九州南部の豪雨、避難指示が出ても99%は逃げなかった大問題

日刊SPA! / 2019年7月9日 8時30分

写真

土砂が流れ込み崩壊した民家から担架を運び出す消防や警察、自衛隊の隊員たち=鹿児島県曽於市で2019年7月4日撮影 毎日新聞社/アフロ

◆西日本豪雨から1年で再び……

 途切れることなく次々と現れる「線状降水帯」による記録的豪雨が、今度は九州南部を強襲した。

 6月28日の降り始めからの総雨量は宮崎県えびの市で1089.5㎜を記録。鹿児島県鹿屋市で901㎜、熊本県湯前町でも612㎜に達した。7月3日には、南さつま市大浦町を流れる大王川の堤防がおよそ20mにわたって決壊。鹿児島市内を流れる和田川の一部も氾濫し、鹿児島市や曽於市では自宅にいた高齢者が土砂崩れで生き埋めとなった……。鹿児島県によると県内34か所で土砂崩れが発生。鹿児島市内全域の59万人超に避難指示が出されたという。

 奇しくも、5日は「平成29年九州北部豪雨」から2年、翌6日は「平成30年西日本豪雨」から1年をそれぞれ迎えたが、なぜ、これほどまで「記録的」な豪雨となったのか? 天気予報士の柴本愛沙氏が話す。

「東京都の7月全体の平均的な雨量が約1500㎜なので、まさに『記録的』な豪雨と言っていい。この時季は梅雨前線が停滞するので、ただでさえ雨が降りやすいところへ、フィリピン近海に台風のもとになる熱帯低気圧があり、ここから暖かく湿った空気が大量に流れ込んできてしまった。地球温暖化の影響もあって、日本近海の海面水温が高くなっていますが、今回、この湿った空気が、九州地方に張り出していた太平洋高気圧に沿って入ってくるなど、悪い条件がいくつも重なったことで、西日本豪雨や九州北部豪雨のときと同じような線状降水帯がいくつも発生したのです」

 元来、九州の地盤が「水」に弱いことも、多くの土砂崩れを誘発した原因の一つのようだ。災害リスク評価研究所の松島康生氏が話す。

「大規模噴火による火砕流が長年にわたって堆積し、九州には水が浸透しやすい『シラス台地』が広がっています。鹿児島県も地質が火山灰なので、水を貯めておく保水力が弱く土砂災害を起こしやすい。山肌の部分が崩れ落ちる表層崩壊は、山に降った雨が木の根っこの辺りまで浸透することで起きるが、もっと深い地層の境い目まで水が到達すると、岩盤ごと地滑りを起こす大規模な深層崩壊に繋がってしまう……。シラス台地は深いところで土砂が抉り取られやすいため深層崩壊を起こしやすく、再びまとまった雨が降ると危険度が一気に増すのでしばらくは注意が必要でしょう」

 3日、鹿児島市内にあるJR南鹿児島駅近くの斜面が、高さ約20m、幅約10mにわたって崩落した。

 幸い、線路との間に防護フェンスが設置されていたことから大事には至らなかったが、鹿児島市電は4日夕方まで区間限定で運休となった。

「市内に住んでいる息子が『ウチにきな』というので、雨がすごかった日だけ避難しましたが、すぐに帰ってきました。ここら辺は、市が『急傾斜地崩壊危険箇所』に指定していて、過去に大雨で崩れたこともあったので慣れているんです。だから、近くの小学校に避難する人もいれば、雨のなか大変なのでずっと家にいる人もいますよ」

 崩落のあった崖上の新興住宅地に住む60代の女性はこう話してくれたが、今回の九州南部豪雨においては、行政の対応も迅速だったため被害を最小限に抑えられたことは評価されていいだろう。ただその一方で、気がかりな点も……。

◆実際に避難したのが全体の0.3%

 鹿児島市によると、市内に住む59万人に避難指示が出たにもかかわらず、実際に避難したのが全体の0.3%に相当するわずか1800人だったという衝撃の事実も明らかとなっているからだ。松島氏が続ける。

「『今まで大丈夫だったから』という人が多いが、根拠のない楽観は禁物です。東京でも近年、荒川が氾濫した場合、銀座は水没し、250万人が避難を余儀なくされるというシミュレーションが広報され、都民の多くが危険を頭で理解するようになったが、『今まで大丈夫だったから』と、そんなことは起きないと思っている人も多い。

 経験値の少ない地域は被害が大きくなりやすい一方、昔から洪水や土砂災害の多い地域では、住民の間に防災教育が浸透しているところもある。今後はそういったコミュニティのなかで、お年寄りや体の不自由な人たちの避難をどうサポートするかが課題となるはず。普段からお茶の一杯でも飲めるような関係性を築いておくことが重要なのです」

 多くの犠牲者を出した昨年の西日本豪雨を受けて、政府の中央防災会議は、水害・土砂災害からの避難のあり方について提言をまとめている。

「行政は万能ではありません。皆さんの命を行政に委ねないでください」

「避難するかは『あなた』が判断してください。皆さんの命は皆さん自身で守ってください」

 行政主導の避難対策の限界を訴えたうえで、それぞれが自主的に避難することを促すメッセージを出しているのだ。松島氏が言うように、今後は近隣住民で地域に特化した防災マップをつくるなど防災教育を徹底させ、住民同士で助け合うようなルールづくりが求められているということだろう。

※週刊SPA!7月9日発売号「今週の顔」より
取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/山崎 元(本誌) 写真/毎日新聞社/ アフロ 時事通信社

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング