米朝首脳会談の決裂、実は日本にプラスだった!?

日刊SPA! / 2019年3月6日 8時50分

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◆物別れはトランプ大統領の目論見どおり

「会談は大成功するだろう」

 交渉前にトランプ大統領が言い切った理由は何だったのか?

 ベトナムのハノイで開催された米朝首脳会談が予想外の“決裂”に終わった。2日目の2月28日午前までは金正恩朝鮮労働党委員長が「(非核化の意思が)なければここにはいない」とまで話して交渉の進展に期待が高まったが、数時間後には事態が一転。予定されていた昼食会と共同声明署名式のキャンセルが報じられた。

 その後の会見でトランプ大統領は「決裂ではない」と強調したが、同席したポンペオ国務長官は「金委員長に準備ができていなかった」と発言。「北朝鮮は完全な制裁解除を求めてきたが、期待通りの非核化プロセスが提示されなかったため」に、交渉を途中で打ち切ったことを示唆した。

 これに対して、北朝鮮は同日夜に異例の反論会見を開く。李容浩(リ・ヨンホ)外相が「我々が要求したのは制裁の全面解除でなく、民需経済や人民生活に支障をきたす一部の制裁解除だった」と、食い違う主張をしたのだ。

 融和ムードのはずが、物別れとなったのはなぜか? 拓殖大学主任研究員で元韓国国防省北朝鮮情報分析官の高永喆(コウ・ヨンチョル)氏が分析する。

「会談で、北朝鮮側が『専門家の立ち会いのもと完全に廃棄する』として提案したのは寧辺の核施設だけでした。この寧辺には濃縮ウラン工場もありますが、大半は旧式のプルトニウム再処理場や核燃料貯蔵施設です。

これに対して、米国は無人偵察機のグローバルホークや偵察衛星、協力国の諜報機関、脱北者の証言などにより、北朝鮮国内で密かに稼働している核関連施設のほぼすべてを把握している。だから、米国は完全な非核化のために寧辺だけではなく、すべての施設のリストを提示せよと迫ったのです。

そもそも、寧辺核施設の廃棄は昨年9月の南北共同宣言に盛り込まれていたものです。これだけでトランプ氏が納得するはずはないのに、金委員長は一部の制裁解除は引き出せると高をくくっていた。

その証拠に、3月1日の朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は決裂には触れず、笑顔でトランプ氏と会談する金委員長の写真ばかりを一面に掲載していました。交渉が失敗したことを国民に隠しているのです」

 北朝鮮の不十分な非核化案が米国の失望を買ったというのだ。ただし、「トランプ大統領は決裂も想定していた」と分析する専門家も。歴代共和党政権の政策立案に関わってきたヘリテージ財団の元上席研究員で東洋大学国際学部教授の横江公美氏が話す。

「トランプ政権は北朝鮮が完全に核を廃絶する意思がないことを承知しています。一方で、過去の大統領が繰り返した過ちも認識している。クリントン政権下では米朝枠組み合意が成立し、北の核開発凍結と引き換えに40億ドルのエネルギー支援を行うことが決定。’95年に制裁を緩和しましたが、’98年にミサイル技術をパキスタンに提供していたことが発覚して再び制裁を科しました。

その後のブッシュ政権では’02年に9500万ドルを提供したことが発表されましたが、’03年初頭にかけて北は核施設の凍結を解除し、IAEA(国際原子力機関)の査察官を強制退去させる措置に踏み切りました。何度も裏切られたために、トランプ氏は無理を承知で完全な非核化を求めたのです。

そのために周到に準備していた様子もうかがえます。昨年12月に急遽決断した米軍のシリア撤退です。外交専門家の多くが今『米軍をアジアにシフトさせている』と分析しています。対中シフトでしょうが、北にとっても相当なプレッシャー。当然、非核化に前向きな姿勢を崩せない。決裂してもトランプ氏が損をしないのは明白だったのです」

 米朝会談が開催されたその日、米国ではトランプ大統領の元顧問弁護士が公聴会に出席し、「’16年の大統領選でトランプ陣営の選挙担当者らがロシアのロビイストと会っていた」などと証言した。実はこのロシア疑惑から米国民の目をそらすために、トランプ大統領は決裂というショッキングな方法を選んだという見方も浮上しているが、横江氏は一笑に付す。

「そもそも、トランプ政権にとって北朝鮮の非核化はさほど重要な課題ではありません。長距離ミサイルが完成しない限り、米国の国土安全保障上は何の脅威にもならないのですから。国民の関心も薄い。だから、ロシア疑惑から目をそらすための米朝交渉という図式は成り立ちません。

では、なぜこのタイミングで会談を実施したのか? それは米中通商協議の期限が3月1日に設定されていたからと考えるのが自然です。トランプ政権は絶対に妥協しないという姿勢を、間接的に中国に示した。来年の大統領選に向け、トランプ大統領にとって最大の課題は経済にあります。

当然、通商協議で中国の譲歩を引き出されば、とてつもないプラスになる。米朝決裂を対中交渉の追い風とする……これが、トランプ流のディールなのです」

 実は、日本も“ディール”の恩恵にあずかる可能性がある。高氏が話す。

「’02年にブッシュ大統領が北朝鮮を『悪の枢軸』と批判して米朝関係が悪化した際には、金正日総書記はブッシュ氏と親しい小泉純一郎首相に急接近しました。これをきっかけにした電撃訪朝から、5人の拉致被害者の帰国が実現したのは記憶に新しいところです。

今回、米朝が決裂したことで、また北朝鮮が日本を頼る可能性がある。2月半ばには拉致被害者の田中実さんが平壌で生活していると、北朝鮮側が日本に伝えていたことも報じられました。経済援助を引き出す目的があるのは明白ですが、拉致問題解決に向けて前向きな姿勢を示し始めているといっていい」

 実現すれば日本にとってもビッグディールとなることは間違いない。

▼米朝決裂を受けて金正男氏の息子が亡命政府樹立!?

金正恩委員長の異母兄で’17年に暗殺された金正男氏の息子、金ハンソル氏を救援したとする団体が、3月1日に「自由朝鮮」と改称し、臨時政府を発足させたとサイト上で表明した。高氏によると、「米朝決裂で経済的困窮が解消されなければ軍部の不満が溜まり、ハンソル氏を担いでクーデターに発展する可能性はある」という

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/The New York Times/Redux/アフロ

※週刊SPA!3月5日発売号「今週の顔」より

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