第50回 4月クール連ドラ反省会

ソーシャルトレンドニュース / 2019年7月13日 11時0分

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第50回 4月クール連ドラ反省会

さて――記念すべき50回目の「指南役のTVコンシェルジュ」である。

思い返せば、本コラムの第1回が、2016年3月10日。「テレビはオワコン!?」と題して、テレビを時代遅れなメディアと捉えがちな昨今の風潮に対して、「いえいえ、テレビはまだまだ面白い!」とぶち上げ、以来、テレビに関する様々な“面白がり方”を指南してきました。

お陰様で、そこそこご好評をいただき、連載は早や3年が過ぎ4年目に突入――肝心のテレビの方も、意外と言ったらアレだけど、まだまだ頑張ってます。いや、最近ますます面白くなってるとも――。
そんな次第で、今後とも我が「テレコン」をよしなに。

■ドラマのレビューに“復習”があってもいい

さて、50回目ですが、だからと言って何か特別なことをやる気はさらさらなく(笑)、平常運転で参りたいと思います。“いつも通りに、最高の一品を”――これが我が連載のポリシー。

で、今回は「4月クールの連ドラ反省会」で参ります。全部を取り上げても冗長になるだけなので、主要な5作品に絞ります。

え? とっくに終わったクールのドラマをなんで今ごろ取り上げるのかって? いえいえ、勉学に予習と復習があるように、連ドラにも予習と復習があっていいはず。むしろ予習は番宣絡みで、各媒体で散々やるけど、終わった後の復習は意外とやらないもの。ならば本連載でやりましょう。そう、エンタメとは温故知新。反省あってこそ、未来のドラマがより面白くなるのです。

■なぜ4月クールにエース級のドラマが揃わなかったか

まず、初めに申し上げておきます。先の4月クールの連ドラ、正直、各局のエース級の作品が揃っていたワケではないんですね。

かつては4月クールというと、年度替わりの大事な改編期だし、各局イチ押しのドラマが揃ったものだけど――近年はその限りじゃない。年の初めにスタートダッシュを競う1月クールや、1年で最も在宅視聴率の高い10月クールの方に、その役割が移りつつある(例えば、テレ朝の『ドクターX』シリーズは決まって10月クールだ)。

その理由はシンプルで、近年、ゴールデンウィークが大型化しているから。祝日法の改正で2007年以降、5月4日がそれまでの「国民の休日」から祝日の「みどりの日」に昇格して、5月6日が振替休日になるケースが増えたんですね。要は、連休が長引くと在宅率が下がり、視聴率も下がるから。近年、やれ8連休だ、9連休だと騒がれる度に、4月クールの連ドラの立ち位置は、徐々に低下していったんです。

そして今年、元号が変わって史上最長の10連休に――。こうなるとみんな遊びに出かけちゃって、もはやテレビどころじゃない。それが分かっていたから、今年の4月クールは例年にも増して、各局ともエース級のドラマの投入を控えたというワケ。

■その結果・・・

で、その結果、どうなったかと言うと、以下が主要なドラマのゴールデンウィークを含む前後の視聴率である(※太字がGW期間)。

ラジエーションハウス 11.5%(4/22)→9.1%(4/29)10.8%(5/6)→13.2%(5/13)
わたし、定時で帰ります。 10.4%(4/23)→6.5%(4/30)→8.4%(5/7)
インハンド 9.1%(4/26)→7.7%(5/3)→9.0%(5/10)
俺のスカート、どこ行った? 10.9%(4/20)→9.7%(4/27)7.9%(5/4)→8.6%(5/11)
いだてん 8.7%(4/21)→7.1%(4/28)7.7%(5/5)→8.7%(5/12)
なつぞら 22.5%(4/22~27)→20.7%(4/29~5/4)→21.3%(5/6~11)

――ほら、ね。予想通り、見事にGW期間中、どのドラマも視聴率を下げちゃった(そしてGWが終わると再上昇)。ちなみに、JTBによると今年のGW期間中の国内旅行人数、海外旅行人数とも過去最高だったそうで――。

■ピンチはチャンス

え? ならば、今年の4月クールのドラマは凡作ばかりだったのかって?
いえいえ、そんなことはひと言も申し上げておりません。単に、スター俳優や大御所の脚本家先生が登板しなかっただけで、こんな時こそ、逆に作り手としては、かねてから温めていたアイデアが試せるというもの。

