「枝野幸男ある限り、絶対に負けない」が自民党の合言葉だ/倉山満

日刊SPA! / 2019年7月8日 8時30分

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6月12日、イランで握手を交わす安倍首相とハサン・ロウハーニー大統領。「トランプ内閣の外務大臣」として試みた「懸け橋外交」だったが、成果は果たして……(写真/時事通信社)

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

◆「枝野幸男ある限り、絶対に負けない」が自民党の合言葉だ

 今回の参議院選挙で自民党に投票するとは、どういうことか。「日本を地獄に落とす」と決めることだ。

 だったら、「決められない政治」に戻すのが、現状の最適解だろう。

 戦後政治において、政権交代は参議院選挙を契機に行われた。自民党の二度にわたる政権失陥も参議院選挙の敗北からだったし、民主党も衆議院選で勝ちながらも参議院選挙で敗れて何もできなかった。

 今回、安倍晋三首相が総裁を務める自民党に投票するとは、これまでの安倍自民党政権を承認し、今後も彼らの掲げる政策を容認することになる。恐ろしい未来が待っている。

 内政においては、経済大国の地位を捨てることになる。6年も金融緩和を続けて、いまだにデフレ脱却ができていない。言うまでもなく、8%の消費増税が、金融緩和の効果を破壊してきたからだ。そして、今また消費税を10%に増税しようとしている。狂っている。

 外政においては、アメリカ大統領が民主党だろうが共和党だろうが忠勤を尽くす。中国、ロシア、北朝鮮を本気で怒らせる真似はしない。せいぜい、韓国くらいには文句を言う。

 日本人はどんなに真面目に働いても、豊かな暮らしを手にすることはできない。外国には媚び諂い、誇りを捨てて生きる。安倍自民党を選挙で勝たせる限り、災害対策くらいは、安心させてやる。それが嫌なら、立憲民主党にでも投票しろ。こういう傲慢な姿勢が、安倍自民党の正体だ。

 安倍周辺は旧民主党政権を「悪夢」と繰り返すが、災害対策だけはマトモなことと、不十分でも景気が回復傾向に持っていった以外に、何の取り柄があるのか。そもそも、その「悪夢」を生み出したのは、リーマンショックの時の麻生太郎内閣が、あまりに無能だったからではないか。その麻生太郎が安倍内閣6年間で一貫して、副総理・財務大臣に居座っている。そして、常に増税を唱え、デフレ脱却を阻止してきた。

 こんな無能な安倍政権が許されるのは、なぜか? 野党がさらに、無能だからだ。「枝野幸男ある限り、絶対に負けない」が自民党の合言葉だ。枝野幸男が野党第一党党首に居座っている限り、安倍自民党内閣は安泰だろう。愚かな野党が居座る限り、マトモな野党が台頭できないからだ。そして、自民党は安泰になる。愚かな野党を第一党に据えるのは、社会党に援助し続けた時代以来の、自民党お家芸だ。

◆安倍晋三は「トランプ内閣の外務大臣」

 そんなグダグダの日本政治に怒り心頭の人物がいる。アメリカ大統領のドナルド・トランプだ。トランプが日米安保条約は不公平だと漏らしたとの報道が伝わり、日米双方の政府が否定した直後、テレビのインタビューで大統領自身が、「アメリカは日本を守らねばならないが、日本はテレビでそれを見ているだけだ」と答えた。

 G20が迫っていたので、外交的駆け引きの側面もあっただろう。しかし、本質はそこにはない。

 第二次世界大戦後、アメリカは世界の覇権国としてあらゆる地域の紛争に介入し、そこらじゅうで恨みを買ってきた。若者の血とアメリカ国民の富を失った代わりに、ウォール街の一部特権階級だけが肥え太る。その連中は中国とも平気でつるむ。

 トランプは、こうした秩序を変革すると宣言して大統領に当選し、着々と実績をあげてきた。だから、世界中の指導者を敵に回している。そんな中、安倍晋三は、お友達の数少ない一人だ。確かに「トランプ内閣の外務大臣」としての役割は果たしている。先のイラン訪問で明らかなように、外務大臣というより「子供の使い」が実態だろうが。

 トランプの対日原則は明確だ。第二次大戦後のアメリカの政策を根本的に変更しようとしている。日本占領時のハリー・トルーマンから前任のバラク・オバマまで、アメリカの対日政策は、「無視」か「弾圧」か「番犬として使う」である。反日大統領なら「無視」か「弾圧」、親日に思われる大統領も結局は「番犬として使う」である。

 これに対し、トランプは「対等の仲間になろう」と提言してきた。それが大統領就任前の「核武装も含めて、自主防衛OK」の発言の真意だ。せめて、防衛費をGDPの2%にするくらいの自助努力をしてくれ。それも無理なら、「在日米軍の駐留経費を払え」と言ったのだが、日本では前提条件を無視して報道された。ゼニカネの問題ではないのだ。

 ところが、安倍首相はにべもなく断った。安倍内閣で防衛費が過去最高と威張るが、GDP0.9%である。一度も1%を超えたことが無い。軍事抜きで「トランプ内閣の外務大臣」として貢献する、そして中露朝などの周辺諸国のご機嫌も損なわないようにする。それが「大人の態度」だと勘違いしているようだ。

 安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を唱えていたのではないのかと訝るかもしれない。たぶん、今でも心の片隅では「できればいいな」と子供の願望のように考えているかもしれない。ただそれだけだ。

◆マトモな人間は、ヘラヘラして媚び諂う奴を軽蔑する

 仮に自主防衛、日本を自分の国を自分で守れるような国にするとしよう。抵抗勢力は二つ。

 一つは財務省主計局である。主計局の仕事は歳出を抑制する、要するに財布の紐をしめることである(それ自体は悪いことではない)。ところが、政治家の野放図な我がままを甘やかして、財政赤字は拡大している。特に福祉が圧迫しているが、それは有権者を敵に回すので切れない。一方、防衛省・自衛隊は最弱小官庁である。抵抗力が少なくて額が少ない。防衛予算を切れなければ、どこを切るのだ? という話になるのだ。

 もう一つは内閣法制局。憲法を頂点とする日本国の法体系の解釈を一手に担う。そして日本国憲法の理念に忠実な“神官”のような連中の集まりだ。そんな彼らが、戦後秩序の根幹を覆す、「自前の軍隊を持つ」など許すだろうか。

 安倍首相は、法制局や主計局が怖くて、戦う旗を降ろしたのだ。官僚たちにとって、既得権益を犯さない首相ほど都合が良いものは無い。だから、長期政権になったのだ。言うなれば安倍首相は、上司(アメリカ)と部下(官僚)の顔色をうかがう中間管理職だ。

 そんな安倍にトランプが本音では業を煮やしていると見るべきだ。マトモな人間は、ヘラヘラして媚び諂う奴を軽蔑する。

 地獄に連れていかれるか、否を突きつけるかが問われている。

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

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