらが突如として東京・渋谷の街に出現し、マスク姿のまま平和的な清掃活動オフを実施して、世間を驚かせた。

彼らは何者で、何が目的なのか? 本誌はアノニマスの日本人メンバーを編集部に迎え、本邦初の独占座談会を開催した。

(*1)違法ダウンロードの刑事罰化を「多くの無実の市民を刑務所に入れる」として抗議し、海外のアノニマスが開始した、日本の官公庁や企業を対象とするサイバー攻撃の総称

■ハッカーじゃなくてもアノニマスになれる

―最初からストレートな質問をしますが、皆さんは、JASRACへのサイバー攻撃(*2)に関与していますか?

(*2)オペレーションジャパンが開始された後の6月27日、音楽の著作権を管理する日本音楽著作権協会(JASRAC)のサーバーが、アクセス集中によりダウンした事件

 答えは、ひとまずは「ノー」です。アノニマスジャパンのIRC(*3)には、違法行為の実行は話題にしてはいけないというルールがありますから。ただ、個人としてやっている人がいるかどうかは不明です。

(*3)Internet Relay Chat。文字チャット専用システムで、アノニマスはXChat-IRCというソフトを利用してメンバー同士でコミュニケーションを取っている

 自分で「ハッキングしました」なんて言う人はいないわけだし、誰にもわからない話なんだよね。それは日本だけでなく世界のアノニマスでも同じことだと思う。

 どこからがサイバー攻撃かも、線引きが難しい問題ですからね。

―アノニマスは企業などのホームページに侵入して、個人情報を抜いたりもしていますが、それもしていないんですか?

 はい。私はしていません。

 アノニマスジャパンで、日本国内を攻撃している人は少ないはずです。海外向けの攻撃に参加している人は、もしかしたらいるかもしれませんが……。



 ただ、本人にその気がなかったとしても、日本国内向けの「サイバー攻撃」にも加担しちゃった人は多いかもね。アノニマスに入った直後の頃、チャットに流れてるDDoS(*4)のURLを間違えてクリックして「結果的には“うっかり”攻撃に参加しちゃった」っていうのは、誰でもあり得る話なんじゃないの?

(*4)「Distributed Denial of Serviceattack」(分散型サービス拒否攻撃)の略称。多数のコンピューターから攻撃対象のサーバーなどに対して大量のデータを送りつけ、機能不全に陥れる(サイトを表示できなくする)攻撃手段

A・C・D あるかも(笑)。

 作成者不明のDDoSのURLは、よくチャットで流れてます。クリックは自己責任だし、対象も国内だけとは限らないですけど。

 民主党と自民党、JASRAC向けのはあったね。あと、「霞が関」と間違えて「霞ヶ浦河川事務所」のホームページを攻撃するDDoSも流れてる(笑)。たぶん海外の人が作ったから間違えたんだろうね。

 ただ、あれが本当に「誤爆」なのかは不明ですよ。もしかしたら、海外の人の仕業に見せかけるため、故意にミスしたのかもしれない。アノニマスのメンバーの間ですら、真相は謎なんです。

―これらの攻撃の効果はどこまであったんでしょう?

 自民党のホームページは落ちましたね……。

 JASRACも落ちた。

 サイトが復活したと思ったら、また落とされていたりね(笑)。

―当然、日本向け以外のDDoSもIRCには流れているわけですよね。

 常に何かのDDoSをIRC上で見るよね。最近は遺伝子組み換え食物問題への抗議ってことで、アメリカのモンサント社(*5)を攻撃するやつが多かった。

(*5)米国に本社を置く多国籍バイオ化学メーカー。遺伝子組み換え作物(GMO)の種子で世界の9割のシェアを有する一方、安全性についての情報開示が不十分なことや、GMO規制緩和へのロビー活動などが、欧米のジャーナリストによりしばしば批判されている

 あれっていつからでしたっけ。

 先月後半あたりから。それで、JASRAC攻撃が下火になった。『2ちゃんねる』の“祭り”と一緒で、みんな飽きたらやめるから(笑)。

 JASRACへの攻撃が終わったわけではないんですけどね。

―やっぱり、JASRACは“敵役”としてわかりやすいんですか?

 そうですね。アノニマスの抗議対象になりやすいのは、アンフェアなものや、既得権益を持っているものが多いです。

―でも、単に抗議するだけなら、ハッキングやDDoSで攻撃しなくてもいいと思うんですが……。

 うーん、「〇〇ハンターイ!」ってデモをしても、実際はなんの効果もないわけで。でも、「アノニマスが抗議として企業のサイトを落とした」となれば世間の耳目を集められる。抗議方法の是非については別としても、費用対効果はデモよりずっと高いと思うな。

 匿名性が担保されることも大きいでしょうね。

 その点、日本のアノニマスは平和だと思いますよ。「お掃除」など、サイバー攻撃とはまったく異なる形で抗議行動を起こしていますから。







***

独裁政権や麻薬マフィアとの対決や、違法なサイバーテロも辞さない海外のアノニマスと、日本のアノニマスとは少し毛色が異なるようだ。だが、その違いはなぜ生まれるのか。そもそも、アノニマスとはなんなのだろうか?

***

 アノニマスって“組織”じゃないんですよね。

 日本のマスコミだと“国際ハッカー集団”みたいな紹介をされることがあるけど、実態はかなり違う。別にハッカーじゃなくてもアノニマスになれる。

 アノニマスを定義するなら「表現の自由」や「インターネットの自由」を守るという大義に賛同している人たち……って感じかな。

―よくわかりません……。

 例えば“2ちゃんねらー”と呼ばれる人たちって、共通の思想なんてないし、組織も何もないでしょ? でも、“匿名で言いたいことが言える場”として自然に人が集まる。アノニマスもそれに似ていて、ある大義があって、それに共感する人たちが集まる“場”なんだよ。

 個人ではなくアノニマスという集団でなんとなくまとまることで、抗議行動の影響力も違ってきます。あと、メンバー同士でさまざまな情報を共有できる。

 個人的に、アノニマスはインターネットの“梁山泊”(中国の伝奇小説『水滸伝』において腐敗した体制を打破しようと義賊たちが集まった地名)だと思ってるね。

―では、皆さんがアノニマスのメンバーになった経緯は?