例えば、キャリアは浅いが有望な若手脚本家を起用できる絶好の機会だし、目を付けていた若手俳優を重要な役に抜擢できる。むしろ“行政”(テレビ局と芸能プロダクションのバーターを含む阿吽の取引)が減ることで、作り手としてはフリーハンドの余地が増える。そう、ピンチはチャンスなのだ。

そんな次第で、先の4月クール、意欲的な作品もそこそこあったんですね。順を追って、解説していきましょう。

■なぜ『あな番』は2クールなのか

まず、4月クールで最も面白かったドラマ、それは日テレの日曜ドラマの『あなたの番です』で間違いないでしょう。

もっとも、同ドラマは2クール放映なので、まだ継続中である。今のところ、前半の「第1章」が終わっただけで、7月クール(6月30日スタート)から「第2章」に移行している。
それにしても、なぜ1クールが定番の連ドラの世界にあって、同ドラマは2クールなのか?

企画・原案は秋元康サンである。思うに、2クール展開は、世界のエンタテインメントと接する機会も多い秋元サンなりの戦略だろう。今や世界の連ドラ市場は、Netflixが火を点けた空前の巨大マーケットへと成長。1シリーズあたりの制作費が100億円なんてことも珍しくない(日本は1クール3~4億円)。それだけ投資しても、ちゃんと回収できるだけの巨大市場なんですね。

■バスに乗り遅れるな

ただ、日本の現状はどうかと言うと、バスに乗り遅れているのが正直なところ。大きな理由は2つある。前もこのコラムに書いたけど、1つは広告費で賄う日本の民間放送のビジネスモデルがある意味盤石で、伸びしろはないものの、国内市場だけで一応食べていけること。
もう1つは、日本の連ドラはリスク回避から1クール(10話程度)が多く、世界の連ドラ市場で取引されるのは基本2クールなので、流通に乗りにくいこと。

とはいえ、日本の連ドラ市場もいつまでも安泰である保証はなく、テレビの広告費もこの先、ますます縮小が予測されるので――日本も早くバスに乗るべきなのは、テレビ関係者は皆、分かっている。そのためには、まずは2クールドラマを作らないといけない。

――で、今回、秋元サンと日テレが手を組んで、リスクを承知の上、世界に売るための2クールドラマを仕掛けたという次第。枠は、このところ『今日から俺は!』と『3年A組』と、2期連続で結果を出している同局のチャレンジ枠――「日曜ドラマ」である。

■交換殺人ゲームとは

ドラマ『あなたの番です』は、とあるマンションを舞台に繰り広げられる新手のミステリーだ。
脚本は、劇作家で脚本・演出家の顔も持つ福原充則サン。テレ東の伝説のカルトドラマ『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』のシリーズ構成・脚本も手掛けた異色の才人である。ある意味、異色ドラマの書き手として、これほど相応しい人もいない。

物語は、15歳の年の差新婚カップル、手塚菜奈(原田知世)と翔太(田中圭)が引っ越してくるところから始まる。挨拶のために、マンションの住民会に参加する菜奈。そこで、ひょんなことから「交換殺人ゲーム」に発展する。
「交換殺人」とは、ミステリー用語で、互いに殺したい相手を交換して殺害する行為をそう呼ぶ。犯人に動機がないので、容疑者として疑われにくいというメリットがある――。

■ジョークが現実に

もちろん、ゲームはジョークだ。会の参加者13人は、「誰だって一人くらいは殺したい人物がいる」と、投票用紙にその名前を記入し、無記名で投票。シャッフルして、くじ引きのように1人一枚ずつ引いた。本来なら、それで終わるはずの、ほんの些細なユーモアだった。

ところが――その夜、ゲームの参加者の一人である管理人が不可解な死を遂げる。そして、例の投票用紙が一枚、マンションの掲示板に貼られていたのだ。そこには「管理人さん」の文字――。

ドラマは、それを起点に、不可解な殺害事件が次々と起こる驚愕の展開に。住民たちの間で「本当に交換殺人が行われているのか?」「次は誰が殺される?」「犯人は誰?」と、疑心暗鬼が渦巻く――というプロットである。

