加藤嘉一「意外性が魅力の小国、ブータン。今後の“選択”にも要注目です!」

週プレNEWS / 2013年7月29日 15時30分

一昨年に国王夫妻が来日し、“幸せの国”として注目を集めたブータン。大国に挟まれた小国として、今後どのような道を歩んでいくのでしょうか?

中国とインドというふたつの大国に挟まれた、人口70万人余りのブータン王国を旅してきました。ブータンといえば、「国民総幸福量(GNH)」という独特の尺度を国家運営上の哲学に据えていること、また2011年11月に若きジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク国王夫妻が国賓として来日したことで、日本でもよく知られています。

ぼくが訪れたときは、08年の民主化以来2度目の国民議会総選挙の真っ最中。選挙キャンペーンがダイナミックに行なわれ、メディアは堂々と政府を批判し、民主主義の象徴である“言論の自由”が実践されていた。結果、若者の失業増や格差問題に不満を持つ有権者から支持を集めた野党の人民民主党(PDP)が、与党のブータン調和党(DPT)に大勝。政権交代を実現しました。

特筆すべきは民主化プロセスの独自性。特にアジアでは、経済発展をしてから民主化へとシフトしていったプレイヤーが多いですが、ブータンはその逆を行っている。IMF(国際通貨基金)の統計によれば、ブータンの11年GDPは約14億ドル、ひとり当たり2000ドル程度。経済規模では“最貧国”に位置する国がすでに民主化しているというのは、世界でもまれな例です。

首都ティンプーにしても、国際空港がある第2の都市パロにしても、未舗装の道路が多く、見渡せば寺院や棚田(たなだ)ばかり。のどかな風景が訪れる者の心を落ち着かせてくれます。

日本では“幸せの国”と呼ばれるブータンも、周辺国との関係においてはひとつの岐路に立たされている。例えば、中国とはまだ国交を持っていません。識者によれば、以前から両国間で国交正常化を探る動きはあるものの、ブータン側は慎重に事を進めているとのことです。

最大の理由はインドの存在。現地の人いわく、ブータンは経済活動の90%をインドに依存していて、両国民は自由に国境を行き来できる。東西を移動するにも、途中の道路が舗装されていないため、便利なインド経由のルートを選択するそうです。

国内にはインド軍の基地もあり、ブータン軍を指導していた。「中国との国交はインド次第」だと、至る所で実感しました。




中国との国交正常化が主要産業の観光に与えるメリットについても、未知数な面があります。

ブータンの国教はチベット仏教で、観光客には寺院見学が人気ですが、中国人にしてみればチベットへ行けばある意味、事足りてしまう。食事が特別おいしいわけでもなく、ショッピングを楽しめるわけでもない。“物質的欲望の王様”と呼ばれる中国人が満足する旅行先とは思えませんでした。

その上、仮に大量の中国人観光客が流入してきたとしても、ブータン側のインフラ整備はとても追いつかない。そもそも、物質的充足より生活ののどかさや心の豊かさを追求するブータン人と中国人は、水と油の関係にある気がしてなりません。

とはいえ、ブータンの将来的な発展の可能性を考えた場合、エネルギーやインフラ、投資といった分野においては中国というカウンターパートは魅力的。その場合、やはりインドとの関係がカギを握るでしょう。中国にできて、インドにできないことは何か。中国が民主国家でないという要素はどう影響するのか。

大国に挟まれた小国ブータン。GNHという哲学を持ち、経済発展より先に民主化を進めたユニークな国家は“選択肢”を持っている。

スイスのように永世中立国として存在感を示すのか。それとも、人口わずか50万人程度ながらひとり当たりGDPが世界一のルクセンブルクのように、政治以外の分野に特化していくのか。小国だからこそできる挑戦もある。人口の多さや国土の広さだけで国力を測れるというなら、その理由を逆に教えて!!

今週のひと言




意外性が魅力の小国、ブータン。




今後の“選択”にも要注目です!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)




日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。著書に『逆転思考激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など多数。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)が絶賛発売中!

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