東浩紀、福島第一原発観光地化計画「“クールジャパン”ではなく“クールフクシマ”を!」

週プレNEWS / 2013年11月18日 12時0分

東浩紀氏が提唱するフクイチ周辺に“楽しい場所”を作って人を呼び込む試みとは?

昨夏、「福島の原発周辺を観光地化する」という、ある意味で“不謹慎”極まりない計画をブチ上げ、賛否両論の渦を巻き起こした、批評家の東浩紀(あずま・ひろき)。

あれから約1年、東は膨大な取材と多分野の知識人との協働を経て、その名も『福島第一原発観光地化計画』なる本を上梓する。そこに込められた、“危険すぎる思想”に迫る!

■不幸な出来事が文化を輝かせる

90年代より思想界の第一線に立ち、現在は自ら立ち上げた出版社「ゲンロン」を経営しながら、作家活動も行なっている東浩紀。そんな彼が、「福島第一原発観光地化計画」(以下、観光地化計画)というアイデアを得たきっかけは、1986年に原発事故を起こした旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリで、観光ツアーが行なわれているという情報を得たことだという。

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放射線汚染が落ち着いてきた90年代半ば頃から、「ゾーン」と呼ばれる原発周辺区域では、民間の自発的なツアーが行なわれていました。政府も広報機関を設立し、事故から25年後となる2011年の2月に、希望者による「ゾーン」への立ち入りを全面解禁しました(ただし、18歳以上に限る)。

こうしたチェルノブイリ観光や、広島の原爆ドームを訪れることを、「ダークツーリズム」といいます。人類の不幸な歴史の舞台を巡ることで、未来の平和のために学ぶ行為のことです。

僕たちも、今年の春、クラウドファンディング(インターネットを通じた募金)で得た支援金で、8人の取材団を結成し、チェルノブイリ市を訪れました。そこで、原発内部の様子も見ましたが、何に一番驚いたかというと、“今も普通にそこで何千人もの人々が働いている”ということだったんです。事実としては行く前から知っていたはずなのに、やはり頭の中では、原発事故が起きた場所=廃墟というイメージをつくってしまっていた。

今年9月には、福島第一原発(以下、フクイチ)の近くまで行きました。そのときも、正門のギリギリ手前まで巨大な汚染水タンクが連なっている光景を目の当たりにし、驚愕しました。そこで初めて汚染水問題の深刻さが実感できたんです。つまり、情報として知っているだけじゃなく、実際に見ることが重要だという、極めて当たり前の話ですね。僕らの観光地化計画というのは、できるだけ多くの人に、そういう実感を持ってもらうための計画です。




僕たちは、フクイチの事故から25年後となる2036年には、原発周辺の放射線量もかなり下がっているという予測データを基に、Jヴィレッジの再開発を提案しています。国内外から多くの観光客を呼ぶために、ドーム型の人工ビーチを造るとか、コミケみたいなものができる広場を造るとか、具体的な施設のプランも立てました。「そんなもの夢物語だ」という批判もあるかもしれませんが、現実にどうするかは、これからいろんな人が考えればいいことです。

一番大事なのは、「フクシマ」をタブー視するのではなく、今すぐ広く議論を始めること。すでに人々の記憶の風化や、震災遺構(津波の被害を受けた建物など)の取り壊しが始まっている現在では、フクイチ周辺の土地をこれからどうするのか今から考えることが、時期尚早であるはずがありません。

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東らの計画では、現在のJヴィレッジがある場所に「ふくしまゲートヴィレッジ」という巨大な東北観光の拠点を置くことが提案されている。これは、ショッピングモールなどの商業施設や観光施設、研究機関を併設した建築群だ。地元民のための日常的な消費の場になるとともに、東京からの観光客を呼び寄せる。それなしには、東北復興はかなわないと東は主張する。

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とにかく人を動員することが重要です。先のオリンピック招致に当たっては、「東京と福島は十分に遠い」と説明していましたが、世界地図で見たら250kmという距離なんて目と鼻の先ですよ。むしろ、福島という土地のイメージをポジティブに転換し、東京から福島への人の流れをつくらなければならない。

そのためには、「クールジャパン」なんて言ってる場合ではなくて、「クールフクシマ」と言うべきだと、僕は本気で思っています。もともと、日本の戦後文化であるオタクカルチャーは、原爆投下と敗戦で受けた傷を乗り越えようとする過程で生まれたもの。『ゴジラ』が核による突然変異で生まれたという設定だったように、あるいは『鉄腕アトム』が原子力で動くロボットだったように。不幸な社会的事件を経てこそ、輝かしい文化は生まれる。

