「新エネルギー革命」実現のために日本の政治がすべきこと

週プレNEWS / 2013年6月27日 18時0分

「日本のエネルギーにおいて天然ガスが占める比率が高まるのは確実だが、インフラ整備の遅れが心配」と語る伊原賢博士

アメリカからのシェールガスの輸入に、膨大な資源量を誇るメタンハイドレート、地熱、レアアース、そして、それらを実用化するための技術開発。これだけ好材料がそろえば、日本のエネルギー問題の未来はバラ色だと期待せずにはいられない。

しかし、日本にバラ色の未来が訪れるのは、あくまで“条件付き”だと言っておかなければならない。

エネルギー問題は非常にスケールが大きいテーマだ。尖閣諸島付近の海域にガス田があると判明した途端、中国が領有権を主張し始め、今に至っても両国の関係が改善しない原因であり続けている。

アメリカがイラクに戦争を仕掛けたのも、表向きの理由はどうであれ、石油利権が本当の動機だったのは公然の秘密だ。

つまり、国家同士が戦争も辞さないほどの大きなテーマ、それがエネルギー問題なのだ。

深海のメタンハイドレートやレアアースの採掘技術を向上させても、その技術を把握する科学者が年俸1億円で他国にスカウトされてしまえば、日本が投じた多額の予算と時間を費やして得た研究成果を簡単に奪われてしまう。

1億円など、戦争に比べればなんてことはない金額だ。アメリカも中国も韓国も、虎視眈々(こしたんたん)と日本の技術を盗むべく狙っていると考えたほうが自然なのだ。

日本政府は国益に直結する技術の漏洩(ろうえい)にさえ、危機意識が乏しいといえる。過去にノーベル賞を獲得した科学者の多くはアメリカの大学で研究していたし、自動車や家電に関しても、ハイレベルな技術を持つエンジニアの多くは中国や韓国の企業に引き抜かれ、さんざんパクられた。

それに対し、世界は非常にしたたかで、戦略的かつ長期的な視野でエネルギー問題に向き合っている。例えば中国はレアアースについて、約20年前から計画的に国益を追求していた。

東京大学大学院の加藤泰浩教授が解説する。

「レアアースはスマホやハイブリッドカーのモーターなどのハイテク製品の部品に使われていますが、実は軍事分野においても非常に重要な素材なんです。巡航ミサイルや誘導弾、戦車、潜水艦のソナー、監視レーダーなどにレアアースは不可欠なのです。

話は20年前までさかのぼります。当時の中国の実質的な最高指導者だった鄧小平(とう・しょうへい)は、1992年にレアアースの鉱床を視察し、『中東に石油があるように、中国にはレアアースがある』と発言しました。その心は、石油と同レベルにレアアースを戦略的な物資としてとらえなさい、ということです。

そのために中国は安値でレアアースを売りまくり、世界中のレアアース鉱山を閉鎖に追い込みました。そうしてシェアを独占すると今度は一転、輸出価格をつり上げたり輸出規制をかけたりして、外交カードとしてフル活用し始めた。

こうして軍事産業や宇宙開発産業、ハイテク産業などの絶大な影響力を行使できる立場を計画的につくり上げていったのです」

果たして、日本の政治家が20年先を見据えた戦略的ビジョンで行動するだろうか? 3、4年後に控える次の選挙のことしか頭にないと思えない……。

20年先どころか、日本の政治家が目の前のことさえも見えていないことがわかるエピソードがある。某大手商社に勤務し、東南アジアを担当する部署に所属するS氏が明かす。

「尖閣諸島沖で海上保安庁の船に体当たりした中国漁船の船長を日本が逮捕したとき、中国は嫌がらせでレアアースの禁輸措置で対抗しましたよね。

本来はそういうことが起こる前に、あらゆる事態を想定して備えるのが政府の役割だと思いますが、日本は残念ながらそのレベルには達していません。

それどころか野田政権時代に、右記の出来事がきっかけでレアアースの調達を中国以外にも分散させようと考えた日本政府は、約460億円もの巨費を投じてベトナムのドンパオという鉱床を開発するなどしたんです。

しかし、お金を投じた後、ベトナム政府は『日本に権益を与えたつもりはない。欲しければ、もっとお金をよこせ』と態度を豹変させたのです。

しかも、調べてみたら実際はレアアースの質は非常に低いもので使い物にならないことが判明した。結局、ベトナム政府の思うがままに日本のお金でインフラ整備をさせられて、大した鉱床も得られなかったという情けない結果に終わったんですよ……」

われわれはこんな頼りない国家に税金をむしり取られているというわけだ。

■エネルギー外交は安全保障そのもの!

