日本を待ち受けるTPP交渉の“重たいハンデ”

週プレNEWS / 2013年4月10日 9時0分

3月15日、安倍晋三首相はTPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉への参加表明を行なった。交渉が始まるまで内容は非公開だが、その会合を自らの目で見てきた日本人女性がいる。NPO法人「アジア太平洋資料センター」(PARC)事務局長の内田聖子氏だ。

内田氏が“潜入”したのは、3月4日から13日にかけてシンガポールで行なわれた第16回のTPP交渉会合。以前から交流のあったアメリカのNGO(非政府組織)のメンバーとして登録をしてもらい、TPPのステークホルダー(利害関係者)として参加したのだという。だが、その交渉の実態を目の当たりにして、内田氏はショックを受ける。

「私たち国際NGOチームが得たリーク情報ですが、アメリカのある交渉担当官は会議の場で日本の『TPP参加』にも触れ、こう言いました。『日本が参加することになっても、事前に交渉テキストを見ることもできなければ、すでに確定した項目についていかなる修正や文言の変更も認められない。新たな提案もできない』と」

日本国民にとって、聞き捨てならない現場の話はさらに続く。

「同じアメリカの交渉担当官が、正式な交渉の場で他国に対し、『7月までに日本との二国間協議を終わらせておいてほしい。日本の最初の参加は9月のアメリカでの交渉会合である』と述べたそうです。その9月の交渉会合というのは、交渉参加国の首脳がAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で交渉を“完了した”とサインするであろうといわれている10月のわずか1ヵ月前です。しかも、アメリカが議長国だから『異論や再交渉の要求が日本からあっても押さえつけることが可能だ』と交渉官は述べたようです」

ということは、日本が交渉に参加できるのは9月の1回のみという可能性も高いということだ。

“重たいハンデ”を背負うことになった日本政府は、関係省庁や国際弁護士などの精鋭50人でTPP交渉に当たる方針を発表。全体を取りまとめる首席交渉官には、鶴岡公二外務審議官を指名した。このチーム編成について、元レバノン特命全権大使で、著書に『外交力でアメリカを超える』がある作家の天木直人氏がこう評す。

「最終的に約100人体制にするというから、TPPにかける意気込みを感じます。それに加えて首席交渉官に抜てきした鶴岡氏は国連大使を務めた父親を持ち、その突出した英語力で次期事務次官候補の筆頭と目されている優秀な“ネゴシエーター”です。省内に限っていえば、彼以外の適任者は見当たりませんね」

省内に限れば……というのはどういうことか?

「本来、TPP交渉のリーダーなんて重責を担うポストは外務省のOBが引き受けるべきで、実際、対米交渉経験者で暇を持て余している官僚OBはゴロゴロいます。でも、みんな逃げたんでしょうね。それだけTPP交渉は厄介になるということ」(天木氏)

では、そんなTPP交渉の難しさとはなんだろう。

「日本にとってのTPP交渉とは、日本の市場開放と構造改革を狙うアメリカとの二国間交渉を意味します。そして、日本のTPP参加はオバマ大統領ではなく、最終的にはアメリカ議会の承認を得なければならない。おそらく、これまで水面下で行なってきた事前交渉で、アメリカはさまざまな要求を突きつけ、日本はそれをのまされてきた経緯があるはず。今年1月、BSE問題後に厳格化したアメリカ産牛肉の輸入規制を緩和しましたが、これもその一環でしょう。まだ明らかになっていない密室の合意はほかにもあるはずです。交渉上手なアメリカ相手に“聖域”を守るのは至難の業(わざ)。鶴岡氏は貧乏クジを引かされた」(天木氏)

国民に「この国を守る」と約束してTPP参加を表明した安倍首相。彼は日米首脳会談後、「聖域なき関税撤廃が前提ではないと確認した」と語ったが、困難が予想される交渉をどう乗り切るのか? もう、後戻りはできない。

(取材・文/興山英雄)

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