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光さえも脱出できないほど重力が強い天体「ブラックホール」とは?

sorae.jp / 2020年8月30日 21時2分

超大質量ブラックホールを描いた想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)

日本語に直訳すれば「黒い穴」を意味する「ブラックホール(英:black hole)」は、この宇宙で最も速い光(秒速約30万km)でさえも脱出できないほど重力が強いとされる天体です。光では観測することができず、宇宙に空いた黒い穴のように見えると考えられたことから、ブラックホールと呼ばれるようになったといいます。

ある天体の表面から重力を振り切って飛び出していくためには、脱出速度と呼ばれる一定の速度が必要となります。たとえば地球の重力から脱出するためには、少なくとも秒速約11.2kmの速度が必要です。この脱出速度は天体の質量が大きく、直径が小さいほど大きくなります。

すべての質量が「特異点」と呼ばれるきわめて狭い領域に押し込められ、周囲の時空間が大きく歪んでいると考えられているブラックホールの場合、脱出速度が光速を上回ります。ブラックホールの外からやってきた光も強い重力で進む向きが曲げられてしまい、ある距離まで近づくとブラックホールから脱出することができなくなるとされています。光がブラックホールの重力から脱出できる限界の距離は「シュバルツシルト半径」と呼ばれており、シュバルツシルト半径で描かれた仮想の球体のことを「事象の地平面(事象の地平線)」と呼びます。

光さえも出ては来られないブラックホールそのものを直接見ることはできませんが、間接的に観測することは可能です。ブラックホールの強い重力に引き寄せられたガスなどの物質は、吸い込まれかけつつもブラックホールの周囲を高速で周回する「降着円盤」を形成します。円盤とはいいますが、その中心にはブラックホールが存在するはずなので、実際には幅の広い輪のような構造をしていると考えられています。この降着円盤は光(電磁波)を放つので、その様子を詳しく観測することで、ブラックホールの性質を調べることができるのです。

ブラックホールとその周辺を示したインフォグラフィック(Credit: ESO, ESA/Hubble, M. Kornmesser/N. Bartmann)

また、ブラックホールはすべての物質を吸い込んでしまうのではなく、物質の一部を「ジェット」として放出しています。ジェットも光(電磁波)を放つので、観測することが可能です。この他にも、ブラックホールの性質を調べたり一般相対性理論を検証したりするために、ブラックホールのすぐ近くを周回する恒星の動きが利用されています。

関連:天の川銀河の中心にある恒星の動きから一般相対性理論の正しさを検証

ブラックホールの質量は周囲からガスなどの物質を吸い込むことで増えていきますし、近年の重力波望遠鏡による観測では2つのブラックホールから成る連星が合体したとみられる際の重力波も検出されています。事象の地平面の内側に入ってしまうと光速でも脱出できないブラックホールは永遠に成長し続ける天体のように思えますが、量子力学的な効果によってエネルギーを放射することで、長い時間をかけて蒸発するとも考えられています。この現象は提唱者のスティーブン・ホーキング氏にちなんで「ホーキング放射(ホーキング輻射)」と呼ばれています。

■ブラックホールはどう見える?

国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が撮影に成功した、M87の中心にある超大質量ブラックホールのシャドウ(Credit: EHT Collaboration)

2019年4月、国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:Event Horizon Telescope)」は、楕円銀河「M87」の中心にある超大質量ブラックホール周辺の撮影に成功したことを発表しました。EHTから公開されたこちらの画像を見ると、オレンジ色で示されたリングのなかにぽっかりと黒い穴が空いているように見えます。

EHTではブラックホールそのものの撮影ではなく、ブラックホールの強い重力に進む向きを曲げられて地球に向かってきた光(電磁波)によって描き出されたブラックホールのシャドウ(影)を撮影することに成功しています。M87の中心にある超大質量ブラックホールの事象の地平面は直径約400億kmとみられており、シャドウはその2.5倍の大きさがあるとされています。

上:ブラックホール周辺を移動する光の向きを示した図(最終的に右へ向かう光を強調したもの)。ブラックホールに近づきすぎた光は事象の地平面から出てこられなくなるが、吸い込まれずに進む向きが大きく変わる光もある。下:地球に向かってくる光の向きを斜め方向から示した図。円で示された範囲の内側は光が来ないため、シャドウが描き出される(Credit: Nicolle R. Fuller/NSF)

関連:人類が新たに開いた扉。「ブラックホールの直接撮影」に成功。シャドウを捉える

もしもブラックホールを鮮明に観測することができたら、どのように見えるのでしょうか。こちらはNASAのゴダード宇宙飛行センターが公開した「ブラックホールの見え方」のシミュレーション動画です。ここでは左向きに回転している降着円盤をやや斜め上から見下ろしたときの様子が再現されているのですが、右からブラックホールの裏側に回り込んでいくはずの降着円盤が途中から手前に折れ曲がり、まるでブラックホールを飛び越えるようにして左へと流れているように見えます。

ブラックホールを横から見た場合のシミュレーション(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Jeremy Schnittman)

このように見えるのは、ブラックホールの強い重力によって光の進行方向が曲げられてしまうから。実際には裏側に回り込んでいる降着円盤からの光が重力によって大きく曲げられることで、横から見るとこのように円盤が折り曲げられたように見えるわけです。

