海には石油30万年分のマグネシウムが溶けている

週プレNEWS / 2013年3月12日 15時0分

矢部教授の研究室の屋上にある、太陽光を利用したレーザー装置の試作機。海水から得た塩化マグネシウムにレーザー光線を当てるとマグネシウムが生まれる

東京工業大学の矢部孝教授が発明した「フィルム型マグネシウム電池」は、スマホなら1ヵ月充電不要で使えるほどの高性能だという。安価でもあり、もし実用化されれば、全世界30億人のケータイ・スマホユーザーが一斉に買い求めるのは間違いない。しかし、疑問も残る。

スマホ1台を動かすのに、マグネシウム電池はマグネシウム30グラムを必要とする。全世界のケータイ・スマホユーザーのためには、計90万トンのマグネシウムが必要になる計算になる。これは現在の世界の年間生産量60万トンを軽く超えてしまうのだ。

ところが、矢部教授は「それをはるかに上回るマグネシウムはある」と断言する。

「海です。海には、石油30万年分に相当するマグネシウム、約1800兆トンが溶けています」

豆腐を買うと、原材料名に「にがり(塩化マグネシウム)」と書かれている。にがりは、海水から塩を取る過程で分離されるマグネシウムだ。2007年、矢部教授は、そのにがりを低コストで集めるため、海水の淡水化を手がけるベンチャー企業を起こした。

その淡水化のノウハウは企業秘密だが、ここで得た塩化マグネシウムにレーザー光線を当てるとマグネシウムが生まれる。つまり、マグネシウムは今後、自給できる純国産エネルギーにもなる。

また、その過程で使用するレーザー装置にも、矢部教授はコストのかからない太陽光を利用したものを開発中で、研究室の屋上にはその試作機がある。フレームなどは廃材を利用し、研究室の学生たちと組み立てた。製作費は114万円。備えつけたレンズを通して、太陽光線をクロムとネオジムという金属を含む物質に当てるとレーザー光線が出るという。

ただし、レンズの透明度を上げるのにあと数年かかるため、その間は市販のレーザー装置を使う。「そうしないと、爆発的に増えるマグネシウム需要に対応できませんので」と矢部教授は語る。

そんな教授は2005年から太陽光レーザーの実験を始めているが、いつも対峙(たいじ)してきたのが資金難。しばらくは市販のレーザー装置を使わざるを得ないのも、数年前に予定していた沖縄県宮古島での太陽光レーザー装置の大規模実証実験が、資金獲得に至らず中断したことも影響している。

2006年度に文部科学省から得た予算600万円を研究室の屋上でのレーザー実験に使ったことはあるが、それは例外的で、国への助成金申請などは認められたことがないという。

「覚えている限りで約10回は研究費の申請を出しましたが、国が私に下すのはいつも最低評価。理由は『技術的実現が望めない』というものです」

それでも矢部教授は腐らずに研究を続けてきた。そして今、ようやく国内の大企業、そして海外の企業から注目されるに至った。スマホのほか、電気自動車(EV)への応用も期待されている。

「『技術的実現が望めない』なんて冗談じゃない。私の技術は絶対にうまくいきます。ハリウッド映画にしてもいいくらいです(笑)。今年、来年と見ていてください。自動車の次は電車も動かしますから」

出火・発煙事故で話題になった最新鋭旅客機(ボーイング787)やEVからスマホまで、現在の主流はリチウムイオン電池。だが、安全性でも性能面でも大きく上回るマグネシウム電池が新しいスタンダードとなる日も、決して遠くはないのかもしれない。

(取材・文/樫田秀樹、撮影/五十嵐和博)

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