ネットによって失われる、“見えないもの”への想像力

週プレNEWS / 2013年4月16日 6時0分

「『原発推進か反対か』という問題の下に、地域の歴史や産業、子育てのことなど、さまざまなテーマが隠れている」と語る開沼博氏

福島第一原発で事故が起こった直後に、大著『「フクシマ」論』(青土社)を上梓(じょうし)し、一躍、論壇の寵児となった開沼博氏。東京大学大学院で学ぶ若き社会学者である彼は、一方で、学部生時代から『実話ナックルズ』(ミリオン出版)などでライターとしても活動している。『漂白される社会』は、そんなアカデミズムとジャーナリズムを往復する氏が、体当たりのフィールドワークを通して現代社会の裏側を炙(あぶ)り出した、刺激的かつ知的なノンフィクション本だ。

―この本には、ホームレスギャルや過激派といったさまざまな取材対象が登場します。時には、暴行事件を起こしたブラジル人青年を家に泊めたりと、踏み込んだ取材活動には驚かされました。

「僕は、人を泊めたりするのもあまり気にしないたちなので(笑)。ホームレスギャルの子たちだって、安い中華屋で飯を食わせてあげてたくらいなものです。ただ、過激派の取材では、彼らの発行する新聞を買ったり、週に一度は会ったりと、とにかく場数は踏んできましたけどね」

―社会からはみ出したアウトローな人々に惹かれるんでしょうか?

「アウトローというより、“頭のいい人”が僕は好きなんです。彼らは、裸になっても社会で生き残っていける強さがある。海外では、そうしたアウトローの世界にも学者が飛び込んだりしますが、日本のアカデミズムは現場を見ずに、安全・平和なところでお高くとまっている。僕がこの本を書いた動機には、『取材するならここまでやれ』という気持ちと、これによってアカデミズム/ジャーナリズムの枠を広げたいという思いもありましたね」

―この本は、かつて柳田國男や宮本常一(つねいち)といった民俗学の先人が、現場に分け入って新たな知を獲得したことを引き継ぐ仕事だと思います。一方で、現代に生きるわれわれは、ネットで調べてすべて知ったような気になってしまうときがあります。

「昔は、“一般人には見えないものがある”ということは自明でした。しかし、ネットによって、“何もかもが見えている”と錯覚しやすくなった結果、本当に不可視なものの存在が隠されるようになったんですね。例えば原発の話でも、『原発推進か反対か』という問題の下に、地域の歴史や産業、子育てのことなど、さまざまなテーマが隠れている。いまだ意識化されていないそうした問題を見つける作業は、フロイトの言う『無意識』の世界の出来事を『意識』の側に引き上げることにたとえられるかもしれない。僕が『「フクシマ」論』以来、一貫してやってきているのは、そうした周縁にある問題を意識化し、“知の相対化”を行なうということなんです」

―開沼さんは、さまざまな周縁的なものが覆い隠される現代社会を、「漂白される社会」と名づけていますね。

「現在、暴対法や歌舞伎町の浄化作戦によって、ますます社会が『漂白』され清潔になったように見えます。一方で、論点を間違えた脱原発デモや最近の排外主義デモのように、弱者を慮(おもんぱか)っているようで差別的なことが“普通の人々”によって行なわれている。もはや、これは安全や清潔へのアディクション(依存症)です。しかし、アルコール依存症患者から酒を取り上げても根本的な治療にはならないように、その根底にある動機を探り当てなければ解決にならない。僕は、今後もこうした社会の周縁にある問題の核心を洗い出す仕事を続けていきたいですね」

(取材・文/西中賢治 撮影/本田雄士)

●開沼博(かいぬま・ひろし)




1984年生まれ、福島県出身。社会学者。福島大学特任研究員。東京大学大学院博士課程在籍。哲学者の東浩紀氏が主宰する「福島第一原発観光地化計画」のコアメンバーも務める

■『漂白される社会』




ダイヤモンド社 1890円




ネズミ講がはびこるシェアハウスの実態や、偽装結婚、援交デリバリー、脱法ドラッグまで、さまざまな現場をフィールドワークしたノンフィクション本。本書の中で扱われた「移動キャバクラ」は、NHKの番組などでも取り上げられた




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