また、ブラックホールを飛び越しているように見えるのは裏側に回り込んだ降着円盤の上面から発せられた光ですが、ブラックホールの下には降着円盤の下面から発せられた光が見えています。ブラックホールを縦方向に360度ぐるりと回転させ続けている次の動画では、見る角度によって降着円盤の見え方も変わる様子がよくわかります。

ブラックホールをいろいろな角度から見た場合のシミュレーション(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Jeremy Schnittman)

関連:ブラックホールはどう見える? NASAが新しいシミュレーション動画を公開

■ブラックホールにも種類がある

ブラックホールは幾つかの種類に分けられていて、そのなかでも太陽の数倍~数十倍の質量がある「恒星質量ブラックホール(恒星ブラックホール)」と、太陽の10万倍~10億倍以上の質量がある「超大質量ブラックホール」の2つは特に研究が進んでいます。

超新星爆発とともに誕生するとみられる「恒星質量ブラックホール」

恒星(右)と連星を組む恒星質量ブラックホール(左)を描いた想像図。恒星から流れ込んだガスは降着円盤を形成し、一部はジェットとして双方向へ放出される(Credit: NASA/CXC/M.Weiss)

恒星質量ブラックホールは超新星爆発を起こした恒星に由来するとされています。質量が太陽の8倍よりも重い恒星は、最終的に超新星爆発を起こして外層が吹き飛ばされると考えられています。このとき、残された中心部分の質量が太陽の約3倍以上だった場合、自身の重力で収縮する重力崩壊が止まらなくなった結果、ブラックホールが誕生するとみられています。恒星質量ブラックホールと恒星から成る連星では、恒星のガスがブラックホールに流れ込んだ際に降着円盤が形成されると考えられており、降着円盤やジェットから放射されたとみられるX線が観測されています。

関連:ブラックホールから放出されたジェットの画像が公開 チャンドラで連続撮影

超新星爆発後にブラックホールを形成するのは、おおむね質量が太陽の20倍以上の恒星とされています。また、爆発後に残った中心部分の質量が太陽の約3倍以下だった場合、ブラックホールではなく中性子星が誕生するとみられています。いっぽう、質量が太陽の150倍から300倍という大質量星が超新星爆発を起こした場合、爆発が激しすぎるためにブラックホールが残らない可能性を示した研究成果が発表されています。

関連:重力波で捉えられたのは大質量星の爆発で誕生したブラックホールか

多くの銀河の中心に存在すると考えられている「超大質量ブラックホール」

「ハッブル」宇宙望遠鏡によって撮影された、楕円銀河「M87」の中心から放出された長さ数千光年に達するジェット。M87の中心にある超大質量ブラックホールはEHTがシャドウの撮影に成功している(Credit: The Hubble Heritage Team (STScI/AURA) and NASA/ESA)

超大質量ブラックホールは、大半の銀河の中心部分に存在するとみられています。天の川銀河の中心に存在することが確実視されている超大質量ブラックホールは太陽のおよそ400万倍、これまでに唯一シャドウが撮影されたM87の超大質量ブラックホールは太陽の65億倍もの質量があるとされています。このような超大質量ブラックホールは、銀河全体よりも明るく輝くクエーサーのような活動銀河核(強い電磁波を放つ銀河の中心部)の原動力ではないかと考えられています。

ブラックホールが成長する速度には限界があると考えられてきましたが、初期の宇宙ではビッグバンから10億年と経たない時点ですでに超大質量ブラックホールが存在していたことが観測の結果から示されており、ブラックホールの成長速度が限界を上回っていた可能性があるといいます。このことから、初期の宇宙では恒星質量ブラックホールや中性子星が銀河の中心で合体を繰り返していた可能性や、恒星の形成と超新星爆発を経ずにガスの塊が直接崩壊してブラックホールが誕生した可能性が指摘されています。

関連:宇宙初期のブラックホールは合体を繰り返した末に急成長していた?
関連:初期宇宙のブラックホールは直接崩壊で誕生した可能性

「中間質量ブラックホール」や「原始ブラックホール」も

中間質量ブラックホールに飲み込まれつつある恒星を描いた想像図(Credit: ESA/Hubble, M. Kornmesser)

この他にも決定的な証拠は得られていないものの、恒星質量ブラックホールと超大質量ブラックホールの中間にあたる太陽の100倍~1万倍ほどの質量を持つ「中間質量ブラックホール」の存在が予想されています。研究者によると、銀河中心の超大質量ブラックホールよりも軽い中間質量ブラックホールは周囲の物質を常に吸い込むほどには重力が強くないため、観測するのが難しいといいます。

関連:中間質量ブラックホールが存在する証拠が発表される

また、太陽系では海王星よりも外側に地球の5倍~10倍の質量を持つ未発見の天体が存在すると予想されていますが、この天体がおよそ138億年前のビッグバンと同時に形成された可能性がある軽量のブラックホール「原始ブラックホール」ではないかとする説も提唱されています。

関連:未発見の「第9惑星」その正体は小さなブラックホールだとする説が登場

 

Source: NASA / 国立天文台(1) / 国立天文台(2)
文/松村武宏

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