「障害者向け風俗」の現在地

週プレNEWS / 2013年5月31日 12時0分

障害者の性をテーマにした映画『暗闇から手をのばせ』が公開中の戸田幸宏監督。「映画とは“タブーに挑む”もの」と語る

日本ではアンタッチャブルな問題として、人々から見て見ぬフリをされてきた“障害者の性”。だが、障害のある体だからといって、性欲がないワケではない。彼らは手や足が動かないだけで、普通の人間なのだ。そんな障害者たちのために、数は少ないながら専門の風俗店がある。経営者は、その存在意義をどこに見いだしたのか? 一部の団体が行なっている射精介助サービスとは何が違うのか?

■風俗で遊ぶことが異性を意識する力に

下着姿の若い女が太った中年男の服を脱がすと、おもむろに全身リップ、さらにフェラチオへ。クチュクチュと音が響くなか、「うまいよ」と男。「うまいついでにさ、本番させてよ」。それを「規則だから」と言ってたしなめる女―。

一見よくあるデリヘルの風景だが、ちょっと違うのは、男が先天性多発性関節拘縮(こうしゅく)症という病気により、両手両足の自由がきかないこと。つまりは「障害者」だ。

これは現在も全国で順次公開中の映画『暗闇から手をのばせ』のワンシーン。障害者専門のデリヘルに軽い動機で飛び込んだ若い女性が、さまざまな障害者と出会い、プレイを重ねるなかで、傷つきながら成長していく過程を描いた作品だ。主人公のデリヘル嬢を演じるのは小泉麻耶(まや)。グラビアアイドルから女優へと転身した彼女は、バストトップこそ見せないが、見事なプロポーションを生かした体当たりの熱演を見せている。さらに先ほどのシーンでデリヘルを利用する障害者役を演じるのは、自身も役柄と同じ身体の障害を抱え『お笑い! バリアフリー・セックス』などの著書もある、芸人のホーキング青山である。

普段はテレビディレクターとして活躍する戸田幸宏(ゆきひろ)監督は、当初「障害者専門風俗」を題材としたドキュメンタリー番組を構想していたという。だが、企画がテレビ局に却下されてしまったため、同じテーマを自主映画、それもフィクションとして撮ることにした。とはいえ、劇中に登場する障害者専門のデリヘル店「ハニーリップ」は大阪に実在する同名店をモデルにしており、プレイ内容などについても、同店の店長I氏や在籍する風俗嬢に取材した内容がもとになっている。

「僕が初めて取材した4年前に『障害者専門』を謳(うた)ってデリヘルをやっていたのは、おそらく『ハニーリップ』さんだけでした。それ以前に『セックスボランティア』(河合香織・新潮文庫)が出版されたこともあって、いくつか障害者専門の風俗店も出てきたようなんですけど、その時点ではホームページはあっても、すでに活動を停止しているところがほとんどで……」(戸田監督)

2004年に『セックスボランティア』が出版され、ベストセラーとなった頃は、世間でも“障害者の性”が話題になった。学生時代に脳性まひ患者のグループホームで介助をしていた筆者は、彼らが言語障害だろうが車いすだろうが、普通にヘルスやソープランドに通う姿を見ていたので(店の前まで車いすを押したこともある)、タイトルにある「ボランティア」という言葉に引っかかるものがあった。

人間、誰しも性欲があるのは当然だし、必要があればお金を出して風俗に行けばいいだけの話だからだ。ただ、障害の程度によっては一般の風俗サービスを利用するのが難しいため、障害者専門の風俗が登場するのは自然の流れではある。だが、そんな店が存在することすら知らない人がほとんどだろう。では、その現状はどうなっているのか? 「ハニーリップ」の店長、I氏に聞いてみた。

「僕の知る限り、僕ら以外に熊本に1店、東京に1店、ほかはできては潰れって感じですね。やっぱり、商売としては厳しいですから……。ウチも近畿地方を中心に、西は島根から東は名古屋まで出張した実績がありますけど、それでも平均利用者はリピーターを入れても月に10人から15人程度。これじゃ、単独で利益を出すのは難しいですよね(苦笑)」

I氏は日中、施設で介護の仕事をしており、並行して副業の「ハニーリップ」を経営している。

「僕の場合、商売とは違うモチベーションが大きいんです。もともと20年ほど介護の現場で働いてきたんですけど、障害のあるコで女性にキスすらしたことないまま死んでいくやつがホント多い。それを見てたら、障害者だって金を出して女を抱くぐらいのことができてもいいじゃないか!って思いが強くなって……」(I氏)

以前、「ハニーリップ」のデリヘル嬢として働いていたまひるさん(仮名)も、この世界に飛び込む前はやはり介護の仕事をしていた。

「障害者の日常ってやっぱりなかなか異性との出会いがないし、なかにはオナニーの意味も知らないまま、人前で男性器をさすってしまうような人もいるんですね。これはあかんやろって。そこに好奇心も手伝って、2年ぐらい『ハニーリップ』で働いていました」

プレイ内容は全身リップ、フェラ、ローションプレイに素股、さらにオプションも多数用意。障害者専門といっても、嬢を送迎するドライバーが介護関係の資格を持っていたりする以外は、普通のデリヘルと変わらない。ただ、当然、障害の程度に応じて、できることとできないことは出てくる。

