潜入密着! “ジェネリック家電”はこうしてできる

週プレNEWS / 2013年4月10日 6時0分

山善がトップシェアを誇る扇風機は、圧倒的な安さとシンプルな機能で売れに売れた。その中から生まれたのが、この「究極の省エネ扇風機」YHX-AD30だ

あまり名を聞かないメーカーが製造する激安商品なのに、有名メーカーの人気商品に負けない性能を持つ“ジェネリック家電。それらは有名ブランド製品とは違って、なんとなく作られ、なんとなく販売されていると思うかもしれない。だが、それは大間違い。その陰にはアツく燃える人々がいるのだ!

【1、商品企画】 消費者のニーズを探せ!

企業間では有名だったが、一般の消費者にとってはなじみの薄かった会社が、ある製品によって広く存在を知られることになった。

その会社の名は「山善」。そして、その製品は“扇風機”。

昭和の遺物と思われていたローテク家電が脚光を浴びたきっかけは、3・11東日本大震災だった。福島第一原発の事故から始まった電力不足。国を挙げての節電のなか、人々が猛暑の夏を乗り切れたのは扇風機の涼風のおかげだったのだ。

閉塞感(へいそくかん)に満ちたデフレ経済のなかにあって、山善の扇風機は売れに売れた。最大の武器は大手メーカーにはまねのできない圧倒的な安さと、基本動作のみに機能を絞ったシンプルさ。

実は、山善がトップシェアを誇るのは扇風機だけではない。ホットカーペット、たこ焼き器、コタツ……。いずれも数千円で買える背伸びしない価格帯。大手メーカー製と同等の性能を持ちながら、販売価格では大きく下回る、まさに“ジェネリック家電”だ。

2012年、山善は350万台もの扇風機を売りまくった。だが、その数字と内容に満足しない男がいた。彼の名は森貴紀。主任として山善の東京通販課を支える敏腕営業マンだ。

「ただ売れればいいのか? ただ安ければいいのか? 扇風機はまだまだ節電できるはずだ。安くて便利で省エネ、これこそ市場が本当に求めている製品ではないのか……」

そんな森主任たちの声が、山善の商品開発担当者に届いた。

「わかった。それならDCモーターを使えば50%以上も節電できる。お客さまに喜んでもらえるのは間違いない。ただ、高価なDCモーター搭載の扇風機を安く売るには、膨大な数の生産と販売が必要だ。本当に営業の協力は得られるのか……」

もちろん、森主任ら営業サイドに異存はなかった。

「よし、DCモーター搭載の省エネ扇風機を作って、お客さまを喜ばせよう!」

しかし、実現するには新たに販路を広げなければならない。そのとき、森主任の脳裏をある会社の名前がよぎった……。

【2、営業】 アツい心で交渉だ!

同じ時期、日本の流通に風穴をあけようとする企業があった。

その名は「アスクル」。中小企業向けに文具の通信販売から始まった会社は、社名の示すとおり“注文すれば明日来る”便利さで、今や日本企業の3社に1社が利用する。

2012年、創業20年を迎え、岩田彰一郎(しょういちろう)社長は積み重ねた企業向け通販のノウハウを、一般顧客向けのネット通販に展開できないかと考えた。そのために選んだ道が、ヤフーとの提携によるLOHACO(ロハコ)というネット通販だった。

LOHACOでは、掘田尚志マネジャーをはじめとする敏腕バイヤーたちがアンテナを張り巡らせ、売れ筋商品に加え、アウトレット商品や、水など重量物の小ロット配達も展開。その掘田マネジャーのもとへ、山善の森主任が営業に訪れた。

山善の開発したジェネリック家電、YHX-AD30はリビングタイプの扇風機だ。DCモーターの採用で、「弱」運転なら一日8時間使用しても、1ヵ月の電気代はわずか22円程度。ACモーターを搭載した従来製品に比べて8割近い省エネが達成可能となる。

「安い扇風機なら、いくらでもある。しかし、LOHACOさんなら安くDC扇風機を販売することの意味がわかってもらえるのではないか……」

森主任が、額に汗しながらアツい口調で商品説明を続ける。

じっと聞き入っていた堀田マネジャーが大きくうなずいた。

「いいですね。これでいきましょう!」

【3、販売】 ひとつずつ丁寧に!

こうして山善のDCモーター扇風機YHX-AD30は、LOHACOのイチオシ商品として3月27日にサイトアップされた。厳しい品質管理のもとで製造された製品が巨大な流通センターに次々と納められ、Web販売ページの制作が行なわれて、あとは注文を待つだけだ。

LOHACOが掲げるスローガン「くらしをかるくする」と、山善の「お客さまの喜ぶ顔が見たい」という理念とが、ここにピッタリと重なった。

しかし、ネット通販の世界で成功するためには、理念だけでは通用しない。どうしても超えなければならないリアルで巨大な壁があるからだ。

その名は「アマゾン」。究極にシステマチックなアメリカ流の販売方法と、無限とも思える膨大な品ぞろえは、すでに同業他社を完全に圧倒している。サイト上でのシンプルで洗練された注文方法と、おなじみの画一的なパッキングは、デジタル時代の超効率型通販のシンボルともなっている。この世にアマゾンを超えるシステムが存在するのだろうか?

LOHACOが選んだ道は、注文した客に人のぬくもりを伝える“アナログ感”のようにも見える。

デジタルの世界にアナログな買い物感を加えることによって、日本らしい“顧客と販売店のつながり”を感じさせるのだ。例えば、一品一品丁寧な手作業による梱包は、「また利用しよう」というリピーターを増やすことにつながった。

グローバル化した今の日本で、粗悪な安物家電を作ることなら簡単にできる。しかし、そのような安いだけで血の通わない製品をジェネリック家電とは呼びたくない。

製造メーカーから小売店まで、商品企画から営業、販売までの各担当者が一体となってユーザーのことを第一に考えたとき、初めて安価で本当に役立つ製品が見えてくる。

「お客さまに少しでも安く、いい製品を届けたい」という情熱を持った人たちが日本企業にいる限り、これからも質の高いジェネリック家電が生み出され続けるだろう。

(取材・文/近兼拓史)

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