■元ネタはヒッチコック

映画好きの人なら、ここであの作品を思い出すだろう。そう、アルフレッド・ヒッチコック監督の不朽の名作『見知らぬ乗客』だ。
かの作品、まさに「交換殺人」を描いたもの。多分、『あなたの番です』は、これを元ネタにしている。なに、エンタメの基本は温故知新。旧作をオマージュして、現代風にアップデートする手法は王道中の王道。何ら問題ない。

ちなみに、『見知らぬ乗客』のストーリーを簡単に説明すると――テニスプレイヤーの主人公ガイ(ファーリー・グレンジャー)は、かねてより奥さんと上手くいっておらず、離婚したがっている。ある日、彼は列車で移動中に、ファンと称するブルーノ(ロバート・ウォーカー)と出会う。そして雑談するうち、ブルーノから「自分も父親を憎んでいる」と交換殺人を持ちかけられる――という話である。

■交換殺人の面白さの肝

もちろん、ガイはこの提案を冗談と解釈し、「完璧なアイデアだ」なんておどけて返し、2人は別れる。しかし後日――本当にブルーノはガイの奥さんを殺してしまい、ガイに「次は君の番だ」と、ストーカーのように付きまとい始める。犯人が次第にサイコパス化するのがこの映画の肝で、ヒッチコック流のゾクゾクする怖さがある。

そう、「交換殺人」の面白さの肝は、冗談で話していたことが本当に実行されてしまい、「次はあなたの番だ」と主人公が脅されるところにある。
実際、ドラマ『あなたの番です』も、ゲームの参加者の一人、藤井(片桐仁)は殺したい人物として、知人でタレントとして活躍する医師の山際の名前を書いたところ――本当に殺害され、それから連日、正体不明の何者かに「あなたの番です」と書かれたメッセージが届いて、とうとうノイローゼになる。

■1+1=3

もっとも、『あなたの番です』が秀逸なのは、単にヒッチコックの名作をオマージュしただけに止まらず、そこに“連続殺人”というアイデアを付加したこと。その結果、全く新しいクリエイティブが生まれたのである。

どういうことか。まず、『見知らぬ~』の方は2人の「交換殺人」だから、脅迫相手は分かっている。一方、『あなたの~』はゲームの参加者が13人もいるので、誰から脅迫を受けているのか分からない。そう、視聴者は「恐怖」に加え、そこに「謎解き」の要素も提示されたんですね。いわば、1+1が3になるようなもの――これが面白くないはずはない。

ちなみに、ミステリーの世界において、外界から切り離された舞台(吹雪に取り残された山荘など)で殺人事件が起きて、犯人が身内に限定される状況を「クローズド・サークル」と呼ぶが、同ドラマもゲームの参加者13人の中に犯人が限定される意味合いでは、その類型の1つだろう。加えて、被害者が一人ずつ増えていくくだりは、クローズド・サークル劇の傑作、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせる。

■視聴率が苦戦する要因

そんな次第で、『あなたの番です』は、相当面白いミステリーの要素が満載なんだけど――残念ながら、視聴率は同枠の前2作に比べると、第1章の平均視聴率が7.0%と、もう一つ盛り上がっていない。

原因の1つは、“マンション内連続殺人事件”という舞台設定の「遠さ」だろう。俗に「テレビドラマとお茶の間は陸続き」と言うが、前2作は学園ドラマで、何のストレスもなく、僕らはドラマの世界に入り込むことができた。
しかし、今回はマンション内における連続殺人事件の話だ。日常的にありえない設定だし、人によってはここで興味を失い、弾かれた視聴者もいただろう。

もっとも、同ドラマの場合、海外展開を考えているので、極めて日本的な学園ドラマよりは、いっそ奇をてらった設定で、広く色々な国の人に見てもらいたい――そんな思惑が働いたのかもしれない。

■視聴者はストーリーを見ない?

