漆黒の宇宙にぎらつく目。2021年のハロウィンを祝うハッブルの画像が公開される
sorae.jp / 2021年10月31日 11時38分
こちらは「しし座」の方向およそ400光年先にある赤色巨星「しし座CW星」(CW Leonis)とその周辺の様子。欧州宇宙機関(ESA)やアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)ではハロウィンにちなんで、煙の向こう側からこちらをじっと見つめるオレンジ色の目にたとえています。
赤色巨星は、太陽のような比較的軽い恒星が進化した晩年の姿です。恒星の中心部では水素の核融合反応が起きていて、そのエネルギーによって恒星は内側から支えられています。やがて中心の水素が枯渇して恒星が自重で収縮し始めると、今度は中心部の周囲で水素の核融合が起こるようになり、恒星の外層が大きく膨張した赤色巨星の段階へ進むと考えられています。
赤色巨星は外層からガスや塵を大量に放出し、幾つかの段階を経て最終的には中心部だけが白色矮星として残るとみられています。画像に写る同心円状に層を成した雲は、しし座CW星自身が放出したガスや塵でできているのです。
しし座CW星は「炭素星」(carbon star)の一つとしてよく研究された星でもあります。炭素星とは、大気に炭素が豊富に含まれている明るい赤色巨星のこと。この炭素は星の内部で核融合によって生成されたもので、塵として放出された後に新たな星を作り出す材料の一部となります。私たち地球の生命を形作る元素の一つである炭素も、かつてこの宇宙で輝いていた恒星が生み出したものなのです。
画像をよく見ると、しし座CW星を取り囲むガスと塵の雲に向かって、中心から何本かの光の筋が伸びていることがわかります。ESAによると、しし座CW星を包み込む塵の層に隙間が生じているために、そこから漏れた星の光がサーチライトのように遠く離れた場所の塵を照らしているのではないかと考えられているといいます。この光は宇宙の尺度からすればきわめて短い15年という期間で明るさが変わる様子が観測されているといいますが、これほどの短期間で明るさが変化する正確な理由はまだ解明されていないようです。
冒頭の画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による可視光線と赤外線の観測データから作成されたもので、2021年のハロウィンを祝う画像としてESAとSTScIから2021年10月28日付で公開されています。
関連:今も昔も美しい姿。ハッブルが撮影してきた棒渦巻銀河「NGC 2903」
Image Credit: ESA/Hubble & NASA, T. Ueta, H. Kim
Source: STScI / ESA/Hubble
文/松村武宏
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