加藤嘉一「自分の“拠点”をどこに定めるか。人生において大切な選択です!」

週プレNEWS / 2013年8月5日 10時0分

国境を飛び越えることがかつてないほど当たり前になっている現代社会。それだけに、人生において“拠点”をどこに置くかは大切な選択だと思います。

前回は小国として大いなるポテンシャルを秘めたブータンを扱いましたが、今回は同じ小国でも、すでに「都市国家」として世界的な経済・金融国家に成長したシンガポールを訪れ、考えたことを書きたいと思います。

現地で参加させていただいたシンポジウムで、ひとりの日本人投資家と出会いました。シンガポールの印象を聞くと、「仕事しやすい」と断言。理由は興味深いものでした。

彼はシンガポールに来る前、香港で仕事をしていたそうです。香港はアジアの金融システムのハブとなっており、中国を含めいろいろな情報が集積されている。しかし、「日本人の投資家にとっては働きやすい場所とはいえない」というのです。

香港は1997年6月まではイギリス領で、それ以後は中国の特別行政区という位置づけです。そういった特殊な事情から、金融マーケットは欧米人と華人が牛耳っており、日本人投資家という立場では、そのどちらに参入するのも困難だということでした。

それに比べると、シンガポールは金融マーケットを取り巻く状況が「フラット」だという。税金も安く、親日的。日本人にとっては利点が多いそうです。

この話を聞いて、脳裏に浮かんだのが“拠点”という言葉です。

これまでの人生を振り返ってみると、ぼくはある意味“家なき子”でした。高校を卒業するまでは家の事情で住まいを転々とし、日本を出てから北京に9年、上海に半年、そしてボストンに1年。自分にとっての“拠点”を追い求める日々でした。

「自己実現に国境なし。男だったら、どこに行ってもメシを食えるようなスキルを持て」

ぼくの持論です。同世代、あるいはもっと若い人たちには、今の場所に居続けることが当たり前だと思ってほしくない。例えば、地方から上京して定住するというのは、ひとつの形ではあっても決してゴールではない。自己実現のために、場所という制約は取っ払いたい。今のぼくが「世界のどこでも生きていける」と思えるのも、若いうちから安易に“拠点”を置かなかったからだと思います。

ただ、シンガポールで日本人投資家と話したことで、少し心境に変化も生まれた。若いうちはともかく、ある時期になれば“拠点”を構えるのも悪くないかもしれない。自分にとって最も暮らしやすく、最も能力を発揮でき、生涯の目標に近づける場所を見つけられたのなら。もちろん、“心の軸足”を祖国に置き続けることが自分の支えとなることは永久不滅ですが。

今、生活しているボストンは、アメリカを知るにはうってつけの場所で、知的充電にも最適な街ですが、率直に言えば物足りなさも感じる。街も人もある意味、完成されすぎていて、燃える何かが見えない。それに、ライフワークであるチャイナ・ウオッチを深化させていくには、中国という存在が遠すぎる。

選択肢のひとつとして注目しているのが、投資家の方が「日本人は働きにくい」と言っていた香港です。中国を見るにあたり、地政学的にこれほど適度な距離感を保てる場所はない。欧米人と華人の壁さえ突破すれば、そこにはグローバルなマーケットとあらゆる情報がある。ぼくはビジネスマンではない。ただの観察者でもない。ずっと“当事者”でいたい。ならば、あらゆるものに直接コネクトできる場所を“拠点”に定めるべきでしょう。

“拠点”を持つのか、持たないのか。持つなら、それはどこなのか。気候、人間関係、仕事、食事、宗教……いったい何を重視するのか。人生において、避けることのできない通過点です。こうしたことを考えもしないまま有機的な人生を送れるというなら、その理由を逆に教えて!!

今週のひと言




自分の“拠点”をどこに定めるか。




人生において大切な選択です! 

●加藤嘉一(かとう・よしかず)




日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考える「加藤嘉一中国研究会」がついに発足!

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