あの有名企業を動かす宗教哲学とは?

週プレNEWS / 2013年2月12日 12時0分

「日本企業は国や社会のために、という発想が本当に強い」と語る宗教学者・島田裕巳氏

松下幸之助は池田大作を尊敬していて、松下電器の事業部制と創価学会の組織づくりは似ている。トヨタの哲学には、日蓮主義が説くナショナリズムと二宮尊徳の報徳思想の強い影響が見られる。ダスキンの創業者は便所掃除の研修で有名な一燈園(いっとうえん)に入信していた―。

こういったなじみの企業と宗教のエピソードはとても興味深いが、本書『7大企業を動かす宗教哲学―名経営者(カリスマ)、戦略の源』の神髄はそこにはない。企業と宗教という対極にありそうなふたつの存在が、組織として見たとき、いかに似ているか。理念がいかに人をまとめあげるか、がテーマだ。当代随一の宗教学者・島田裕巳氏が日本企業の核心に迫る。

―一般的に、宗教団体は前近代的で企業は近代的と思われていますよね。そんな正反対の両者が同じ手法で分析できる、と思ったきっかけはなんだったんですか。

「現代の経営学に巨大な影響を与えているピーター・ドラッカーは、前近代に『マネジメント』が実行されている組織は軍隊とカトリックの教会しかなかった、と言っているんですね。だから、宗教教団と企業が同じように分析できることは別に驚くことじゃない。

それに、宗教教団は『宗教活』と『収益事業』という2種類の活動をしている。教えを説く一方で、お布施を取ったり、本を売ったり、お寺が土地を貸したりしているでしょう。要は商売です。お金の集まる新宗教がたまに世間の話題になりますが、それも金集めの装置として、理念と組織がしっかり機能しているからですよね」

―企業は株式を公開して、宗教は教義を広めてお金を集める。

「そう。その構造がとても似ているわけです。その一方で、会社の経営という不確かなものを維持していくために神仏に祈りたい人もたくさんいる。例えば、資生堂は本社屋上に“成功稲荷”という神社を祀っています。ほかにもオフィスに神棚を置く企業は多くあって、総務課の人が管理をしたりするんですよね」

―組織論として、この本でいちばん興味深く読んだのがトヨタです。これだけのグローバル企業になったのに、本社はいまだに東京でも名古屋市でもなく、旧挙母(ころも)町(現・愛知県豊田市)にある。

「普通なら、本社は東京などの交通の便のいい場所に置きますが、トヨタは今も創業初期に工場が造られた挙母から離れていない。先日、挙母へ行ったんですが、トヨタの本拠地なのに田舎なんですね。そこに工場と本社がある」

―背景には、土地から離れられないという点で、農村から生まれた報徳思想の影響を見ていますね。しかし今後、日本で製造業を続けることが難しくなったとしたら、トヨタは挙母を捨てて別の場所へ工場も本社も移すのでしょうか。

「いえ、どんな状況にあってもトヨタは挙母を離れないと思います。ためこんだ内部留保も、そのためになら使うのでは。トヨタという村を守るためになら、どんなコストも払うでしょう」

―これから起業したいと思っている人も、やはり宗教思想をベースに考えるべきなのでしょうか。

「宗教をベースにするかどうかはともかく、『社会のため』という理念は必要でしょうね。必ずお客さんはいるわけだから、彼らを説得する論理は必要です。

この本を書いていて思ったのは、日本企業は国や社会のために、という発想が本当に強いですね。戦前は産業報国といって企業の発展が国に報いることとされたし、戦後も経済成長に直結すると思われた。ここまで国や社会のためにという発想は、アメリカにも中国にもない。それが日本企業の強さなんだと思います」

●島田裕巳(しまだ・ひろみ)



1953年生まれ、東京都出身。宗教学者、作家。日本女子大学教授などを経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。著書に『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)など

『7大企業を動かす宗教哲学―名経営者(カリスマ)、戦略の源』



島田裕巳



角川oneテーマ21 820円



宗教教団分析の手法で企業を分析すると、その企業の経営戦略が見えてくる。松下電器(現パナソニック)、ダイエー、トヨタ、サントリー、阪急電鉄、セゾングループ、ファーストリテイリング(ユニクロ)、これら日本を代表する7大企業の核心とは



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