NHKを退職した堀潤アナが胸中を語る「僕は日本のメディアを変えたいと思ってNHKに入ったんです」

週プレNEWS / 2013年4月22日 6時0分

『ニュースウオッチ9』を担当した堀潤アナは、なぜNHKを辞め、そして今後何をしていくのか?

「NHKはSPEEDIの存在を知りながら、『精度の信頼性に欠ける』とした文部科学省の方針に沿って自らデータを報道することをやめた。国民の生命、財産を守る公共放送の役割を果たさなかった。私たちの不作為を徹底的に反省し、謝罪しなければならない」とツイッターで語った元NHKの人気アナウンサー堀潤氏。彼はなぜNHKを辞め、そして今後何をしていくのか?

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―堀さんは4月1日付けでNHKを退局されましたが、そもそも、なんでNHKに入ろうと思ったんですか?

 僕が高校生の頃に松本サリン事件が起こりました。そのときに、なんの罪もない会社員が、マスコミによって犯人に仕立て上げられたのを目の当たりにしたんです。

その後、大学ではプロパガンダに興味を持ち、「ナチスドイツと太平洋戦争下のNHK」を卒論のテーマにしました。戦後、ドイツは「なぜナチスを生み出してしまったのか?」「国家体制やメディアのあり方」などを自分たちで検証して、国をつくり変えたわけです。ところが日本を見てみると、ほとんど国家体制は変わっていません。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、NHKなど、戦前も戦後も同じメディアが存続しています。

そんななかでも、新聞は戦後、なぜ大本営発表に加担したかを反省し、新たな決意を社説などに載せました。しかし、放送は明確な謝罪はなく、「仕方がなかった」というんです。

それで僕は、日本を代表する放送局のNHKが変わらなければ、日本はいつまでも変われないと思い、どうせなら自分がNHKの中に入って内側から変えてやろうと考えたんです。

―入局の頃からNHKを変えようと思っていたんですか?

 そうなんですよ。だから最終面接でも同じような話をしました。理事から「君はNHKみたいな大組織を変えられると思ってるのか?」と聞かれたので「一生懸命、話をすれば変わると思います」と答えました。そうしたら、面接官がワハハハハと笑って「そう思うんだったら一緒にやっていこう」と言ったんです。だから、それが僕とNHKとの約束だと思っていたので、NHKを変えるために一生懸命、頑張っていたんです。




―そんななか、“3・11”が起こり、2011年12月の堀さんの「国や組織に期待してはだめだ。僕らで動こう。僕らで考えよう。僕らでこの国を変えよう」というNHK公式ツイートが問題になりました。その後も個人アカウントで発信した反原発発言などが問題となりましたが、そもそも〝国や組織に期待してはだめだ”という発言の意味はどういうことだったんですか。

 NHKに限らず、民放も新聞社も出版社もそうですが、ひとりの記者がとってきた情報が、最終的に報道されるまで、多くの人が関わりますよね。テレビの場合は記者がいて、ディレクターがいて、編集マンがいて、編集デスクがいて、アナウンサーがいて……といろいろなところでチェックが入ってひとつの製品になるわけです。

その流れのなかで、現場の記者がグレーと判断していた情報をデスクが「白か黒かでいうと、黒のほうが強いよな。よし黒を強めるぞ」と方向づけし、さらに見出しをつける担当者も、「黒という方向でいいですか?」となって報道されれば、あるとき問題が起こったりします。

もともとグレーだったものを白か黒かどちらかの方向に設定して、わかりやすくするという作業がニュースの制作現場では続いてきました。これでは情報を限定してしまう。すごく危ういわけです。

そこで、自分たちの生活をより良くするためには、情報の選択や発信を人任せにするのではなく、自分たちで選択したり自分たちから発信することが必要だと思って“僕らが動くしかない”と言ったんです。

―そうだったのですか……。

 そこで、じゃあ自分は何ができるのかを考えました。これまでの方法以外に何か違うやり方があるのではないかと。

現場の記者は、原発の取材に行ったり、TPP関連の取材に行ったり、企業の不祥事を追ったりしますよね。ひとりの記者が一日取材していると一日分の情報を得るわけです。そうした情報の中には「こんなの記事にならねえよ」ってデスクから言われるものも多いかもしれません。でも、記事にはならないかもしれないけれど、取材をしていて「こんなことがあっていいのか?」って感じることはあるじゃないですか。記者って、そういう取材メモがたくさんたまっていくわけですよね。

―はいはい……。

 だから、ニュース番組の続きをネットで放送する。そうすれば、「僕が取材した中には、こういう情報もあったよ」とか「この取材の内容は隠したわけではなく、ものすごく偏った意見だから様子を見るために放送しませんでした」とか、ニュースが作られるまでの過程をオープンにできるんです。そうすれば、今のメディアへの不信を少しでも改善できるんじゃないかと思っていて、ツイッターで実践していたんです。




―堀さんは、中からNHKを変えようと頑張っていたわけですね。

 そうですね。でも、既存のメディアのルールからすると、内部情報の漏洩(ろうえい)とか規約違反になるわけです。僕はすごく新しいことをやりたいんだけれども、組織のほうが追いついてこない。だったら、もう辞めようと思ったんです。自分自身は、そんなに非難されることはやってないつもりなんですけどね(笑)。

―なるほど。

 イギリスに『ザ・ガーディアン』という有名な新聞があるんですけど、“ガーディアンはオープンジャーナリズムを実践します!”と宣言しているんです。「われわれは科学ジャーナリストといっても科学者ではありません。ジャーナリストがすべてのことを知っているというのは大間違いです。皆さんの力を貸してください。いろいろな問題をみんなで考えていかなければ、真実を報道することはできなくなってきています」といった内容のことを言っています。

―へー。

 これはバージョンアップされたジャーナリズムのあり方だと思ったんです。これまでブラックボックスのようにマスコミの中の人たちだけで判断されていた編集権をすべてガラス張りにしてオープン化する。そして、視聴者や読者からの情報や意見を取り入れていけば、これまでのマスコミへの嫌悪感や不信感を払拭(ふっしょく)できるんじゃないかと思うんです。

もう、メディアから一方的に情報をもらう時代じゃない。みんなの力でメディアをつくる時代なんです。

―なんか、だんだんそんな気がしてきました……。

 それで、今僕がやっている『8bit News』は、ユーザーが事件現場に出くわしたとき、ガラケーでもスマホでもいいから、ちょっと映像を撮ってもらって、投稿してもらうサイトです。そして、実際に何かを撮ろうとすると誰を撮ろうとか、どうやって撮ろうとか考えるじゃないですか。僕は、それがとても大事なことだと思っていて、皆さんが報道について考えるきっかけのひとつになってもらえればいいなと思っているんです。

メディアは今、社会の変化や市場のニーズに柔軟に向き合う姿勢が求められています。僕は決してマスメディアと対立したいわけではないんです。新しい情報発信の仕方を互いに高めていくことが大事だと思っているんです。

(取材・文/村上隆保 撮影/佐賀章広)

●堀 潤(ほり・じゅん)




1977年7月9日生まれ、神奈川県出身。元NHKアナウンサー。2001年入局、『ニュースウオッチ9』『Bizスポ』『ニッポンのジレンマ』などを担当。2013年4月1日付でNHKを退局

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