ならば、今やフクイチの事故をポジティブに利用することでしか、日本の文化の新しい時代は始まらないと思う。だから、僕らがやるべきことは、福島を「クールで」「カッコよく」「訪れるべき」土地にすることなんですよ。

よって、この観光地化計画はすごく長期的なプロジェクトになるはずだし、大きな意味での文化復興計画なんです。どこかの議員に持ちかけて個別で予算をつけてもらう、みたいなスケールをはるかに超えている。なんていうか、この計画をもってして“日本人全体の気持ちを盛り上げていこう”というようなつもりで、僕はやっています。




■被災者に委ねることは責任放棄

昨年8月に、週プレが初めてこの観光地化計画を報じて以後、東は何度もテレビや新聞に登場し、計画の説明に言葉を尽くしてきた。しかし、「観光」という、ある意味で軽薄な言葉が持つ負のインパクトは大きく、さまざまな場所で痛烈な批判の声が上がった。今年9月に「Yahoo!Japan」が独自に行なったアンケートでは、「福島第一原発の観光地化、どう思う?」という質問に対して、5万人もの回答者のうち64・9%が「観光地化はそぐわない」と答えている。

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全然いい結果だと思います。僕は、批判的な感情も込みで、この計画に関心を持ってもらうために「観光」という軽薄なキーワードを使いました。だから大成功ですし、むしろ反対がこれだけだったことに驚いています。

ただ、批判される方は「当事者に任せろ」という言い方をよくされますが、僕はこれには異を唱えたい。今回の事故に関しては、日本国民全員が当事者という意識でなければならないと思う。原発は日本中にあるのだし、この国のエネルギー政策、ひいては戦後社会のさまざまな問題が露(あらわ)になったのが、あの事故だからです。

そのことを考えず、なんでもかんでも「当事者である被災者が決めることだ」と丸投げすることは、ただの責任放棄です。

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先日、東は「どうする汚染水」というテーマで放送された『朝まで生テレビ!』に出演。そこで、文化を復興することの重要性を提起したが、ほかのパネリストには見事に“スルー”された。

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確かに、汚染水処理の問題も東電の破綻処理も、大変重要でしょう。しかし、あの番組では3時間もかけてそのことしか話されなかった。そして福島から来た女性パネリストの話は、ないがしろにされていた。僕はその状況にとても違和感を覚えました。“金と法律”は大事だけど、最後に人を動かすのは“心”。文化復興が大切なのは、それが心に関わることだからです。金と法律だけですべてを解決できると思っているのは、いささか傲慢ですね。

だいたい、世界の半分は女性だし、ダークスーツでネクタイを締めてる中年男性なんてひと握りしかいないんです。なのに、政治家や官僚はそういう人々に囲まれた環境でしか考えていない。そんな人間の醸し出す高圧的な態度が、市民との不要な対立を生み出したりするんです。




■本来、思想とはベンチャーである

“金と法律”の話ばかりの人々に対して、いらだちを表明する東。しかし彼の批判の矛先は、むしろ同じ文化人たちに対してより強烈に突きつけられた。

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こういう社会的な事件が起きたときに、政治的にコミットすることを避け、「自分はサブカルチャーを守る」なんていう評論家がいます。しかも、僕より若い世代がそういう方向に流れている。僕には彼らの言ってることがさっぱり理解できません。

だいたい、〈政治〉と〈文化〉を二項対立で語るという発想そのものが、根本的に間違っている。文化というものは、こういう大きな社会的事件によって動いていくもの。だから、社会を抜きにして文化を語れるはずがない。

作家にしても、宮崎駿さんや押井守さんの世代は、何かあれば当たり前のように社会的なメッセージを発信しますよね。それは、あの世代の人たちにとってはほとんど常識的な振る舞いだと思うんです。しかし、ある世代より下のクリエイターにはその感覚がない。そのくせ、表現規制のような話題が出ると、急に騒ぎ出す。そんな人々の言葉は世間に届かないし、自分たちの既得権益のことしか考えていない族議員と一緒に見えてしまいます。

