NASAがお蔵入りにした月面望遠鏡、宇宙最初の世代の星の発見に役立つ「究極の」観測手段になるか
sorae.jp / 2020年11月20日 10時33分
この画像は、かつて月面への建設が提案されていた液体鏡式望遠鏡「Lunar Liquid-Mirror Telescope(LLMT)」の想像図です。液体鏡式望遠鏡とは、コーティングを施されたガラスの代わりに液体を反射鏡に用いる望遠鏡のこと。液体を入れた容器を回転させると遠心力により液面が放物面になるため、水銀のように反射率の高い液体を反射鏡として利用できるのです。
LLMTは米国航空宇宙局(NASA)によって10年前にお蔵入りにされていましたが、テキサス大学オースティン校のAnna Schauer氏が率いる研究グループが「Ultimately Large Telescope(究極の大型望遠鏡)」としてこのアイディアを復活させました。研究グループによると、2021年10月に打ち上げ予定の「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡を含む現存する望遠鏡が未解決だった問題に着手できるといいます。
近年では望遠鏡の高性能化に伴い、約138億年前とされるビッグバンが起きて間もない初期の宇宙の出来事さえも観測できるようになりました。たとえばジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、この宇宙に最初の世代の銀河が誕生した時代まで遡ることができるといいます。
その一方、現代宇宙論では銀河が誕生する前にまず個々の星々が形成された時代があったことが予測されています。その時代の宇宙には水素やヘリウム以外の元素を含まない「種族III」の星、いわゆる「初代星(ファーストスター)」と呼ばれる星が存在していたと考えられています。研究メンバーであるテキサス大学オースティン校のVolker Bromm教授は、初代星が放つ光を捉えるのに必要な能力はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の性能をも上回ると指摘します。
Schauer氏らは、NASAがお蔵入りにした液体鏡式望遠鏡が、初代星の研究に利用できることを計算で証明しました。以前計画されていたLLMTでは直径20メートルの液体鏡(水銀の代わりに液面が銀の薄膜でコーティングされたイオン液体の使用を検討)を月面に建設することが計画されていましたが、Ultimately Large Telescopeでは直径を5倍に拡大した直径100メートルもの液体鏡を想定。月の北極もしくは南極に建設された望遠鏡は太陽光をエネルギー源として自律的に運用され、観測データは月を周回する衛星が中継するとされています。
Bromm教授は、ビッグバンに始まった宇宙が複雑さを増していき、惑星や生命、人類のような知的生命体の出現に至った歴史において、初代星の誕生は決定的な転換点であり、星の形成がどのように始まったのかは重要な問題だと述べています。
Image Credit: Roger Angel et al./Univ. of Arizona
Source: Phys.org
文/Misato Kadono
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