そして、もう一つの視聴率が振るわない原因――これは、同ドラマに限らず、テレビドラマ全般に通じる話なんだけど――ただストーリーが面白かったり、人気俳優が出ているだけでは、お茶の間は連ドラを見てくれないんですね。

どういうことか。脚本家の倉本聰サンが、上智大学の碓井広義教授との対談本『ドラマへの遺言』(新潮社)の中で、テレビドラマに対してこう警鐘を鳴らしている。
「映画からテレビに移ったときに、映画は〈ドラマ〉だけれど、テレビは〈チック〉が大事だなって思った。〈ドラマチック〉って言葉がありますでしょう? テレビはむしろ〈チック〉のほう、細かなニュアンスを面白く描くのが神髄じゃないかなって」

――おわかりいただけました?
要は、倉本サンは何を言いたいかというと、テレビドラマはストーリーだけでなく、人間同士の細かなやりとり――つまり人間ドラマの方にこそ、お茶の間を惹きつける面白さがあるのではないかと。

言われてみれば、2時間で「序破急」のストーリーを一気に見せてくれる映画と違い、テレビの連ドラは60分×10話=10時間という特殊なフォーマットだ。そんな長丁場を、物語だけで引っ張るのには限界がある。

実際、過去の大ヒットドラマ――『東京ラブストーリー』にしても、『ロングバケーション』にしても、『踊る大捜査線』にしても――よく考えたら、僕らが面白がって見ていたのはメインのストーリーというより、登場人物のキャラや台詞の醍醐味、小ネタの類い――倉本聰サンが言うところの“チック”の方だった。

■メタフィクション的遊び

いや、『あなたの番です』が、何もそれら人間ドラマを疎かにしているワケじゃない。同ドラマもそれなりに人物を掘り下げようと試みている。

例えば、同ドラマに散見されるのが、いわゆる“メタフィクション”(フィクションの殻を破る)的な仕掛けだ。このあたりは脚本を手掛ける福原充則サンなりの遊び心だろう。生瀬勝久サン演じる元銀行員の田宮は、学生時代にユーモア劇団に所属し、現在は市民劇団に参加している設定だが、これはもう、学生時代に劇団「そとばこまち」で活躍した生瀬サンのリアルプロフィールと重なる。ちょいちょいアマチュア演劇人にありがちな青臭いネタを挟んでくるあたり、生瀬サンのアイデアも相当入っていそうだ。

また、袴田吉彦演ずる会社員の久住は、普段から「俳優の袴田吉彦に似ている」と周囲から言われることに嫌悪感を抱いている仰天(!)設定だ。そして交換殺人ゲームでは、なんと、その袴田の名前を書いてしまう。これなど少々やり過ぎな感じもするが、かなりチャレンジングである。

主演の一人、田中圭演ずる翔太のキャラも、やたら“子犬感”を強調しているあたり、どう見ても、『おっさんずラブ』で演じた「はるたん」を意識している。そう、あのウザいキャラは確信犯なのだ。

――とまぁ、同ドラマは、そんな“メタフィクション”的アプローチが端々に見られるが、正直それらが評判を呼んでいるとは言い難く、若干滑ってる感じもする。なかなか難しい。同ドラマの視聴率が今ひとつハネないのは、そんな事情もありそうだ。

■原田知世の役者魂

とはいえ、同ドラマの最大の売りと言えば――やはり、永遠の“時をかける少女”、原田知世演ずるヒロイン菜奈の存在だろう。このドラマ、彼女の「役者魂」が見られる点でも注目なのだ。

まず、今回の知世サンは、ご承知の通り、かなり思い切った髪型にチャレンジしている。正直、賛否あるが、多分これには理由がある。ただでさえ童顔な彼女(何せ、時をかける少女だ)が、田中圭演じる翔太と“15歳”の年の差婚を演じるとなれば――それなりの老けメイクが必要になるから。恐らく第2章において、その15歳差が、事件に関わる何らかの重要なファクターになる。だからこそ一目見て、彼女がアラフィフと認識できる、あの髪型が必要だったのだ。これぞ役者魂。

そして、もう一つ役者魂――散々ネットニュースでも話題になっていたけど、第1部の10話のラストに訪れた、知世サン演じる菜奈のよもやの“死”である。
これには日本中が驚いた。連ドラの主演俳優が、ドラマの中盤で亡くなるのは、前代未聞だ。同種の例で思い当たるとすれば、アニメの『タッチ』で、主人公の一人、上杉和也が物語中盤で不慮の交通事故死を遂げたくらいか――。

