気鋭のエコノミスト・永濱利廣が解説「2年後、景気回復の実感が広がります!」

週プレNEWS / 2013年8月5日 6時0分

「ニートや非正規雇用で働く人 は、アベノミクスをムダにせず、まずはどんな職種でも正社員と して働く経験をしてみよう」と語る永濱利廣氏

アベノミクスで日本経済が景気回復し、正社員は給料アップ、フリーターやニートには正規雇用の大チャンス……というが、本当なのだろうか? イマイチ実感のわかないそんな見通しについて、第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣氏が解説する。

■デフレとバブル崩壊、どっちがマシ?

アベノミクスがスタートして半年ですが、効果はすでに表れています。雇用に改善傾向が見られ、給料も一部でアップ。残業代が増え、自動車やコンビニなどの業界ではボーナスも増えるでしょう。

現時点での私のアベノミクスへの評価は、おおむね好意的です。

1本目の矢=金融政策は、ほぼうまくいっています。日本は、バブル崩壊以降の「失われた20年」で適切な金融政策が行なわれてきませんでした。だから、何をやっても日本経済は閉塞(へいそく)的な状況を打ち破れなかった。それが安倍首相のもとで金融緩和をやった途端、成果が表れ始めました。

2本目の矢=財政政策の評価は限定的です。日本経済にとって大きなリスクは国債の暴落なので、できるだけ国債の発行量を抑える必要があります。安倍首相は補正予算で5兆円規模の建設国債を発行しましたが、このまま国債を増発し続けて国家の借金が膨らんでいくと、アベノミクスは危ない方向に行きかねません。

3本目の矢=成長戦略の評価は厳しめです。現状では、本丸に踏み込めていない印象を受けますね。自民党は法人税率の引き下げを政権公約に掲げていたにもかかわらず、規制緩和や税制優遇を検討する「国家戦略特区」の中にすら入れなかった。正社員の解雇規制の緩和、混合診療の解禁、株式会社の農地取得自由化なども今後の課題に挙げられます。

それでも、私がトータルでアベノミクスにおおむね好意的なのは、最もやらなければならない金融政策はできているからです。仮に日本経済が良くならなかったとしても、悪くなる度合いがはるかに少なくなりました。

アベノミクスの金融政策がなければ、現在でも株価は1万円に達していなかったでしょう。そんな状況なら、今よりもっと給料が下がっていてもおかしくなかった。

日本は90年代からの15年間、ずっとデフレでした。一見、物価が下がるのでよさそうに思えますが、デフレの状況ではお金をためておくほうが合理的。物価が下がれば下がるほど、同じ金額で買える量が増えるからです。そのため人々はお金を使わなくなり、経済がどんどん悪くなるという悪循環が続いていました。

一方、現在のアベノミクスで「バブル」を懸念する人もいますが、バブルと崩壊を繰り返している国は、15年もデフレから脱却できない日本よりはるかにいい経済パフォーマンスを見せています。最悪なのは、バブルを恐れて何もしないことなんです。

なんの世界でも同じだと思いますが、一度でも成功体験のある人なら、「今回は失敗したけど、次は成功するかも」とがんばれます。それは経済も同じです。

しかし、日本のように「がんばっても給料が上がらない経済」が10年以上続くと、がんばる気力自体がなくなってしまう。その意味でも、アベノミクス効果は非常に大きいわけです。

■今すぐ行動すればニート卒業も可能!

日本経済がこのまま順調にいけば、私は2015年頃には、景気回復の実感が広がると思います。

構造的に見ると、給料は基本給、ボーナス、残業代の3つに分かれていますよね。景気の影響を最も受けるのが残業代。景気が良くなれば忙しくなるので、働く人の残業代が増えていきます。

次に上がるのがボーナス。企業は利益が増えた場合、従業員に対して「よくがんばりましたね」と儲けを還元します。今期の証券会社の決算見通しでは、売り上げで8%、利益で3、4割の増益が期待できます。そう考えると、かなりの確率で来年のボーナスを上げる企業が増えるでしょう。

さらに景気回復が続けば、2016年には基本給も上がると思います。その根拠は、過去を振り返るとわかります。

小泉政権の2002年から07年にかけて、戦後最長の景気回復があり、当時は05年に給料が上がりました。それと同じペースで考えれば、今回も3年後の16年に給料がアップする計算になります。

ちなみに、05年から2年間給料が上がったにもかかわらず、その実感を多くの人が持っていないのは、サブプライムローン問題の影響などもあって07年から下がってしまったからです。

今回は、当時より早まる可能性もあるでしょう。

バブル崩壊以降、日本の企業は儲けられなくなったのに、それまでの流れで給料を上げ続けてしまいました。企業のお尻に火がつき、ようやくリストラを始めたのが00年。小泉政権の時期は高すぎる賃金の調整局面でもあったわけです。それにもかかわらず、景気回復が3年続いたので、賃金は上がりました。

今回は、高すぎる賃金の調整は07年に終わっているので、労働生産性が増えると、そのまま給料が上がりやすい状況です。従って小泉政権時よりも前倒しで給料アップとなる可能性もあるのです。

ただし、前倒しで給料が上がるというのは、マクロで考えた話。個別に見れば、中小企業よりも大企業が先にアップします。地方よりも首都圏の会社の業績が早く良くなるでしょう。大企業でも衰退産業に勤めている人は厳しい。だから、景気回復を皆が実感できるわけではないのです。

それでも、多くの人にチャンスが増えるのは間違いありません。05年にも、丸の内の飲食店は人手不足になり、アルバイトの時給がすごく上がりました。景気回復が続くと残業してもマンパワーが足りなくなるので、採用数を増やす必要が出てきます。おそらく3年後に、人手不足が生じるでしょう。そうなると賃金の高い社員よりも、まず先にアルバイトの時給が上がりやすい状況になります。

また、景気回復すれば失業率が下がるので、若い人が正社員になるチャンスも増えます。

「最近の若者は仕事のえり好みをする」といわれますが、どんな職種でも、とにかく一度働いてみたほうがいいと思います。

昨年はニートの数が約63万人、25~34歳における非正規雇用の割合が26・5%で、ともに過去最多となりましたが、正社員になるためにはとにかく働こうという姿勢が必要。

数年後に次のステップへ行くにしても、まったく職歴のない人と転職を考えている人では、後者が高く評価されるのは当然ですよね? 資格を持ち、外国語ができるに越したことはありませんが、労働市場は、まずはやってなんぼの世界ですから。

(取材・文/宮崎俊哉 中島大輔 渋谷 淳 山田美恵 撮影/五十嵐和博)

●永濱利廣(ながはま・としひろ)




第一生命経済研究所主席エコノミスト。専門は経済統計、マクロ経済の実証分析。一橋大学非常勤講師、跡見学園女子大学非常勤講師。テレビ番組や講演でのわかりやすい解説に定評がある。『図解 90分でわかる! 日本で一番やさしい「アベノミクス」超入門』(東洋経済新報社)など著書多数

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