『このミステリーがすごい!』大賞受賞・八木圭一「日本の財政赤字は次世代への虐待です」

週プレNEWS / 2014年2月12日 6時0分

もともとはジャーナリズムを志していた八木氏が、日本の財政赤字問題に「社会派ミステリー」で迫る

港区の小学校に通う、元副総理の孫が誘拐された。「革命係」を名乗る犯人が、日本政府宛ての犯行声明で要求した身代金はなんと、1085兆円――。『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『一千兆円の身代金』は、「社会派ミステリー」の王道ど真ん中を突き進む。

本作で作家デビューを果たした八木圭一は、ジャーナリズムを志向した経歴の持ち主だ。己の筆で日本を変える!という心意気は、フィクションに移行した今も変わらなかった。八木氏に聞いた。

―もともとはノンフィクション作家を目指していたそうですね。

「ミステリー作家になるなんて、夢にも思っていませんでした(笑)。大学で財政学の勉強をしたのがきっかけで、日本の財政問題に物申したいことがいっぱいあるぞ、となりまして。就職後も年に1、2回、ノンフィクションの賞に応募していたんです。どうにも結果が出なくて、根本的にやり方を変えなきゃダメなんじゃないかと頭を悩ませていたとき、友人から『同じ題材を、エンタメ小説で書いてみれば?』と言われたんです」

―身代金1085兆円は、2012年度末の財政赤字、国の借金とほぼ同額です。誘拐犯はお金を得るのが目的ではなく、この金額の意味を、メディアを通じて広く世間に知らしめようとします。その行動は、八木さんが小説を志した姿勢とも相通じるような……。

「友人たちからは、『“革命家N”っておまえだよね?』と言われます(笑)。日本の財政問題を学び始めてから、政府に対する憤りが日に日に膨れ上がっていったんですよ。結局、国の借金を払っていかなきゃならないのは僕たちだったり次の世代なんですけれども、一千兆円という額があまりに大きすぎて、現実感がないと思うんですね。

わけがわからないから考えなくていいや、あるいは、なるようになるさ、今までも大丈夫だったんだから、という態度では借金が膨れ上がっていく一方です。この問題を、人ごとではなく、いかに自分事としてとらえてもらうかを、あの手この手を使ってやってみたのがこの小説なんです」




―「次世代に対する財政的幼児虐待」という言葉が印象的でした。

「米国の経済学者による表現ですが、日本にこそ当てはまると思います。問題の先送りにより、莫大な負の遺産が築かれてきました。このままだと、今、小学生ぐらいの子が成人して社会に出た頃、相当な大増税時代になるのはまず間違いありません。それって次世代に対する虐待以外の何物でもないですよ。その流れを僕は今、ここで止めたいんです」

―誘拐事件の謎解きを楽しみながら、日本社会が抱える問題も学べる。「社会派ミステリー」としてのバランスが本当に絶妙でした。

「そのへんがうまくいっているとしたら、女性誌の編集をしていた頃の経験が生きているのかもしれません。当時、タイアップ記事を作っていたんです。企業から『商品を宣伝してほしい』という形で広告費をもらうのですが、広告には見えないような記事を作るんですね。あくまでも記事を楽しんでもらいながら、読者にその商品への興味を促すということをずっとしてきたんですよ。僕が今小説でやっていることも、同じ感じかもしれません」

―今後もミステリーとしての面白さを確保しながら、日本社会が抱える問題を突きつけるような作品を書いていってほしいです!

「書く気満々です。これを超えるものを年内に必ずや、と思っています。何しろ僕の中にはまだまだ、世の中に訴えたいことがいっぱいありますから」

(取材・文/吉田大助 撮影/武田敏将)

●八木圭一(やぎ・けいいち)




1979年生まれ、北海道十勝出身。横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業。雑誌編集者を経て、現在はコピーライター。本作で宝島社『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、作家デビューを果たす

■『一千兆円の身代金』




宝島社 1470円




大物政治家の孫を誘拐した犯人グループは、日本政府に身代金1085兆円を要求した。「この額は五日前、昨年度末時点でのわが国の財政赤字額です」。とうてい実現不可能な要求を犯人が突きつけてきたのはなぜか。首謀者とされる「革命家N」は何者なのか?




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