とはいえ、『タッチ』はアニメだ。一方、『あな番』はリアルな役者が関わっている。病気やケガなどのやむを得ない事情じゃなく、単なるストーリー上の都合で、物語中盤で主役をフェードアウトさせるなど、普通は考えられない。だが、その“非常識”を知世サンは受け入れたのだ。これを役者魂と言わず、何と言おう。

■第2章への展望

そんな次第で、『あなたの番です』の第2章は、「反撃編」と銘打って、最愛の人――菜奈を殺された翔太の復讐劇が展開される。翔太にとっては、第1章は次々と殺人が起きて謎が深まる受け身の展開だったが、ここからは事件の全容解明に向けた“攻め”の姿勢に転じるというワケだ。

今のところ、公式ページを見るに、今後のキーとなる人物は、第1章のラストで菜奈の死体を翔太と一緒に見つけた、西野七瀬演ずる数学専攻の女子大生・黒島沙和と、彼女と同じ大学でAIの開発をしている工学部の大学院生・二階堂忍(横浜流星)の2人だと思われる。
二階堂は第2章からの登場人物で、マンションに越してきて、翔太の相棒として尽力する。いわゆる「バディもの」における、もう一人の主役という扱いだ。

■黒幕は誰か?

もちろん、今後の最大の見所は、事件の「黒幕」捜しである。第1章のラストで、医師の山際を殺したのは、住民会会長の早苗(木村多江)と判明するが、彼女と夫が逮捕された後に菜奈が殺されたとすれば――別に黒幕がいることになる。

ゲーム参加者13人のうち、既に死亡している4人を外すと9人。早苗を除く8人の中に黒幕がいるのか。いや、映画『そして誰もいなくなった』のように、真犯人が物語の途中で亡くなるケースもある。となれば、死者も黒幕の可能性はあるし、極端な話、菜奈の自作自演の線も消えない――とまぁ、僕らの推理は尽きない。

とにかく、『あなたの番です』――未見の人がいたら、今からでも遅くない。Huluで第1章から見るのをオススメします。ひょっとしたら世界に羽ばたいて、日本の連ドラ史の歴史的な一作になるかもしれない同ドラマ。間違いなく面白いので、見ておいて損はありません。

■最高の伸び幅だった『わた定』

おっと、少々、『あなたの番です』にページを割きすぎたようだ。ここから先はコンパクトに行きます。

先の4月クール、『あな番』に続いて面白かったドラマと言えば、やはりTBS火曜10時の『わたし、定時で帰ります』でしょう。平均視聴率こそ9.7%と、あと一歩で二桁に届かなかったものの、初回9.5%で入って、最終回が12.5%と3ポイントの伸び幅はクール最高。ひと言で言えば、お茶の間に支持された面白いドラマだったワケです。

 


さもありなん。同ドラマの制作陣は、脚本が『リバース』『夜行観覧車』の奥寺佐渡子・清水友佳子コンビに、演出チーフは『逃げ恥』『大恋愛』の金子文紀D、プロデュースは『アンナチュラル』の新井順子Pと、申し分のない座組。

加えて、主演を務めた吉高由里子の芝居勘の良さ――。よくCMなどのイメージから、彼女はアンニュイな芝居をする女優と思われがちだけど、直近4作を見ると――『ガリレオ(2ndシーズン)』(フジテレビ)、『花子とアン』(NHK)、『東京タラレバ娘』(日本テレビ)、『正義のセ』(日本テレビ)と、思いのほか多様なキャラクターを演じ分けている。しかも、どれもハマり役で、視聴率も悪くない。そう、実は極めて器用で、且つ打率の高い女優さんなんですね。

連ドラの世界では、よく「鶏が先か卵が先か」なる論争がある。良作が名優を生むのか、名優が良作を生み出すのか――ってやつ。それで言えば、吉高由里子という女優は良作を引き寄せ、且つ自らも輝く、作品と相思相愛の関係になれる稀代の役者と言っていいだろう。

■ドラマは時代の鏡

そんな次第で、制作陣と主演女優のマンパワーに優れた作品であることはお分かりいただけたと思う。では次に、具体的に『わた定』がヒットした要因を紐解くことにしよう。それは主に2つある。

