加藤嘉一「中国の南シナ海石油掘削終了は“意図ある撤退”と見るべきです!」

週プレNEWS / 2014年8月4日 11時0分

力ずくの手法で、沿岸国との衝突も恐れず突き進む――。中国の南シナ海戦略は、日本ではそんな印象でしょう。しかし、そのイメージは本当に正しいのでしょうか?

7月15日、中国が南シナ海・西沙(せいさ)諸島付近で行なっていた石油掘削(くっさく)作業を、予定より1ヵ月早く終了しました。南シナ海では、島嶼(とうしょ)部の領有権をめぐり中国とベトナム、フィリピンなど周辺諸国の間で緊張状態が続いています。

今回の中国の行動を「国際社会の批判に屈した」とみる向きもあるようですが、ぼくの知る情報、そして皮膚感覚からすれば、現実はもう少し複雑。中国はあくまでも戦略的かつ計画的に、掘削作業を早期終了したのではないかと思います。

中国の南シナ海における“拡張的行動”を理解するに当たって、認識しておくべき点は以下の3つです。

(1)“大国ゆえの誤解”が生じている。




(2)中国は、周辺国を含む諸外国が考えているよりも慎重に事を進めている。




(3)ベトナムとの石油掘削問題に関しては、すでに“落としどころ”を考えている。

まずは(1)について。中国共産党の幹部から以前、こんなつぶやきを聞いたことがあります。

「大国は何をやっても誤解される」

今や中国は明らかに大国です。各国メディアはその動向を報じ、時には誇張して裏側の“意図”を読み解こうとする。特に領土問題は国益に直結するイシューですから、表向きは強硬に主張するわけですが、その強硬さが必要以上に強調され、実際の意図とはかけ離れた“誤解”が生じるケースもあるのです。実はアメリカにも似たようなところがあり、米中両国は“大国ゆえの悩み”を共有しているといえます。

続いて(2)。今後の経済・人文交流の必要性を考えると、中国は東南アジア諸国を完全に敵に回すわけにはいきません。前述の石油掘削作業が始まったのは5月2日でしたが、ある中国海洋当局の高官によれば、本当はもっと早く開始する予定だったそうです。中国は中国なりに関係国との関係を憂慮し、慎重に事を進めている。これは(1)とも通じますが、安易な軍事行動をとるほど非戦略的な国家ではありません。

そして(3)。中国政府の政策決定に関わる北京在住の研究者によれば、共産党内でいま議論されているのは、中国側からベトナムに油田の共同開発を持ちかけるシナリオだといいます。ただしその際は技術力、資金力、人材力で上回る中国がイニシアチブを握り、掘削オペレーションを担当する。ここがひとつの妥協ライン、落としどころというわけです。

これに関しては、かつて東シナ海のガス田開発交渉をめぐって日本側が犯した“失敗”もひとつの参考にされていると推定されます。

2008年に当時の胡錦濤(こきんとう)国家主席が来日した際、中国側は東シナ海の「白樺(しらかば)」というガス田の共同開発者として日本企業の参加を認めました。このガス田はいわゆる「日中中間線」の中国側に位置しているため、外交的には「日本側が取るものを取った」といえる交渉でした。

ところが、これで盛り上がった日本側に“勝利”を叫ぶ関係者がいて、それがメディアなどを通じて中国側にも広く伝わってしまった。自国民から「日本に対して軟弱」と思われることを一番いやがる中国当局は態度を硬化させ、「中間線を認めたわけではない」という声明を発表。以後、現在に至るまでガス田共同開発をめぐる進展はありません。

ぼくが尊敬するある日本の外交官は、「成功する外交交渉とは“51対49”だ。取りすぎると絶対にうまくいかなくなる」と言っていました。つけ加えるならば、勝ったことを喧伝(けんでん)するのは絶対にダメということ。相手国のメンツを潰(つぶ)すような外交は長続きしないからです。

中国は日本の“失敗例”を反面教師として、外交戦略を構築している。相手を立てて勝つ、譲歩したふりをして勝つ。それ以上に狡猾(こうかつ)な交渉があるというなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)




日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(集英社)など著書多数。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!




http://katoyoshikazu.com/china-study-group/

週プレNEWS

トピックスRSS

ランキング