すでに国内でも40万頭が死亡! 下痢ウイルス大流行で国産豚が食べられなくなる

週プレNEWS / 2014年10月28日 6時0分

8月に「崎陽軒(きようけん)」が横浜名物「特製シウマイ(6個入)」を670円から700円に値上げし、10月に入って「餃子の王将」がギョーザの本体価格を20円値上げするなど、豚肉を主な原材料に使った商品や外食メニューの値上げが相次いでいる。

実は今年、豚肉の価格がかつてないほどに上昇しているのだ。それは国内産に限らず、輸入豚肉も同じだ。

食品業界誌編集長のA氏も驚きを隠せない。

「日本が国内流通量の4割を頼る米国産豚肉の価格は昨年から値上がり、今年に入ってさらに急上昇。特に3月、4月は前年比5割高、直近の8月でも1割高の値をつけています。この業界に勤めて20年ですが、国産も輸入物もこれだけ値が上がった年は記憶にありません」

こうした状況を受け、7月には日本ハムハム・ソーセージ135品目の価格を平均10%上げるなど、大手食肉メーカーも一斉値上げに踏み切った。

円安や原油高の影響で原材料費や包装資材、輸入飼料の価格が上がっていることが価格高騰の主な理由だが、さらに今年は豚肉業界で“ある深刻な問題”が発生し、これが価格暴騰に輪をかけた形になっているという。

前出のA氏がこう話す。

「致死率が非常に高い『豚流行性下痢(PED)』の世界的な流行です。米国では昨年4月に初めてPEDが確認され、わずか1年で米国の総飼養頭数の1割超に当たる700万頭が死亡。これによって出荷頭数が激減し、米国産豚肉は過去にない高値圏まで高騰しました。

その後、感染ルートは解明されていませんが、おそらくは輸入飼料に混ざってウイルスが日本に流入し、昨年10月に沖縄で初めてPEDが発生。それからわずか半年で全国に感染が拡大し、38道県で約40万頭が死亡しました(今年8月末時点)」

PEDとは一体……?

「人体への感染はなく、豚とイノシシがかかる伝染病で、糞尿などを介して感染し、発症した豚は下痢を起こします。大人の豚はしばらくすると症状が回復しますが、生後10日以内の哺乳豚(子豚)の場合、致死率は50から100%。日本では2006年(発症頭数3頭)と2001年(同2218頭)にも発生していますが、今回は桁違いの被害を出している。過去のものとは別種のウイルス株が猛威を振るっていると思われます」(前出・A氏)

PEDの最も恐ろしいところはその感染力。九州にある養豚場の経営者がこう打ち明ける。

「ウチでPEDを最初に確認したのは今年の2月。ある朝、分娩(ぶんべん)舎で床に下痢便が出ているのを確認し、昼の休憩前に再度見回りをすると別の4、5頭が下痢を発症、夕方には床全体に下痢便が広がっていました……。

PEDは過去にも経験したことがあるのですが、今回は1頭出たらそれが農場中にワッと広がってしまい食い止めようがなく……。急遽(きゅうきょ)取り寄せたワクチンも効き目が弱く、消毒しても感染は収まらず、初発からわずか10日で数百頭の子豚を死なせてしまいました」

関東地方の養豚場経営者からも、「1週間で100頭以上の子豚が死に、生き残ったのは3頭だけ」との証言があった。

しかし、なぜPEDの感染拡大を食い止められなかったのだろう?

「今回のPEDウイルスはワクチンの効き目があまり出ませんでした。米国の研究結果では、糞便1ml中に10億個ものPEDウイルスが存在し、消毒などで99.99%対応したとしても、まだ10万個ものウイルスが生き残るとされています。想定を超えるその感染力と病原性にほとんどの養豚場が対応できませんでした」(前出・A氏)




さらに、養豚農家に感染病の防疫の指導を行なうコンサルティング会社社長のB氏が感染拡大の原因についてこう話す。

「日本の養豚場では自前でトラックを持つところが少なく、家畜の輸送を専門の外部業者にお願いするところが多いんです。各業者は1台のトラックにギュウギュウ詰めで豚を積み、食肉処理場や養豚場間を行き来します。その間、荷台は糞尿まみれになり、豚を降ろしてはまた新しい豚を積んで輸送を繰り返し、途中で行なう消毒や洗車も完全なものではありません。今回の感染拡大は、このトラックの使い回しが原因のひとつになったと思われます。

また、口蹄疫や鳥インフルとは違い、PEDは感染被害がどれだけ深刻になっても現行法では出荷停止などの強制措置がとれません。それも感染が広がった原因かと」

こうしてPEDはパンデミック状態に陥り、豚肉価格は高騰した。現在、各養豚場では消毒などの防疫対策が徹底された成果もあり、8月以降、感染拡大は収まっている。

だが、PEDによる豚肉価格への影響が本格的に出るのはこれからだ。農水省食肉鶏卵課の担当者がこう話す。

「PEDによる死亡頭数約40万頭のうち、約7割が4月から6月に死亡したもの。豚は出産後、6ヵ月間肥育されて出荷されるサイクルがありますので、PEDの影響が最も出るのは10月から12月です。農林水産省では、PEDの影響がなかった場合と比較して各月5、6%ほど出荷頭数が減ると予測していますので、今後さらに豚肉価格は高騰する可能性もあります」

しかも、PEDウイルスは暑さに弱いが、寒さには強いという。そのため、これからの季節に再発する可能性もある。さらに……、

「各養豚場では豚舎内や輸送トラックなどの消毒を徹底し再感染を防いでいる状況ですが、現在使われている消毒液は気温5度以下になると消毒効果が著しく低下する弱点がある……。つまり、寒くなるとウイルスの攻撃力が増す一方で、消毒の防御力が格段に落ちてしまうわけです。この冬、PED感染が再ブレイクする可能性は決して小さくありません」

実際、10月12日に都内多摩地区の養豚場でウイルスが初検出されたという報道もあった。豚肉価格の大暴騰を招きかねないPED問題。今後の対策の徹底が望まれる。

(取材・興山英雄)

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