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見た目にだまされるな!「ティーカップ」に隠されたクエーサーはまだ生きている

sorae.jp / 2019年3月16日 16時12分

不思議な形をしたこの天体は、うしかい座の方向11億光年先にある「SDSS 1430+1339」、通称「Teacup Galaxy(ティーカップ銀河)」と呼ばれる銀河。以下の画像はNASAの「ハッブル宇宙望遠鏡」が撮影した光学データ(赤と緑)と、同じくNASAの「チャンドラX線観測衛星」が捉えたX線データ(青)を合成したものです。

向かって左側に見える泡のような構造が、たしかにカップの「取っ手」のように見えますね。取っ手の右側で光でもX線でもきわめて明るく輝いて見えるのは、銀河の中心で激しく活動する超大質量ブラックホール「クエーサー」です。

この画像ではほとんど見えませんが、ティーカップ銀河を電波で観測すると、左側の取っ手と同じような泡状の構造が、右側に見える銀河の中心をはさんだ反対側にも観測されます。片手持ちのカップというよりも、実際には両手で持てるベビーマグのような姿をしているわけです。

ティーカップ銀河は、「Galaxy Zoo」というプロジェクトに参加した一般市民によって、2007年に発見されました。Galaxy Zooは、全天の約4分の1をカバーする「スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)」によって撮影された膨大な数の銀河の分類を目的とした、市民参加型のボランティアプロジェクトです。

光学望遠鏡による観測では、取っ手の内部に存在する原子が電離していることがわかっています。その原因は、銀河の中心で輝くクエーサーが放つ強烈な放射線と見られています。

これまでの研究において、取っ手内部の原子を電離するのに必要な放射線量と、光学観測によって推測された放射線量を比較したところ、過去4万から10万年の間に、放射線量が50から600分の1にまで減っていることを示唆する結果が得られています。このことから、ティーカップ銀河のクエーサーはすでに衰えつつあると考えられてきました。

ところが、ケンブリッジ大学のGeorge Lansbury氏を中心とするチームが「チャンドラ」およびESAのX線観測衛星「XMM-Newton」による観測から得られたX線データをもとにティーカップ銀河を分析したところ、クエーサーの大部分がガスによって隠されているために光では見えにくくなっており、なおかつ予想よりもずっと多くの放射線を放っていることがわかりました。光学観測にもとづく過去の研究では、このクエーサーを過小評価していた可能性が出てきたのです。

また、ティーカップ銀河に見られるような泡状の構造は、他の銀河でも超大質量ブラックホールから放たれるジェットによって形成されることが知られています。光速近くまで加速された高エネルギーの粒子によるジェットが泡状の構造を生み出す力はX線の輝度に比例することが判明していますが、ジェットではなく放射線を多く放っているティーカップ銀河のクエーサーも、X線輝度に比例するパターンを持っていることがわかりました。ジェットを放っていないクエーサーでも、その強烈な放射線によって銀河に強い影響を及ぼす可能性が示されたのです。

目に見える姿だけが真実ではない。天文学では多角的な分析が重要であることを、見た目のユニークなティーカップ銀河は物語っています。

Image credit: NASA/CXC/Univ. of Cambridge/G. Lansbury et al; Optical: NASA/STScI/W. Keel et al.
https://www.nasa.gov/mission_pages/chandra/images/storm-rages-in-cosmic-teacup.html
文/松村武宏

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