対岸の火事ではない「イスラム国」問題。武力ではない日本の貢献の形とは?

週プレNEWS / 2014年10月21日 6時0分

「日本は武力ではなく、『弱者救済』というイスラムの法理にも合った形で、中東地域へ積極的な貢献をするべきです」と提言する宮田律氏

急激に存在感を増す「イスラム国」の登場で一気に混迷の度合いを深める中東情勢。

イラクに続き、2016年末までにアフガニスタンからの撤退を予定していたアメリカ軍は、イスラム国への空爆を開始し、砂漠の戦いに引きずり戻された格好だ。日本でも、イスラム国へ渡航を企てていたテロリスト志望の大学生らが警察の事情聴取を受けるという、前代未聞の出来事まで起きた。

今、世界中にテロの脅威をもたらしているイスラム国とはいったい何者で、何が彼らを生み出したのか?

イスラム原理主義の嵐が吹き荒れる“中東の今”を、中東地域の歴史、イスラム教やイスラム文化に精通する、現代イスラム研究センター理事長の宮田律(おさむ)氏に聞いた。

■アメリカのイラク統治失敗がイスラム国を生み出した

―中東情勢は新たな展開を迎えています。なかでもクローズアップされている、イスラム国とはなんなのでしょうか?

宮田 アメリカ同時多発テロ事件を起こしたアルカイダの流れをくむ、イスラム過激派組織です。指導者はアブー・バクル・アル=バグダディという人物で、シリア内戦の混乱に乗じて、アサド政権を倒したいサウジアラビアやクウェート、カタールといった国々の支援を受けながら成長してきました。

シリアのラッカという街を皮切りに、今年6月にはイラク北部のモスルを制圧。シリア、イラクの両国にまたがる広い地域を非常に短期間で支配したのです。

―それにしてもなぜイスラム国はこれほど急激に拡大しているのでしょう?

宮田 その最大の原因は、イラク戦争後の、アメリカによるイラク統治の失敗でしょう。

もともとフセイン政権時代のイラクは少数派のスンニ派が、国民の多数派であるシーア派住民を支配していました。ところが、イラク戦争後にアメリカ主導でつくった「マリキ政権」は、それまでとは逆にスンニ派を追いやり、旧イラク軍の出身者やフセイン政権時代の官僚を根こそぎ公職から追放したのです。

彼らは、組織的な軍事力、官僚が持つ行政力を備えていて、「国家」としての能力を持っています。そうした人々がイスラム国の国家づくりに役立っているのでしょう。またそこに、イラクの正規軍から奪った大型の兵器、支配地域の油田からの資金がもたらされ、急激な勢力の拡大につながったのです。

特にイラク北部で勢力を広げられたのは、シーア派のマリキ政権に対するスンニ派住民の不満から、地域の部族長が次々とイスラム国を支持していることが非常に大きいと考えられます。

このように、イスラム国は、アメリカによるイラク統治の失敗が生み出したと言っても過言ではないのです。

■複雑に入り組んだ中東情勢。誰が敵か味方かわからない

―ただでさえ複雑に入り組んだ中東各国の思惑が、イスラム国の登場によって、さらにこんがらがっているように見えます…。

宮田 ええ、正直に言って超混乱状態です。現在、アメリカはシーア派主体のイラクとともにイスラム国と戦っているわけですが、そのイスラム国はアメリカが倒したいと思っているシリアのアサド政権と戦っている。つまり、アサド政権はアメリカとイスラム国にとって“共通の敵”ということになります。

その一方で、アメリカと犬猿の仲でアサド政権を支援しているシーア派のイランは、イラクのイスラム国との戦いを支援しています。ここではアメリカと宿敵イランが助け合うという構図になっているのです。

しかも、イスラム国を陰から資金援助しているといわれているサウジアラビアは今回、アメリカの要請を受けてイスラム国攻撃にも参加している……。

―うわー、本当に誰が味方で誰が敵なのか、あまりに複雑すぎてよくわからなくなってきました……。

宮田 こうした混乱は日本人にとっても対岸の火事ではありません。例えば今後、イラク南部の油田が爆破されたり、イスラム国の支配下に入ったりすれば、日本でのガソリン価格はリッター当たり250円を超えるともいわれます。原油価格の変化は、日本経済の行方を大きく左右しますから、その影響は小さくないでしょう。

また、アメリカ軍は今後、イスラム国との戦いが3年は続くと考えています。となると、オバマ政権の任期はとっくに超え、最終決着は次の政権に委ねられるということです。もし共和党政権になったらもっと手荒い行動に出るかもしれない。それにもかかわらず、攻撃を進めるというのは実に無責任な話だと思うのです。

―その間に、日本が「集団的自衛権行使」に関する法案を成立させれば、近い将来、アメリカ軍の支援という形で日本がイスラム国との戦いに巻き込まれる可能性だって十分にありそうです……。

宮田 そこで、皆さんに知っておいていただきたいことがあります。それは、一般的に言って中東諸国では日本人が大変尊敬されているということです。ですから、日本人はアメリカ軍と一緒に「テロとの戦い」に参加するのとは別の形で、貢献できることがあるはずです。

イスラム教には本来、「弱い立場の人たちを助ける」という考え方があります。日本は武力ではなく、そうした「弱者救済」というイスラムの法理にも合った形で、中東地域へ積極的な貢献をするべきです。

例えば、教育や医療支援、雇用対策などがいいでしょう。それはイスラム圏での日本の好感度を上げることにもなりますし、日本人をテロの脅威から助けることにもつながります。そのほうがよっぽど「積極的平和外交」だと思うのですが。

(構成/川喜田 研 撮影/村上宗一郎)

●宮田 律(みやた・おさむ)




1955年生まれ、山梨県出身。現代イスラム研究センター理事長。83年、慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修了。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院歴史学科修士課程修了。専門は現代イスラム政治研究、イラン政治史。『現代イスラムの潮流』(集英社新書)、『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』(新潮新書)、『日本人として知っておきたい 世界を動かす現代イスラム』(徳間書店)、『イスラム 中国への抵抗論理』(イースト新書)など著書多数

■『世界を標的化するイスラム過激派 「アラブの春」で増幅した脅威』




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アラブ諸国の民主化運動「アラブの春」を経てますます活発化し、台頭するようになった「イスラム原理主義」と「イスラム過激派」。出口の見えないシリア内戦が続くなか、イスラム国が勢力を拡大。中東情勢は混迷を極めている。彼らの行動原理とは? なぜ増殖するのか? アメリカが中東問題を解決できない理由とは? そして日本にしかできない貢献のあり方を指摘する

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