「一番重度な障害のケースだと、筋ジストロフィーの人のところに行ったことがあります。全身で動くのは眼球だけという状態。常に機械とつながっているので、シックスナインの体勢になるのも難しくて、手鏡を使ってアソコを見てもらいました(笑)。うれしかったのは、その後も何度か呼んでくれて、しかも行くたびにベッド回りがキレイになっていくんですよ。髪型や服装もちょっとずつオシャレになっていって」(まひるさん)

I氏も、そうやって利用者の人生に張りが出ることが一番うれしいという。

「例えば伸び放題だった鼻毛を切ろうとか、ちょっといい服を着てみようとか、そういう色気って大事じゃないですか。あと、よくあるのはプレイ中にペニスの皮をむいて、初めて恥垢がたまっていることに気づいたり(笑)」(I氏)

障害があろうがなかろうが、男である以上、性欲のカタチもさまざまだ。

「女のコをふたり呼んで、自分は服も脱がずに5時間ぐらい延々とレズプレイを観賞する人もいる。その人なんて、そのプレイをするために障害年金を1年間ためて利用してくれてますからね。ハナから異性を意識する人生をあきらめていた人たちが、ポジティブな力を得てくれるっていうのが、僕がこの仕事を続けられる理由なんです。だから正直に言うと、普通の風俗店が障害者でも気軽に利用できるようになるんだったら、それでOKなんです」(I氏)

■専門用語を使われたら萎えてしまう

利用者の中にも、「むしろ障害者専門じゃないほうがいい」という声がある。身体障害者の性に関する支援やイベントなどを行なう「NPO法人ノアール」の理事長で、自身も脳性まひによる車いす生活を送る熊篠慶彦(くましの・よしひこ)氏は言う。

「障害の程度にもよるけど、普通の風俗でも事前に説明をしておけば、向こうも客商売なので受け入れてくれるところも多いんです。それに風俗ってちょっとヤバい雰囲気だったり、非日常の空間であることも魅力のひとつだったりするわけじゃないですか。それが『障害者向けですよ~』『安心ですよ~』ってアピールされちゃうと、ちょっと、ねえ? 『じゃ、トランス(移動)しましょうね』なんて専門用語を使われた日には萎えちゃいますよ(苦笑)」

今、一部のNPO団体が射精介助など、ケアの一環として“障害者の性”に取り組もうとしているが、それもどうかと思う。成人男性の「性的な行為を楽しみたい」という普通の欲求を満たすには、介護というカテゴリー下では無理がある気がするのだ。

熊篠氏は、障害者専門風俗など存在もしなかった1990年代初頭、あふれ出る性欲を抑えきれず、どうしても風俗を利用してみたいと思って公衆電話に貼ってあるピンクチラシに片っ端から電話したという。それ以来、数々の風俗プレイにいそしんできた。

「デリヘルだと、財布をどう隠すかもひと苦労なんですよ。万が一、お金だけ持って逃げられても、こちらは追いかけられないんだから。でも、そういうスリルだって風俗の醍醐味。そうやって経験を重ねていくことで、レベルの高い風俗嬢に当たったときの喜びはほかに代え難いものがありますからね。わかるでしょ?(笑)」

なお、歴代の恋人と充実したセックスライフを送ってきた熊篠氏には、脳性まひだからこそ可能なスペシャルな性技があるという。

「僕は障害のせいで、挿入してもピストン運動はできないんです。でもその代わりといっちゃなんですけど、ペニスを振動させることができる。痙性(けいせい)といって筋肉の緊張の一種なんですけど、ほとんどバイブレーターのように細かく振動するんですよ(笑)。これ、相当気持ちいいらしくて、過去には白目をむいてイッちゃった女のコがいたくらい」

一方、熊篠氏の友人で、脊椎(せきつい)損傷のため下半身まひの障害があるA氏も、デリヘルやピンサロの利用者だ。彼は自宅に初めてデリヘルを呼んだ際、両親の在宅が「契約違反」と言われ、嬢に帰られてしまったことがあるらしい。

「キャンセル料まで取られました(苦笑)。障害のこともあるし、『両親がいても問題ない』とこちらが主張しても、お店のほうが『それじゃ、ムリ』っていうケースもやっぱりあるんです。だから、重度で寝たきりの人が風俗を利用することを考えると、やっぱり障害者専門の風俗があることで助かる人は多いと思いますよ」

そう考えると、やはり一定のニーズはあると思われる障害者専門風俗。しかし、この4月、前出の映画『暗闇から…』に背中を押されるカタチで神奈川・小田原を拠点に障害者向けのデリヘルを開業したばかりというN氏は、ほとんど障害者の利用者がいない現実に直面している。

「ウチの店は健常者の方にも対応しているのでなんとかやれてますけど、こんなに厳しいとは思わなかった。まず、サービスを必要としている障害者の方に、こういう店の存在を知ってもらうこと自体が難しくて……」

前出の熊篠氏も言う。

「結局、障害者の性の問題って『セックスボランティア』とか今回の映画とかで一時的に光が当たったとしても、しばらくするとリセットされて元に戻ってしまう。その繰り返しなんですよね……」

『24時間テレビ』やパラリンピックなど、長らくメディアで「善意」や「努力」のイメージを背負わされてきた障害者。そんななかでも『バリバラ~障害者情報バラエティー~』(NHK Eテレ)のように、障害者の笑いや下ネタにまで踏み込む番組が出てきている。そもそも、男がエロいことを考えるのは当たり前。障害者だって風俗に行く。それに女性の障害者にだって性欲はある。まずはその「当たり前」に応えられてこそ、真のバリアフリー社会ではないだろうか。

(取材・文/九龍ジョー 撮影/五十嵐和博)





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