1つは、タイトルからも分かる通り、時代感だ。わたし、定時で帰ります――サービス残業や働き方改革が問われる昨今、いち早く時流を取り入れたドラマであるのは一目瞭然だ。
俗に「ドラマは時代の鏡」と言われるが、テレビドラマと映画との最も大きな違いが、そこなんですね。“今”という時代が反映されているか否か。

■ストーリーよりディテール

実際、同ドラマの舞台はIT企業で、服装は自由で、上下関係もそんなに厳しくなくて――と、見るからに今っぽい。もっとも、メインストーリーは、吉高由里子演ずる結衣が唱える働き方改革だけど、僕らが物語に惹きつけられたのは、それだけじゃない。ディテールだ。

そう言えば、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が「どうして定時で帰るだけでドラマになるのか?」なんて、『わた定』を皮肉交じりに報じていたらしいけど、先の倉本聰サンの言葉を借りれば、ドラマチックの「チック」のほう、細かなニュアンスやディテールがちゃんと描かれていたからなんですね。むしろ、みんなが定時で帰れるようになる物語のゴールよりも、その周りで展開される人間ドラマの方に、僕らは惹かれたんです。

■ラウンドキャラクターたちが織りなすドラマ

そして、同ドラマがヒットしたもう1つの要因――それは、登場人物たちが“ラウンドキャラクター”だったから。

前にも一度、本連載で『3年A組』を取り上げた際に、ラウンドキャラクターについて説明したけど、要するに、一つの顔しか見せない記号的なフラットキャラクターに対して、複数の顔を持つ、より深みのある役がラウンドキャラクター。そして『わた定』は、そんな人々が織りなす人間ドラマだったんです。

例えば、シシドカフカ演ずる三谷という結衣の同僚は、仕事のない就職氷河期を経験しているので、仕事に対して常に全力投球。同僚や後輩にもその価値観を押し付ける。この辺りはシシドさん定番のドSキャラと思いきや――実は子供のころから皆勤賞で、常に自分の居場所がなくなる不安を抱える弱さも持っている。そんな彼女の二面性が、ドラマをグッと面白くした。

そうかと思えば、泉澤祐希演ずる新人の来栖は、教育係の結衣から何か注意されると、すぐに辞表を出したがる。任された仕事も、思い通りに進まないと、プイッと拗ねる。あぁ、典型的な新人ちゃんと思いきや、一方で他人思いのいいヤツだったり、素直すぎて仕事に熱くなったりと、彼もまた多面的な顔を持つ。

■向井理史上最高のハマり役

また、向井理演ずる、結衣の元婚約者で上司の種田もそうだ。
仕事は有能、部下に優しく、人当りもいい万能キャラだが、組織の負の部分をすべて自分一人で背負い込もうとしたり、結衣に自分の思いを伝えきれなかったりと、物語の終盤、彼の優しさがことごとく裏目に出る。完璧だけど、実は不器用。向井理史上最高のハマり役と言われたのも分かる気がする。

極めつけは、ユースケ・サンタマリア演じる部長の福永だ。やる気や根性で仕事をカバーしたがる典型的な古いタイプの上司だが、最終回で「仕事があれば、みんな幸せになれると思っていた。本当は社長も部長も向いてなかった」と、ホンネを吐露――。

そう、同ドラマは、そんな人間臭い彼らが織りなすディテールが、すこぶる面白かったんです。

■月9復活は鈴木雅之演出のおかげ

日テレ、TBSと来て、続いてはフジテレビだ。
先の4月クール、視聴率的には、フジの月9『ラジエーションハウス』が平均12.2%と大健闘。これで同枠は4クール連続2桁視聴率と、月9完全復活を印象付けた。


さて『ラジエーションハウス』、なぜ、こんなに数字が取れたかと言うと、放映中から評判になっていたけど、かつての木村拓哉主演の『HERO』を彷彿とさせたんですね。

さもありなん。演出チーフは『HERO』と同じ鈴木雅之サンだし、『HERO』の検事に対して、こちらは放射線技師と、共に縁の下のヒーローもの。主人公は型破りの天才だし、群像劇だし、ちょいコメディテイストだし、画面はシンメトリーを多用と、共通項は多い。おまけに『HERO』で検察事務官を務めた八嶋智人サンが、こちらではナレーションだ。

