「バル」の隆盛が日本のレストラン文化を破壊する?

週プレNEWS / 2013年2月5日 6時0分

「バルにはない、レストランの価値をきちんと伝えていくことが私の課題」と語る、雑誌『料理通信』の編集長・君島佐和子氏

店の広さは10坪ほど、カウンター形式で、料理はノンジャンルだが本格的。内装は店主の個性が強く反映されていて、女性客が多い―。2、3年前から、こんな「バル」スタイルの店が東京で増えている。このバルブームをいち早く取り上げることで注目を集めた雑誌『料理通信』の編集長で、『外食2.0』の著者である君島佐和子氏に、日本の飲食最前線を聞いてみた。どうやら、バル全盛の現状に、一抹の不安を覚えているようだが……。

―バルが増えているのは、レストランの経営がどこも大変で、小さなお店ならリスクを軽減できるから、と本にはあります。

「ええ。客からしたら、『バル』という言葉もあると思います。『立ち飲み』だとちょっとオヤジな感じですけど、『バル』だとちょっと小じゃれたイメージになる。

それもあって、ひとりで来る女性の常連客が大勢いますね。人気のあるバルに行くと、彼女らは明らかに『自分の店』という表情をしています」

―料理も凝っているとか。

「以前取材したバルでは、5坪にも満たない広さでビストロ(レストランよりカジュアルな店)と変わらないクオリティの料理が提供されていました。値段も一皿300円から1000円ほど。中堅どころのシェフが店を閉めてバルの厨房に立つ、という例もあります」

―低価格でおいしいものが食べられるお店がたくさんある。東京の人は、こと外食の環境に関してはとても恵まれているわけですね。

「でも、プラスばかりでもないんですよね。というのも、バルの取材をしばらく続けていたスタッフが、久しぶりにレストランに行ったとき、『出てきた料理があまりにきれいで驚いた』と言ったことがあったんです」

―きれいというのは、盛り付けや内装のことですか?

「すべてですね。言葉を当てはめるとするなら、料理の『技術』や『センス』『洗練』ということになると思います。もっと人が納得するような説明をしたいと思っているのですけど……」

―レストランには、バルにない「何か」がある。

「そうです。でも、それはわかりづらい。さんざんバルを取材して、その上でレストランに戻ってみたら、確かに1万円のコースなら1万円の価値があるとわかる。そのよさを体で感じることができるのですが……」

―君島さんですらうまく言葉にできないとすると、普通の人にはなかなか気づきにくいことかもしれません。

「100円ショップで買えるものになんでわざわざ300円も出すのか、ってことですからね」

―これから本格的に低成長の時代に入っていったら、ますますレストランの価値は認められにくい世の中になりますね。

「フランスやイタリアに留学した後、日本でお店を出す人がどんどん減っていくでしょうね。日本人の料理人は向こうでとても評価されていて、有名レストランのトップに日本人シェフが就くことも増えてきました。本場で自分の店を持って、ミシュランの星を取る人もいます。東京ではコストパフォーマンスばかり見られがちだけど、パリならクリエイティビティがちゃんと評価される。それなら、日本に戻ってきて店を出す意味がなくなってしまいます」

―能力の高い人はいるけれど、社会状況がその人の力を伸ばすことを許容しない。だから力のある人は海外に出ていってしまう―。おそらく、今、日本のどの業界でも起きていることですね。

「そうです。だからこそ、バルにはないレストランの価値をきちんと伝えていくことが私の課題だと思っています」

(撮影/高橋定敬)

●君島佐和子(きみじま・さわこ)



1962年生まれ、栃木県出身。早稲田大学卒業後、パルコに入社。その後フリーライターを経て、95年『料理王国』編集部へ。2002年から編集長。06年6月、『料理通信』を創刊し編集長に

『外食2.0』



君島佐和子



朝日出版 987円



雑誌『料理通信』は、グルメ情報誌とはちょっと違う。料理人にも一般の料理好きにも読者がいて、マニアックながら食への愛情がたっぷり注がれた誌面を提供する。そんな雑誌の名物編集長が切り取る現代の食の姿とは。バルブームだけでなく、飲食の世界の日本人論など、多彩なトピックを論じる



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