愛がない? 歴史的スタートを切った電気自動車「フォーミュラE」のテレビ中継がヒドすぎる!

週プレNEWS / 2014年9月23日 6時0分

電気自動車による初のフォーミュラカーレースが北京で開催! もちろん、F1のような鼓膜の奥まで響くエンジン音もなければ、排ガスもゼロ。新しいカテゴリーのレースとして注目を集めるが、果たしてこれが未来のレースの形といえるのか……?

■最終ラップで、「はい、サヨウナラ」

9月13日、中国・北京で歴史的なスタートを切った、電気自動車(EV)による世界初のフォーミュラカー選手権「フォーミュラE」。その開幕戦を地上波のテレビ朝日で観ながら、思わず腰が抜けそうになった。

ひどい、あまりにもひどすぎる……。いや、フォーミュラEのコトではない。レース以前の問題として、テレビ朝日によるフォーミュラE中継の想像を絶する出来の悪さに、「ボー然」とするしかなかったのだ。

国内では、F1の地上波中継すらなくなってしまったこのご時世に、テレビ朝日がフォーミュラEを全戦、それも地上波で中継するというのは画期的なコトだと期待もしていた。

しかし、フタを開けてみれば、冒頭から表面的で中身のない盛り上げ演出満載だった。

アイルトン・セナの甥っ子ブルーノ・セナと、アラン・プロストの息子ニコラス・プロストの参戦を「伝説のセナ・プロ対決再び」と無理やり持ち上げたり、日本チームとしての実体などないアムリン・アグリチームにエグゼクティブ・チェアマンとして起用された鈴木亜久里(あぐり)の存在や、佐藤琢磨(たくま)の参戦をやたらと強調していたのだ。

「モータースポーツに詳しくない一般の人々の関心を引くため」のそうした演出は、ある程度覚悟していた。

だが、肝心のレース中継といえば予選順位のマトモな紹介すらなく、実況アナウンサーは誰がどのマシンに乗っているのかもあいまいな様子で、レース展開についてもほとんど追えていないのではないかと感じてしまうほどのオソマツさだった。

また、なぜか司会者に起用された松岡修造とアナウンサーのトンチンカンな質問に、苦しげに答え続ける元F1ドライバーの解説者、片山右京(うきょう)が気の毒に思えたのは筆者だけか?

挙句(あげく)の果てには、前半の過剰な演出に時間を割(さ)きすぎたのか、レースの最終ラップで放送時間が足りなくなり、「はい、サヨウナラ」という驚愕(きょうがく)のエンディングである(怒)。

もちろん、レースをより幅広い人たちに親しんでもらうため、「初心者目線」を大切にした番組を作るコトに異論はない。だがそれは、番組を作っている連中も「シロウトでOK」というハナシじゃないはずだ。

たとえるなら、野球のルールも選手の名前も知らないスタッフが制作したプロ野球中継に、クダらない盛り上げ演出をタップリと施して、9回裏で放送時間切れ……という感じか?

まあ、筆者のようなマニアックなレースファンが怒ろうと、それはどうでもいい。だが、あんな中継ではこの先、誰もフォーミュラEに興味など持たないだろう、というのが率直な感想だ。

■「エコは金になる」で面白いものはできない

そんなフォーミュラE開幕戦の印象について、真っ先に尋ねてみたかった人がいる。EVひと筋20年、自動車評論家で「日本EVクラブ」の代表、舘内端(たてうち・ただし)氏だ。舘内さん、フォーミュラEはどうでした?

「主催者側やそれを伝える側が『EVレースの魅力』をきちんと理解していないのがとても残念ですね。大きな間違いは、『EVを使って既存のエンジンを使ったフォーミュラレースと同じようなモノができますよ』というフォーミュラEのコンセプトです。

馬と鹿が違うように、ガソリン車とEVはそもそも違うもの。つまり、『鹿で競馬』をやろうとするから、『馬鹿』なことになる。EVにはEVにしかできない、EVレースならではの魅力があるはずなのに、そこを追求しようとしないからダメなんです。

EVは音が静かだし、排ガスも出ない。それを生かして街中の公道でレースを開催するというのは良いアイデアだと思う。でも、EVの特性を生かすアイデアはそれだけじゃない。




例えば、音が静かなEVレースなら、ドライバー同士やレース解説者、場合によってはファンがレース中に無線で会話するのも簡単です。ドライバー同士の『おまえ邪魔だからどけ!』とか『抜かせてたまるかぁ!』みたいな会話が、観客やテレビ視聴者も共有できたら、これまで見えていなかったレースの一面を楽しむことができる。レース中に解説者がドライバーにインタビューしちゃうとかね?

また、レース中にクルマを乗り換えるとか、『電費』をケチってペースを上げないことが問題になるなら、レースの形式を航続距離の短いEVに合わせて考え直せばいい。例えば、2台ずつ、3ラップの超短距離をパワー全開で争うトーナメント形式とかのほうが、絶対に盛り上がりますよ」

もちろん、今年はまだフォーミュラEの1年目。ある意味、「暫定的なスタート」という側面があるのは確かだろう。2年目以降は順次、新たなマシンやモーター、バッテリーなどの参入を図り、F1のような技術的開発競争も可能にしたいと主催者側は考えているという。

ともかく、100年以上も続いた「内燃機関」とオサラバし、電気の力で自動車レースの新たな未来を切り開こうというのだ。舘内氏が指摘するように、EVの新たな可能性を最大限に生かし、もっと自由な発想で誰も経験したことのない、レースの新しい魅力を生み出せる可能性は十分にあるはずだ。

「でもね、そのためには『愛』が必要なんだ。EVを使って、新しくて、面白いレースをつくりたいという純粋な愛がね。F1やル・マンだってそう。今は巨額のお金がうごめく世界でも、最初は『愛』から始まっているからこれだけ大きくなったんです。単に、『エコは金になりそうだから』とか、そんな発想だけで何かをやっても面白いものは絶対につくれない!」(舘内氏)

うーん、舘内師匠ならではの実に深いお言葉! そうだ、愛かぁ、愛だったのかぁ……。

ようやく第一歩を踏み出したばかりのフォーミュラE。本当に自動車レースの「未来」を切り開けるかどうかは、主催者とそれを育てる人たちの「愛」にかかっている!

(取材/川喜田 研)

■週刊プレイボーイ40号「自動車レースの未来はオール電気か?」より(本誌では、レース自体についての詳細なリポートも掲載!)

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