そう、これらは全て演出チーフの鈴木雅之サンの確信犯なんですね。視聴率の取れるドラマを模索した結果、かつて自身が演出した全話30%超えの伝説的ドラマ『HERO』に行き着いたというワケ――。

■脚本・大北はるかという逸材

――とはいえ、連ドラというのは、全ての回を一人で演出するのは稀で、大抵、複数のディレクターで分担する。で、同ドラマが顕著だったのは、鈴木雅之サンの演出回と、そうでない回とで、まるでテイストが違ったこと(笑)。鈴木演出回はシンメトリー使いまくりで、八嶋サンのナレーションにも切れがあり、全体にコメディ臭が強かった。ちなみに、以下が各回の脚本家と演出家と視聴率の比較である。

話数     脚本家    演出家    視聴率
1話     大北はるか  鈴木雅之   12.7%
2話     大北はるか  鈴木雅之   12.3%
3話     大北はるか  金井紘    11.5%
4話     村上優    金井紘    9.1%
5話     金沢達也   野田悠介   10.8%
6話     大北はるか  鈴木雅之   13.2%
7話     村上優    金井紘    11.4%
8話     大北はるか  関野宗紀   13.3%
9話     村上優    野田悠介   11.5%
10話     大北はるか  金井紘    13.3%
最終話    横幕智裕   鈴木雅之   13.8%

――これを見ると、鈴木演出回の視聴率の高値安定感は言わずもがな、脚本家の大北はるかサンが担当した回も数字が高いのが分かる。

ちなみに、大北サンは、2014年に「TBS連ドラ・シナリオ大賞」で入選し、翌年、フジテレビの土曜ドラマ『テディ・ゴー!』で脚本家デビューした若手のホープ。以後、『好きな人がいること』、『刑事ゆがみ』、『グッド・ドクター』と、なぜかフジテレビのドラマでセカンドライターとして経験を積み、この『ラジエーションハウス』でメインライターに。まだ20代の若さで、これからの連ドラ界を背負っていきそうな逸材である。

そう、この4月クールにおける一番の収穫が、実は若手脚本家・大北はるかサンのブレイクだったのだ。

■中盤苦戦した『集団左遷!!』

ここから先の話は長くない。
残念ながら、期待されつつも今ひとつだったドラマたちを振り返りたい。その筆頭は、TBS日曜劇場の『集団左遷!!』ではなかろうか。


同ドラマ、平均視聴率こそ10.5%と辛うじて二桁に乗せたものの、中盤は4話連続で一桁を記録するなど、意外なほど苦戦を強いられた。脚本・いずみ吉紘、演出・平川雄一朗の座組は『ROOKIES』と同じで、ドラマのクオリティとしては特に悪いところはなかったのに――。

じゃあ、何が足を引っ張ったかと言うと、残念ながらキャスティングなんですね。端的に言えば、主役の福山雅治サンが主人公のキャラともう一つ合っていなかった、と。おっと、誤解なきよう。何も福山サンの演技が悪いと言ってるワケじゃない。彼の役者としての魅力が、今回はたまたま生かされなかったというだけ。要は、ハマり役じゃなかった。これはもう、プロデューサーの責任以外の何ものでもない。

■スター俳優にとって大事なのはハマり役

視聴者がドラマを見る動機として、やはり一番大きいのは主演俳優(女優)なんですね。お茶の間はみんなスターを見たい。
中には、脚本や演出といった裏方さん目当てに見る“通な人”もいるけど、それは三谷幸喜サンや宮藤官九郎サン、福田雄一監督など、裏方と言いつつ、限りなくオモテに近いケース。しかも、それで動かされる人たちは、スター俳優のファンに比べたら、ずっと少ない(彼らの作品が評判の割には、意外と数字が取れないのはそういうこと)。

そして、ここからが本題――。
そんな影響力の大きいスター俳優を起用する際に大事なことは、お茶の間が見たい「ハマり役」で起用すること。よくキムタクのドラマは「何をやっても木村拓哉」と言われるけど、お茶の間はそれを見たいから、全く問題ない。

そもそもハマり役があるのは役者として恵まれたことで、それ即ちスターの証しなんですね。実際、三船敏郎も石原裕次郎も松田優作も、いつも同じ芝居をしていた。逆に言えば、世の俳優と呼ばれる人たちの9割5分くらいはハマり役すら見つからずに、役者人生を終えるんです。

