木星の衛星エウロパの黄色い模様は「塩」だった
sorae.jp / 2019年6月13日 21時40分
こちらの画像は、NASAの木星探査機「ガリレオ」に搭載されていた光学観測装置「SSI」を使って撮影された、木星の衛星「エウロパ」の姿。左は自然な色合いを再現したもので、右は表面の特徴がわかりやすくなるように色合いを強調したものとなります。
エウロパに向かって右側には、赤茶色をした何本もの線条が走っています。反対の左側に線条はあまり見られず、かわりに「Tara Regio(タラ地域)」と呼ばれる黄色っぽいエリアが広がっています。
カリフォルニア工科大学の大学院生Samantha Trumbo氏らによってまとめられ、6月12日に公開された論文によると、エウロパのタラ地域には塩化ナトリウムが豊富に存在していることが判明しました。
「NaCl」の化学式で示される塩化ナトリウムは、私たちが日頃摂取している食塩の主成分であり、地球の海水にも豊富に含まれています。それと同じものが、エウロパの表面からも大量に見つかったというわけです。
こちらは、NASAのジェット推進研究所(JPL)において、エウロパ表面の環境を再現する実験装置に投入されたあとの食塩を撮影したものです。写真の中央にある四角い皿状の容器には、変色して黄色みを帯びた食塩が載っているのが見えます。この実験結果から、タラ地域に特有の黄色っぽい色は、変色した塩化ナトリウムによるものと推測することができます。
遠く木星を周回する衛星とはいえ、エウロパの表面に塩化ナトリウムが広がっていることにこれまで誰も気が付かなかったというのも意外に思えますが、塩化ナトリウムの存在を光学的に観測するには可視光線(人間の目で見える波長の光)を分析する必要があるため、ガリレオに搭載されていた近赤外線作図分光器「NIMS」ではその存在をキャッチできませんでした。
Trumbo氏らの研究チームが宇宙望遠鏡「ハッブル」を使ってエウロパの表面を分析したところ、前述の実験によって変色した塩化ナトリウムと同じ特徴が見つかりました。「この20年間、ハッブルを使って分析しようとは誰も思いませんでした」とTrumbo氏が語るように、可視光線による分析は盲点だったようです。
エウロパの氷でできた大地の下には液体の海が存在しており、そこにはエウロパで誕生した生命が息づいているかもしれないと考えられています。現在NASAでは2020年代の打ち上げを目指し、エウロパの海をはじめとした環境を詳しく調べるための探査機「エウロパ・クリッパー」の開発を進めています。
生命が存在する可能性を検討する上で、塩の存在は重要です。地球で生命が誕生した舞台と考えられている海水と同じような成分が存在するのであれば、地球の生命に似た仕組みを持つ生命体が、エウロパでも誕生しているかもしれません。
また、エウロパの海は存在していても厚い氷の下にあるため、太陽の光が差し込むことはありません。そのため、エウロパの生命体は地球の深海に見られる熱水噴出孔のような場所からエネルギーを得ているだろうと予想されています。
Trumbo氏によれば、塩化ナトリウムの存在は、エウロパの海底における熱水活動を示唆している可能性があるといいます。つまり、エウロパの海底には熱水噴出孔のように海水を加熱させる何らかの仕組みが存在する(または存在した)ことを、塩化ナトリウムは間接的に示しているかもしれないのです。
今回の観測結果がただちに海の存在に結びつくわけではありませんが、地球のように「しょっぱい海」が存在している可能性が高まったエウロパの地下、そこにはどのような世界が広がっているのか、そして生命は誕生しているのでしょうか。
Image credit: NASA/JPL/University of Arizona
https://www.jpl.nasa.gov/news/news.php?feature=7423
文/松村武宏
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