天然ガスについても、日本政府の行動は極めて愚鈍だ。

原発が稼働できない状況となった今、天然ガスを安価で入手するのは日本にとって喫緊(きっきん)の課題だが、日本政府が音頭をとって電力会社同士を連携させ、共同購入などによって輸入価格を引き下げるような動きは見られない。

「総括原価方式」や「燃料費調整制度」を改めたり、発送電を分離して競争原理を導入するなど、電力会社にコスト意識を持たせる努力もしない。

その理由を経産省キャリア官僚のT氏が明かす。

「ウチの役所から天下りするとか、そういう小さな理由もありますが、電力会社の利益を保護する理由はほかにある。巨大な既得権益集団が一体となっているんですよ。

例えば三菱重工や日立製作所、IHIなどの発電設備メーカーや、燃料を高値で売りたい大手石油会社。さらに、その燃料を輸入して高値で売りたい三井物産や三菱商事、住友商事などの大手商社です。そのほか御用学者や独立行政法人など、電力会社に関わる既得権益集団の規模は大きいんです。このような連中が日本の競争力を弱め、国益を損なう結果になろうとも、自分たちの利益を確保すべく暗躍しているのです。

さらに厄介なことに、彼らは政治に金と票を流している。このしがらみを断ち切って未来の国益を追求する政策を打ち出す政治力を、果たして安倍政権が発揮できるかどうか……」

先行きを心配する声はまだまだ続く。石油天然ガス・金属鉱物資源機構の上席研究員、伊原賢博士が指摘する。

「今後、日本のエネルギーにおいて天然ガスが占める比率が高まるのは確実ですが、インフラ整備の遅れが心配です。

日本国内のガスパイプライン網は非常に貧弱です。これでは各家庭でガスが安価に使えるようにはなりません。

アメリカからのシェールガスのみならず、ロシアから直接パイプラインを引き、在来型の天然ガスを輸入することもエネルギー調達の安定とコスト低減にとって非常に重要なのです。

ガスはパイプラインがなければ液化した上で海上を輸送しなければなりません。気体のまま運べるパイプラインは日本にとって非常に重要なインフラなのです」

自民党よ、これこそ正しい国土強靱(きょうじん)化なんじゃないのか?

最後に、社会基盤 省エネルギー化推進協会の主席研究員、池田和隆氏が歴史的な観点から日本の行く末を憂う。

「日本は昔、資源大国だった時代がありました。1930年くらいまでは、世界の主力エネルギーは石炭であり、日本は豊富な石炭産出国でした。

しかし、次第にエネルギーの主役が石油にシフトすることは予知できたはずなのに、日本はその切り替え準備を怠った。そして次第に追い込まれ、無謀な戦争へと突き進んでいったのです。

シェール革命が起き、アメリカはエネルギー調達を自国及びカナダやメキシコからの輸入にシフトしていきます。かつて戦争までしてこだわった、中東のシーレーンから徐々に影響力を弱めていくかもしれません。そうなると、今度は誰がペルシャ湾からインド洋、マラッカ海峡までのシーレーンを制圧するのでしょうか? 間違いなく中国です。

日本は再び資源の海上輸送ルートをめぐって中国と衝突して戦争に発展しないよう、インドや東南アジア諸国を味方につけるべく、丁寧かつしたたかな外交を行ない、なんとしても資源調達の安全を確保しなければなりません。

エネルギー外交とはすなわち、安全保障そのものなのです!」

国内でさまざまな資源が発見され、実用化も間近だと聞けば期待を膨らませずにはいられないが、日本の政治が戦略的で長期的な視野に立った行動をとらなければ、明るい未来など望むべくもないのだ。頼むぞ、安倍政権!

(取材・文/菅沼 慶 興山英雄 撮影/井上太郎)

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