脳科学者・中野信子「人間は実力のある人よりも、確信のある人のほうにひかれるのです」

週プレNEWS / 2014年9月23日 11時0分

「出世やお金儲けの努力は生物の観点からは間違い。本来の目的は“生存と生殖”です」と指摘する中野信子氏

東京大学卒の脳科学者。『平成教育委員会2013!! ニッポンの頭脳決定戦SP』(フジテレビ系)で優勝し、“ニッポン一優秀な頭脳の持ち主”の称号を得た中野信子さんが今年、脳に関する3冊の本を出した。

それが『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』(幻冬舎新書)、『努力不要論 脳科学が解く!「がんばってるのに報われない」と思ったら読む本」』(フォレスト出版)、『脳はどこまでコントロールできるか?』(ベスト新書)だ。

私たちの脳は、いったいどんな働きをしているのか。この3冊を読めば、脳の構造や最新機能が少しだけわかるようになる。

―まず『脳内麻薬』では、人間には「生物的な快楽」と「報酬的な快楽」があると書かれています。これは、どういうことでしょうか?

中野 「生物的な快楽」とは、おいしいものを食べたり、セックスをしたときに得られる直接的な快楽です。「報酬的な快楽」とは、農作物を育てたり受験勉強をするなど、ある目的を達成するため努力しているときに得られる快楽です。ランナーズハイなどもこれに当たります。

そして、報酬的な快楽のほうが、直接的な快楽より強いんです。よく、「ゲームにハマっていてご飯を食べるのを忘れていた」ということがありますが、それは食欲によって得られる快楽をゲームが代替しているからなんですね。そして、こうした報酬的な快楽のなかでも特に強いのが“自分語りの快楽”です。

SNSなどで自分の行動や考えを書くと世界中の人から「いいね!」などと肯定されます。こうした社会的報酬はセックスの快楽よりもすごく大きい。

今は少子化が問題になっているので、本来ならばもっと性欲を発揮してもらわなければ困るのですが、現代はこうした強い快楽があるので、皆さんセックスをしなくなっているのではないでしょうか。

―セックスといえば、よく愛があるからセックスをするのか、セックスをするから愛が深まるのかという議論がありますが……。

中野 これは、「生物的快楽のセックス」と「報酬的快楽の愛情」と、どちらも同じ快楽物質のドーパミンが出るために混乱しているのですが、セックスと愛情は別ものです。切り離して考えなくてはなりません。そして、多くの動物は性行為だけあれば十分なんです。

ちなみに、一夫一婦制のほ乳類は全体の3%しかいません。一夫一婦制の代表的な存在にプレーリーハタネズミがいますが、一匹のメスとの愛着形成ができるとほかのメスを脳が受け入れないんです。でも人間は違いますよね。再婚もするし、婚姻関係があっても、ほかの異性と浮気をします。人間の脳は一夫一婦制のほ乳類の脳とは違う構造なんです。

―ということは、人間は浮気をする脳だということですね。次に最新刊の『脳はどこまでコントロールできるか?』は、脳の錯覚について書かれています。そして、脳には「速いシステム」と「遅いシステム」の二重の意思決定回路があると……。これはどういうことですか?

中野 脳には、あらゆることに迅速に対応する「速いシステム」と、論理的・理性的に判断する「遅いシステム」のふたつがあります。

情報量が多く、変化の激しい環境の中で生きていると迅速な判断が求められます。わかりやすく言えば「直感」などです。しかし、この速い決断は間違うことが多い。 そこで、「今の判断は間違っていたんじゃないか」と検証するシステムを働かせます。

マシュマロ実験というものがあって、子供の前にお菓子を用意して「15分間留守にするけど、帰ってくるまでにお菓子が残っていたら、もう一皿あげるからね」と言って、その部屋を出ていきます。すると、7割の子供は15分間我慢できずに食べてしまうんです。

15分待てばマシュマロを倍食べられて得をするという論理的思考は人間の進化の過程で後からできた回路なので、なかなか優位に働きません。

同じように大人にも拙速な判断をする個体のほうがまだまだ多くいて、その割合はやはり7対3くらいだといわれています。

もし、間違った行動を起こしたくない場合は、拙速な判断は避けるべきです。そして、じっくりと考える癖をつけるといいかもしれません。

―また、リーダーを選ぶときにも脳は正確な判断ができないということですが……。

中野 話し合いをしていると、最初に確信を持って発言した人にシンパシーを感じる人が多いのです。

そのため、後から最初の人の意見がなぜ間違っているのか、自分の意見がなぜ正しいのかをみんなが納得するように説明してもなかなかリーダーにはなれません。

これも速いシステムの影響を受けていて、7対3の割合でそうなります。つまり、人間は実力のある人よりも、確信のある人のほうにひかれるのです。

―でも、そうやってリーダーを決めていると、間違った方向に行ってしまいませんかね。

中野 それが人間の歴史なんです。間違った方向に行ったとき、間違ったリーダーを選ばなかった3割の人たちが「おかしい!」と声をあげて、世の中を変えていくしかないんです。

―今の日本のリーダー安倍晋三総理の支持率が高いのは、確信に満ちた話し方をするからなのかもしれませんね。話は変わりますが、「なんだか今回は当たる気がする」と思って宝くじを買ってしまうのも脳の錯覚なわけですよね。

中野 よく「当たる確率は低いけれど、自分は運がいいから当たるかもしれない」と考える人がいますが、これは認知バイアスがかかっているためです。宝くじの1等が当たる確率は1000万分の1です。東京都の人口のうちひとりしか当たりません。

人間は論理的な結論より、「俺はついてる」とか「自分だけは大丈夫」「俺は助かる」などと思い込みがちです。

もし、そう考えないで、例えば危険に遭う可能性をすべて理解していたら、街は歩けなくなります。ちなみに、一生の間で交通事故に遭う確率は53%で、宝くじに当たる確率よりずっと高いんです。人間は根拠のない思い込みができるから生きていけるのです。

―最後は『努力不要論』ですが、なぜ努力が必要ないんですか?

中野 これは無駄な努力をしている人が多いので、正しい努力をしてほしいと思って書いた本です。というのも、多くの人は努力の目的を出世とかお金儲けに設定しています。しかし、生物の観点から見るとそれは間違っていて、本来の目的は“生存と生殖”です。

脳は生殖に最適なパートナーを探し出して、どこに行ったらおいしいものが食べられるかなど、生存確率を高めるためにいつも意思決定しています。

人間の大きな目的が生存である以上、今生きている人の人生は、いいことも悪いことも含めてみんなボーナスみたいなものなんです。それならば、苦しい思いをして出世しようとか、お金儲けをしようとか考えずに好きなように人生を楽しんだほうがいいのです。

(構成/村上隆保 撮影/村上庄吾)

●中野信子(なかの・のぶこ)




1975年生まれ、東京都出身。脳科学者、医学博士。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。その後、フランスの国立研究所にて研究員に。現在は横浜市立大学客員准教授、東日本国際大学客員教授。高IQの国際組織「MENSA」会員

■『脳はどこまでコントロールできるか?』




ベスト新書 778円+税




人間の脳がどれだけ正確に物事を判断していないか、どれだけ錯覚しているかなどを実例とともに紹介。また、成功者の生き方や考え方をまねすると脳がイメージを重ねて、同じような結果に結びつくことがあるなど、脳を使いこなすテクニックも教えている




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