 以前から国際ニュースなんかでアノニマスの存在は知ってたんですよ。で、6月にJASRAC攻撃が始まった際に、ネットで調べてたら偶然にチャットサイトを見つけて、そのままメンバーに。居心地がよかったんですよね。

 抗議の方法がスマートだと思ったからかな。「情報強者」らしい矜持(きょうじ)を感じるというか。

 そう。「情報強者」たちが、第一線から情報を集めて共有している。しかも日本の場合は平和的な抗議方法を取っている。私もそこに惹かれました。6月に著作権法改正案が国会で通った際に、その是非に関する議論や客観的な情報をいちばんしっかり提示していたのもアノニマスでしたし。これはほかの問題に関する情報についても同じだと思います。





■無関係な企業を襲う是非

―アノニマスは国家や大企業にダメージを与えられるほどの力を持っているわけじゃないですか。それを誰かに恣意的に利用されたり、政治的な扇動で乱用されたりしたら、すごく危険ではないかと感じるんですが……。

 心配ないですよ。目的不明の攻撃対象がIRCに掲載されていることもありますが、そういうのには誰も興味を示しません。

 納得できる理由を提示されれば、賛同して動く感じです。まあ、脱原発系の団体の人が共闘を申し入れに来ることはけっこうありますけど、みんなスルーしますよね。

 確かに、海外のアノニマスを中心に、環境問題を重視する動きはありますよ。日本の技術力なら原発がいらない社会を実現できるんじゃないかと。

 でも、日本の脱原発は“プロ市民”団体の影響が大きいと感じるんで、スルーだね。前に「アノニマスが反原発デモに参加した」ってデマがツイッターで流れたけど、俺ら自身は「んなわけねえだろ!」ってネタにしてたし(笑)。

 彼らが個人としてアノニマスに入るならいいけど、「共闘して」みたいなのはちょっと違います。

 あと、「中国の反日デモへの仕返しをやって」というのも違う。政治的にはかなり中立的です。

B・C・D そうだよね。

―話題を変えます。今年8月と9月、スズキ自動車やソニーの顧客情報がアノニマスのハッキングを受けて流出しています。なぜ攻撃されたんでしょうか。

 違法ダウンロード刑罰化への抗議のなかで、「日本のありとあらゆる企業を攻撃する」と宣言した海外のアノニマスがいたんですよ。スズキやソニーはその流れでやられたのかなと。あと、ソニーはDDoS攻撃も受けてましたね。

 そうそう。ソニーは去年の4月、別件で攻撃対象になっていたことはありましたけど。今回攻撃を受けているのはJASRAC攻撃の余波でしょう。

―国の政策が気に入らないから無関係な日本企業を襲うのって、アリなんでしょうか? 中国の反日デモ隊が日系スーパーを襲撃するのとあまり変わらない気が……。

 いろんな人がいますから。それは特定の個人がやってることで、アノニマス全体の意思ってわけじゃないです。

 そうそう。







―では、皆さん個人はソニーやスズキへの攻撃に賛同しますか。

一同 うーん……。

 ただのミスかもしれませんし。

 仮に根拠に基づかない攻撃なら、僕は賛成しませんが……。

―個人的に、今回の違法ダウンロードの刑罰化はひどい法律だとは思いますが、ネットの完全な自由を認めてしまうと、著作権侵害とか児童ポルノの横行を事実上は容認することになる気がします。

 著作権侵害や児童ポルノを認めるわけじゃないですよ。ただ、罰する対象が明確に定義されないままだと、警察の恣意的な捜査や逮捕を認めることになるので……。

 著作権者とは関係のないところで警察が介入することが納得できないです。曖昧な解釈のもと、捜査権の拡大やインターネットの検閲につながる可能性もある。

 著作権法をなくせとか児童ポルノを認めろとは思いませんよ。ただ、既存の著作権法が今の時代にそぐわなくなってきたと思います。

***

確かに、「言論の自由を何よりも重視する」というアノニマスジャパンのメンバーたちの主張には、頷ける部分も多い。また、匿名の個人がサイバー空間を舞台に大企業や国家権力をきりきり舞いさせる行為は、傍目(はため)で野次馬的に眺める立場としてはスカッとするというのも否定できない。

だが、ネット上の“アノニマス”(名なし)の集合体であるがゆえの不安要素は大きい。海外のメンバーを含めた誰かの暴走を食い止めたり問題の責任を取ったりする自制的なシステムが存在しないのも確かなのだ。

彼らは社会にとって“有益”なのか、“害”なのか―最終的な答えが出るまでには、もうしばらくの時間が必要だろう。

(取材・文/安田峰俊 撮影/佐賀章広)

●「アノニマス」とは?



和訳すると“名なし”。匿名のハッカー集団。「表現とインターネットの自由」を脅かすものに対して、企業、国家問わずさまざまな形で抗議活動をする。日本の『2ちゃんねる』を模倣した海外サイト『4chan』が発祥とされている。2008年に行なわれた、アメリカの新興宗教・サイエントロジーの公式ウェブサイトへのサイバー攻撃で有名になった。近日、2回目の“お掃除”が行なわれる予定。詳細はアノニマスジャパンのツイッターで【https://twitter.com/Operation_ACS】



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