蔓延(まんえん)する“危険ドラッグ”依存の対応に、日本は25年遅れている!

週プレNEWS / 2014年8月25日 6時0分

覚せい剤取締法違反の罪(所持、使用)で起訴されたASKA(本名・宮崎重明)の初公判が、8月28日に迫った。大物芸能人の逮捕をきっかけに、再び薬物使用がクローズアップされている。

特に問題視されているのが危険ドラッグ(脱法ドラッグ)だ。6月に東京・池袋で暴走車が8人を死傷させた事故は記憶に新しいが、警察庁によると今年1月から6月に危険ドラッグを使用して悪質な事故を起こした事例は前年の倍近くの33件に上る。店頭やネットで購入できる危険ドラッグは、今や広く蔓延しているのだ。

薬物依存の研究を行なう、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦氏が解説する。

「私たちの調査では、危険ドラッグの使用経験者は少なくとも40万人と推計されていますが、実際にはその倍はいるのではないかと考えています」

仮に80万人とすると、鳥取や島根県の人口を上回る。さらに、危険ドラッグの利用者が薬物全体に占める比率も急速に上がっているのだという。

「薬物を使用したことのある人たちは、国内でだいたい100万人から200万人います。このうち2012年までの調査では覚せい剤が4割でトップでしたが、今は危険ドラッグがそれを追い抜く勢いです。実際、うちの病院を訪れる薬物依存者の6割は危険ドラッグの利用者です」

なぜ、そんなに急速に普及したのだろうか。

「入手しやすいことに加え、依存性が強いことも影響しているのではないかと分析しています。ヘロイン、覚せい剤は強い依存性を持つ薬物ですが、臨床で見ている限り、危険ドラッグは覚せい剤より強い依存性がある印象を受けます。例えば、危険ドラッグで痙攣(けいれん)発作を起こして救急搬送されてきた患者さんが、退院してすぐまた使用し、搬送されてくる。ほかのドラッグではこんなケースはありません」

大麻や覚せい剤などを隠れて使用していた人が、危険ドラッグに切り替えた途端、おかしくなる人も多いという。強烈な依存性に危険性を感じてまた覚せい剤などに戻っても、そのときはすでに遅し。快感が忘れられず、また手を出してしまうというから手に負えない。 危険ドラッグが出回り始めたのは2008年頃。その頃は含まれている成分も単純なものだった。しかし、法規制を潜り抜けるために成分が刻々と変化し、わずか6余りでモンスタードラッグになってしまった。 なかには「エンジェル・ダスト」と呼ばれ、かつて米国で使用者が殺人事件などを起こして社会問題になった伝説の薬物が、尿検査から出たこともあるという。

薬物使用の大きな弊害は、幻覚や幻聴によって他人を傷つけたり、時には殺してしまったりすることだ。たとえ事件を起こさなくても、繰り返し使うと依存症になり、薬物なしでは生活できなくなる。薬物依存症にかかった女性が振り返る。

「私の場合は覚せい剤でしたが、効いている間はまともに会話ができます。ですが、いったん切れると相手と目も合わせられない上、何もしたくなくなる。なので、社会生活を送るために覚せい剤を使わざるを得なくなるのです。そうなると、クスリを買うために働くという悪循環。仕事で稼いだお金はすべて覚せい剤に消えてしまいました。何しろ枕元に覚せい剤がないと、心配で寝ることもできないのです」

依存症は世界保健機関(WHO)でも認められているれっきとした病気。だが、薬物使用が繰り返し社会問題化する割には、そうした人たちを治療する医師や回復施設が日本には少ない。

前出の松本氏によると、現役の薬物依存の専門医は日本ではわずか10人程度。治療施設も20ヵ所ほどしかなく、欧米各国と比べて大きく立ち遅れているという。

「薬物依存への偏見が理由に挙げられます。医師は、暴れるなどして扱いが難しい患者を敬遠したがるし、治療のための施設を公費でつくる話になると『罪を犯した薬物依存者に税金を使うのか』との反発が出かねません。それと比べて、取り締まりにはコストが大してかからないので、どうしてもそちら優先に動いてしまうのです」

薬物依存からの回復施設を全国に持つ「日本ダルク」本部の三浦陽二ディレクターも同じ意見だ。

「私たちの施設をつくる際、必ず近所から反対の声が出る。それは日本の政策が『薬物は怖い、恐ろしい』と脅すやり方のみできたから。それには一定の効果はありましたが、半面、薬物依存者の救済体制の整備が遅れ、依存者を増やす結果になってしまったのです」

依存症は自力では治せない。そもそも自力で立ち直れるものは、依存症と呼ばない。クスリをやめたことで生じるつらい離脱症状を脱しても、再び手を出してしまうのが依存だ。そのため、欧米の薬物依存対策は「刑罰から治療」が主流だが、日本はそこから25年遅れていると関係者たちはいう……。

(取材/桐島 瞬)

■週刊プレイボーイ36号「薬物回復施設で見た依存者たちの壮絶現場ルポ」より(本誌では、ドラッグからの脱却と戦う施設患者たちの現実をリポート)

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