地球外生命探査に役立つリン含有分子958種の赤外線スペクトルデータベースを作成
sorae.jp / 2021年4月18日 21時49分
科学者たちは以前から、ホスフィン(リン化水素、PH3)が地球や金星のような岩石質の惑星で見つかれば、生命の存在を示す証拠になると考えていました。そのため、昨年(2020年)国際的な科学者チームが、金星の大気中にホスフィンが検出されたと発表したとき、他の惑星に生命が存在するという最初の証拠が得られたと期待されました。しかし、金星大気中のホスフィンが本当に生命活動によるものなのか、本当にホスフィンが検出されたのかなど、疑問視する科学者もいました。
関連:未知の化学反応? 生命が関与? 金星の大気からホスフィンを検出
シドニーのニュー・サウス・ウェールズ大学(UNSW Sydney)の科学者を中心とする研究チームは、ホスフィンの生成や消費に関与している可能性のある大気分子のスペクトル的特徴を明らかにし、地球外生命探査に大きく貢献しました。
2021年4月9日付けの「Frontiers in Astronomy and Space Sciences」に掲載された論文の中で、コンピュータ・アルゴリズムを用いて、リンを含む分子958種の赤外線スペクトルデータのデータベースを作成した方法が説明されています。
UNSWのLaura McKemmish博士が説明するように、他の惑星に生命が存在する証拠を探す場合、宇宙に行く必要はなく、問題のある惑星に望遠鏡を向けるだけでよいのです。「適切なスペクトルデータがあれば、惑星からの光で、その惑星の大気に含まれる分子を知ることができるのです」
「ホスフィンは、自然現象によってごくわずかな濃度でしか生成されないため、生命活動の兆候として非常に有望です。しかし、ホスフィンがどのように生産され、消費されたかを追跡できなければ、ある惑星でホスフィンを生産しているのが異常な化学反応なのか、“宇宙人”によるものなのかという疑問に答えることができません」とMcKemmish博士は語っています。
つまり、他の惑星に生命が存在することを確認するためには、現在よりもはるかに多くの大気中の分子を検出し、生物以外の化学的プロセスを排除する必要があります。そこでMcKemmish博士は大規模な学際的チームを結成して、リンが化学的、生物学的、地質学的にどのように振る舞うかを理解し、大気分子のみを介して遠隔調査する方法を検討したのです。
McKemmish博士によると、新しい分子種のバーコードデータは、通常一度に1つの分子に対して作成されるため、このプロセスには何年もかかることが多いと言われています。しかし、今回研究チームは「ハイスループット計算機量子化学」(high-throughput computational quantum chemistry)と呼ばれる手法を用いて、わずか2週間で958個の分子のスペクトルを予測しました。
「このデータセットは、まだ新たな検出を可能にする精度を持っていませんが、複数の分子種が似たようなバーコードデータを持つ可能性を強調することで、誤認の防止に役立ちます。例えば、一部の低解像度の望遠鏡では、水とアルコールとの区別できないことがあります。」と語っています。
さらに続けて「このデータは、分子の検出しやすさのランク付けにも利用できます。例えば、宇宙人の天文学者が地球を見た場合、20%のO2よりも0.04%のCO2の方がはるかに検出しやすいというのは、意外な結果と言えるでしょう。これは、CO2がO2よりもはるかに強く光を吸収するためで、これが実際に地球の温室効果の原因となっています。」
金星大気中のホスフィンについての議論の結果がどうなるかは別として、望遠鏡を使って検出できる情報が追加されたことは、太陽系外惑星での生命活動の兆候を検出する上で重要な意味を持ちます。McKemmish博士が述べているように「太陽系外惑星に生命が存在するかどうかを調べるには、望遠鏡で集めたスペクトルデータを使うしかありません」
2021年末には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡という新しい赤外線望遠鏡が打ち上げられる予定です。この望遠鏡は、これまでの望遠鏡よりもはるかに感度が高く、より多くの波長をカバーします。取得されたデータから新たな分子を特定するために、このデータベースの必要性はますます高まることでしょう。
Image Credit: Shutterstock、UNSW
Source: UNSW Sydney
文/吉田哲郎
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