推定直径100~200kmの巨大な彗星が見つかる、2031年に太陽へ最接近
sorae.jp / 2021年6月30日 21時11分
長い尾が印象的な「彗星」の正体は、氷と塵でできた比較的小さな天体です。細長い楕円形の軌道を描くことが多い彗星は、太陽に近付くにつれて彗星の本体である核(彗星核)の氷が昇華してガスや塵が放出され、彗星核を取り巻くコマや尾が形成されるようになります。
彗星核のサイズは数百m~数十km程度のものが多く、たとえば有名な「ハレー彗星」の彗星核は最大約15km、「ヘール・ボップ彗星」は約50~60km、欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」が間近で観測を行った「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」は最大4.1kmとされています。しかし今、彗星核のサイズがハレー彗星のおよそ10倍、ヘール・ボップ彗星と比べても2倍以上の直径100~200kmと大きく、一般的な彗星と比べて1000倍も重いと推定されている巨大な彗星が、太陽に近付きつつあります。
■オールトの雲からやってきたとみられる巨大な彗星が接近中「バーナーディネリ・バーンスティン彗星」(C/2014 UN271 (Bernardinelli-Bernstein))と呼ばれるこの彗星は、チリのセロ・トロロ汎米天文台にあるブランコ4m望遠鏡に設置されている「ダークエネルギーカメラ(DECam)」の観測データから見つかりました。彗星の名前は観測データを分析したペンシルベニア大学のPedro Bernardinelli氏とGary Bernstein氏に由来します。
その名が示すように「ダークエネルギー」(暗黒エネルギー)を研究するために作られたダークエネルギーカメラは、夜空の広い範囲に存在する3億個の銀河を2013年から2019年にかけて観測しました。ダークエネルギーカメラはこの観測中に視野を通過した彗星や太陽系外縁天体も捉えており、バーナーディネリ・バーンスティン彗星も32回検出されていたといいます。ダークエネルギーカメラによる観測では彗星としての活動は捉えられていなかったものの、ラス・クンブレス天文台グローバル望遠鏡ネットワークを利用した最新の観測によってコマが形成されていることが明らかになり、正式に彗星と認められました。
彗星核の大きさもさることながら、バーナーディネリ・バーンスティン彗星はその起源も注目されています。米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)によると、この彗星は太陽から約4万天文単位(地球から太陽までの距離の約4万倍)離れたところから太陽系の中心に向けた移動を始めたといいます。4万天文単位は約6兆km、もしくは約0.6光年に相当します。
このことから、バーナーディネリ・バーンスティン彗星は太陽系の最外縁部に存在する「オールトの雲」からやってきたと考えられています。オールトの雲とは、太陽からの距離が1000天文単位から最大で10万天文単位(およそ1.5光年)の範囲にまで小さな天体が分布していると予想される領域で、これらの小天体は太陽系の形成初期に重力を介した惑星との相互作用によって散乱させられたものだと考えられています。公転周期が200年以上ある長周期彗星の起源とみられることから、オールトの雲は「彗星のふるさと」と呼ばれることもあります。
NOIRLabによると、ダークエネルギーカメラによって最初に捉えられた2014年の時点では、バーナーディネリ・バーンスティン彗星は太陽から約29天文単位(太陽から海王星までの距離に近い)離れていたといいます。2021年6月の時点では太陽から約20天文単位(おおよそ太陽から天王星までの距離)まで近づいており、10年後の2031年1月に太陽へ最も接近すると予測されています。ただし、最接近時でも太陽からの距離は約11天文単位離れている(太陽から土星までの距離よりもやや遠い)ため、最大でどの程度明るくなるのかはまだわからないものの、一般の人間が観測するにも相応の機材が必要になりそうです。
なお、米国科学財団ではチリのヴェラ・ルービン天文台に建設した「シモニー・サーベイ望遠鏡」による本格観測を2023年から開始する予定です。Bernardinelli氏はヴェラ・ルービン天文台によるバーナーディネリ・バーンスティン彗星の観測が継続的に行われるとした上で、同天文台の観測によってオールトの雲から飛来する天体が数多く見つかることになるだろうと期待を寄せています。
関連:グリーンのコマから三色の尾を引くネオワイズ彗星の希有な姿
Image Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva
Source: NOIRLab
文/松村武宏
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