加藤嘉一「ビザ遅延問題への大使館員の対応に、アメリカの“強者の論理”を見ました!」

週プレNEWS / 2014年9月8日 11時0分

この夏、アメリカ国務省のビザシステムに異常が発生し、世界中で影響が出ました。大使館と交渉する過程で感じた、アメリカという国の“素顔”をご紹介します。

今年の夏は、ぼくにとってかつてないほどトラブル続きで、スリリングな熱い季節となりました。

7月上旬、羽田空港から北京空港へ向かう飛行機内で財布を盗まれました。かつて本コラムでも紹介した、約2年半前にイタリアのローマで買ったブルガリの財布。人生初のブランド品でした。

機内での状況を再現します。ぼくの横には夫婦と思しき男女(推定32歳前後)が座り、チラチラこちらを見ていた。ぼくは席で財布を整理するなど、睡眠不足で意識が朦朧(もうろう)としていたとはいえ、あまりに無防備すぎた。財布をカバンに入れて足元へ置き、トイレへ行くと、女性も席を立った。席に戻り、着陸後に飛行機を降りてカバンを開けたら、財布はなかった。

今思えば、女性はトイレの個室には入らず、ぼくの見張り役として席を立ったのでしょう。盗られたのはあの数分間以外に考えられない。財布の中には現金やクレジットカードだけでなく、ハーバード大学や北京大学アラムナイ(同窓会)のIDなども入っていたこともあり、北京到着後、一応公安へ盗難届を出しました。公安の担当者によれば、こうした機内での盗難事件は、特に中国の国内線でしばしば発生するそうです。

腹立たしいのは自分のうかつさ、危機管理意識のなさです。戒(いまし)めとして、ぼくは今後5年間、財布を買わないと決めました。当分はお札と小銭を直接ポケットに入れて持ち歩きます。結局、ぼくはブランド品と相性が悪いということでしょう。

7月末にも事件が起きてしまう。今度はブルガリどころではない、ぼくにとって死活問題に直結するトラブルです。

ぼくは9月からジョンズ・ホプキンス大学で働くにあたり、北京のアメリカ大使館へビザを申請し、パスポートを提出していました。面接や書類手続きは順調に進み、発給を待つのみでしたが、米国務省のビザシステムに技術的な問題が生じ、発給が遅延していると発表されたのです。後で聞いたところ原因はハッキングのようですが、ぼくのビザも予定日に発給されませんでした。

今回、中国に滞在できるのは2週間まで。それを超えると「不法滞在」の記録が残ってしまう。今後の中国での活動に支障をきたすことだけは避けなければならない。そこで、パスポートを返してもらうためにアメリカへのビザ申請をいったん取り消そうとしたのですが、そうすると今度は「アメリカ合衆国からビザ申請を拒否された」との記録が残ってしまうという。ぼくの現在の本拠地はアメリカですから、これもまた足枷(あしかせ)になってしまいます。

結局、なんとかビザ申請を継続したままパスポートを一時返却してもらい、とりあえずタイに出国して不法滞在を回避。数日後、再び北京へ戻り申請を再開したものの、事態が好転する気配は見られない。アメリカ大使館と約2週間交渉を続け、不法滞在になる直前にビザが発給されました。日本への帰国は予定より10日遅れ。中国滞在中もパスポートが手元になかったので飛行機やホテルの利用すらままならず、日中両国で予定していた多くの仕事がキャンセルになってしまった。

被害者はぼくだけではなく、世界中で大混乱になっていたのは想像に難くありません。しかし、アメリカ大使館員に「損失は補填(ほてん)されるか?」と聞くと、やけに堂々とした態度で「しない」と言われる。理由を問えば、驚いたことに「われわれはアメリカですから」と言う。意訳すれば、「別に『アメリカに来てくれ』なんて頼んだ覚えはない」ということでしょう。これぞ強者の論理!

ヒヤヒヤの連続で生きた心地はしませんでしたが、この夏は貴重な経験ができました。絶体絶命のピンチ以上に自分を成長させてくれるものがあるというなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)




日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員。『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(集英社)など著書多数。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!




http://katoyoshikazu.com/china-study-group/

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