加藤嘉一「中国側の狙いは紛争を常態化し、領土問題を認めさせること」

週プレNEWS / 2013年2月25日 15時0分

尖閣諸島をめぐり、緊張感が高まる日中関係。日本政府による戦略なき「国有化」が、中国につけ入るスキを与えてしまいました。

2月5日、日本政府は尖閣諸島周辺で中国海軍の艦船が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用レーダーを照射したと発表。中国外交部は「知らなかった。主管部門に聞いてくれ」と言い張り、国防部は「真相を究明した結果、日本政府の主張は事実と反する捏造である」と、逆に反発してきました。

当該海・空域では日中が互いに牽制し合い、国内世論的にも妥協できない緊張関係が続いています。

日本国は尖閣諸島に関して「領土問題は存在しない」という姿勢で、1972年の日中国交正常化以来、粛々と「実効支配」を続けてきました。昨年9月に尖閣諸島を国有化した際も、この「実効支配」が前提となっていました。

一方、中国政府は日本の国有化に猛反発。前代未聞の反日デモが勃発し、日本企業・国民の“対中アレルギー”を増幅させました。「尖閣諸島には領土問題が存在する」ことを日本に認めさせるため、世論・情報戦を通じて国際社会に強くアピールしました。

中国の主張は日増しに強硬的になっていきます。

「そもそも、日本の実効支配など認めていない」

日本の実効支配を認めた上で国交正常化・平和友好条約交渉に臨んだ周恩来(しゅうおんらい)や鄧小平(とうしょうへい)といった、歴代リーダーのスタンスを覆す論調すら出始めたのです。

尖閣付近に日中政府双方の艦船や航空機が“同時に存在する”、すなわち“紛争が常態化している”ことを既成事実化する。これが昨今の中国政府の政策目標です。最近の尖閣周辺海・空域での出来事の背景にも、こうした方針があると考えればわかりやすい。

昨年10月、ある中国政府関係者からこんな言い分を聞きました。

「(昨年9月に尖閣諸島を国有化した当時の)野田首相にはありがとうと言いたい。尖閣諸島における日本の実効支配がなくなる日がくるのだから」



日本の実効支配という情勢下では、中国政府は尖閣へ艦船や航空機を派遣する“政治的動機”を見いだせずにいた。そんななか、日本政府が国有化したおかげで「国有化への反対」という大義名分ができた。“紛争常態化”が既成事実となれば、国内世論と国際社会はおのずと「領土問題が存在する」と認識し、目標は達成される、というロジックです。だからこそ、ビッグチャンスをくれた野田さんに感謝する―ということなのでしょう。

結果的に、ビジョンもフォーメーションも出来上がっていない状態で国有化に踏み切った日本政府は、みすみす中国につけ入るスキを与えてしまったのです。

とはいうものの、「中国が尖閣諸島を実効支配しようと出てくるのでは?」という懸念については、ぼくは「そこまではいかない」とお答えします。新たに発足した習近平(しゅうきんぺい)政権は国内の諸問題に対応するだけで手いっぱいですから、尖閣に関しては「領土問題が存在する」ことを国内外にアピールできれば及第点。一定の成果が見えた段階で“棚上げ”されるでしょう。

歴史的にも地政学的にも、尖閣問題は日本最大の同盟国であるアメリカの国益・国際益に直接的に影響を与えるデリケートな事案。米政府高官からも「制御不能な情勢に陥るかもしれない」という声が漏れている。

中国は、最大のライバルであるアメリカの動きを見ながら、日本に対して牽制球を投げてきます。

日本側に必要なのは、中長期的国益に資する現実的な“落としどころ”を狙って中国側と話し合い、その過程でアメリカの力を上手に応用することです。この期に及んで「中国が好き、嫌い」という尺度でしか物事を考えない人、その理由を逆に教えて!!

今週のひと言



中国側の狙いは「領土問題を認めさせる」



&「紛争の常態化」です!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)



日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!

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