アニメやマンガは、市場こそ大きいですが、まだまだ今の日本ではただの“子供の遊び”としか思われていない。これは、ちゃんと社会に対して日常的に働きかけなかった作家の責任も大きいと思います。

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ところで、東らは前述のようにチェルノブイリへの取材時にクラウドファンディングで600万円もの支援金を得た。しかし、度重なる取材や、研究会の運営資金は、ほとんど東と東の経営するゲンロンの“持ち出し”によって賄われているという。

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そりゃあ、こんな計画、誰も支援してくれるわけないですからね。ウクライナのATMでも、僕のカードから取材費を引き出して使ってたりしました(笑)。この本が売れなきゃ、破産してもおかしくない。本を作るのだって、オールカラーの上200ページ近くもあるから、何日も徹夜してね……。

ただし、そのようにして自分の手を動かすことは、とても重要だと思うんですよ。僕はアカデミズムの世界が本当にいやになって出てきちゃった人間なんだけど、大学の教授なんていうのは、僕から言わせれば事務処理能力が低すぎる人種ばかり。メールも無駄に長いし、待ち合わせも満足にできなかったりする。






結局、今の哲学や文学は、そんな世間知らずな人間の遊びみたいなものになってる。だけど、そうなってしまうと思想は“死ぬ”んです。社会のルールで戦える基礎体力がないと、思想は生きてこない。

昔の知識人は違いましたよ。例えば、福沢諭吉は慶應義塾大学の創立者だし、菊池寛は文藝春秋社を起こし、芥川賞と直木賞を作った大変なイノベーター。本来、思想や文学には、そういうベンチャービジネス的な精神があったはずなんですね。

とはいえ、正直言えば、僕も自分で会社を経営しながら「なんでこんな大変なことをやってるんだろう」っていやになったりしますけど(笑)。

■論文集みたいなものには興味がない

現在、東の率いるゲンロンは、天才プログラマーの清水亮が代表を務めるユビキタスエンターテインメントと共同で「ゲンロンカフェ」を経営している。“理系と文系の融合”をキャッチフレーズにした同所では、毎週のように文化人やエンジニアによるコアなトークショーが行なわれている。

観光地化計画に関しては、今後の取材の続報をブロマガ(『ニコニコ動画』が提供する有料メルマガ)で配信しつつ、チェルノブイリへの観光ツアーもプロデュース。さらに、ジャーナリストの津田大介が経営するネオローグと共同で、福島の旧警戒区域近くに物件を借り、「ゲンローグハウス」という施設を造りたいのだという。

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このゲンローグハウスは、観光地化計画の現地準備室のようなものです。ギャラリーとイベントスペースを併設して、福島県外から呼んだアーティストに展覧会をやってもらったり、原発作業員の方とワークショップをやったりしたい。

僕はもう、思想家として、論文集みたいなものを作ることには興味がないんです。「世の中に対して影響力を持つためには、どんな思想発信の形があり得るんだろう」ということを模索した結果、今のようにベンチャーみたいなことをやってるわけで。これもその一環です。

「福島を復興する」という使命を持った福島第一原発観光地化計画は、どこか“重い”イメージがつきまとうだろうと思います。しかし、今後はここに「ゼロアカ道場」(かつて東が道場主を務めていた新人批評家育成企画)のときのようなお祭り感とサブカルチャー感を接続して、もっと“面白く”、“クールな”計画に育てていきたいですね。

(取材・文/西中賢治 撮影/井上太郎[東浩紀] 杉山豪介[模型] 模型・図版制作/藤村龍至建築設計事務所)

●東浩紀(あずま・ひろき)




1971年生まれ、東京都出身。批評家、小説家。出版社「ゲンロン」代表取締役。批評家としての著書に『存在論的、郵便的-ジャック・デリダについて』『一般意志2.0-ルソー、フロイト、グーグル』、小説に『クォンタム・ファミリーズ』『クリュセの魚』がある

■『福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2』1995円




「ゲンロン」が発行するオピニオン誌『思想地図』の最新号(11月15日発売)。東をはじめとする観光地化計画のコアメンバーの、1年にわたる取材・研究の成果が詰め込まれている。東以外のコアメンバーは、井出明(観光学者)、梅沢和木(美術家)、開沼博(社会学者)、清水亮(IT企業経営者)、津田大介(ジャーナリスト)、速水健朗(フリーランス編集者・ライター)、藤村龍至(建築家)。姉妹本に、『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』(1470円)がある




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