■僕たちが見たい福山雅治

それで言えば、スター俳優・福山雅治で僕たちが見たいのは――やはり知的で、クールで、ちょい遊び心のある、お馴染みの役だ。
ほら、『ひとつ屋根の下』のチイ兄ちゃんとか、『古畑任三郎』で演じた車椅子の化学研究員の犯人とか、『美女か野獣』で松嶋菜々子とやり合うディレクターの永瀬とか、最もハマり役と言われた『ガリレオ』の天才物理学者・湯川学とか、それこそ『龍馬伝』の坂本龍馬とか――。

そう、ぶっちゃけ福山サンにはあまり汗をかいてほしくない。いつもクールで、口元に笑みなんか浮かべてほしい。そして、あの魅惑の低音ボイスで物語の核心的なことをサラリと言ってのけ、完全人間と思わせつつ、ちょいハメを外させる――僕たちが見たいのは、そんな福山雅治だ。

よくスター俳優が年を重ねて、性格俳優に転じたり、あえてカッコ悪い役をやりたがるケースがあるけど――正直、お茶の間はそんなのは見たくない。ほら、田村正和サンなんて、若い時から今に至るまで、一貫して「田村正和」を演じているでしょ。アレでいいんです。

■『おっさんずラブ』の二匹目のドジョウを狙うも……

さて、4月クールはもう一つ――期待されたのに少々残念なドラマがあった。テレビ朝日の土曜ナイトドラマ『東京独身男子』がそう。


同枠と言えば、思い起こされるのは、ちょうど1年前の4月クールに放映され、社会現象を巻き起こした『おっさんずラブ』である。そう、これも放映前から散々言われていたけど、『東京独身男子』は『おっさんずラブ』の二匹目のドジョウを狙ったのが、見え見えだった。

主演は高橋一生で、友人役に斎藤工と滝藤賢一。3人はそれぞれメガバンク勤務・歯科医・弁護士と裕福ながら、アラフォーで独身という浮世離れした設定だ。それは、明らかに『おっさんずラブ』の主要視聴者である30~40代女子を狙い撃ちしたものだった。

いや、エンタメの基本は温故知新。ヒットしたドラマのエッセンスを模倣するのは悪くない。実際、同ドラマへの期待値は高く、初回視聴率は土曜ナイトドラマ枠としては異例の5.7%という高視聴率。奇しくも、それは『おっさんずラブ』の最終回と同じ数字だった。

ところが――2話で3.2%に急落すると、あとは3~4%台を上下しつつ、最終回は3.5%。結局、一度も初回を超えることはできなかった。いや、それ以上に、放映前の盛り上がりはどこへやら。その後、一度もバズることはなかったのである。

■置きに行ったドラマは視聴者に見透かされる

なぜ、『東京独身男子』は失速したのか。
ひと言で言えば、視聴者に見透かされたんですね。「あぁ、これは私たちを狙いに来たのね」って。オシャレで、シュッとしたアラフォー独身男子3人が、ワチャワチャしてたら、それだけで見てくれるだろう――“2匹目の田中圭”はこの3人だ――なんてテレビ局の下心が見透かされちゃった。
そう、安易に置きに行ったドラマじゃダメなんです。

なぜ、『おっさんずラブ』が面白かったかというと、男性同志の恋愛を、あたかも男女の恋愛ドラマのようにピュアに描いたから。そこに一つの発明があった。そして何より――その世界観を、あの吉田鋼太郎サンが大真面目に演じてくれたから。

『おっさんずラブ』にあって、『東京独身男子』になかったもの。それは吉田鋼太郎である。
そう、『おっさんずラブ』がバズったのは、田中圭サンが可愛いアラサー男子「はるたん」を演じたからじゃないんです。アラフィフの吉田鋼太郎サンが乙女のようにピュアだったから。そして、『東京独身男子』が真似るべきは、実はそっちだったんです。

――以上、4月クールの連ドラ反省会でした。その他のドラマは、皆さんが各自で振り返ってください。未来の地図は、過去に埋まっています。

さて、そうこうしているうちに、7月クールのドラマも始まっています。この中から、世界のドラマ市場で戦えるドラマは現れるのか――。

乞うご期待。

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