なぜ犯罪者はフィリピンに逃亡する? 待ち受けるのは悲惨な末路…

日刊SPA! / 2019年7月13日 15時54分

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 7月7日、海賊版サイト「漫画村」元運営者の星野路実(ろみ)容疑者がフィリピンの入国管理局に拘束された。漫画村にアップロードされた膨大な漫画は、著作権の問題や出版社が刑事告訴するなど注目を集める事件となっていたため、このニュースはセンセーショナルに報じられた。だが、同時に多くの人が疑問に思ったことだろう。

 ――どうしてフィリピンなのか?

 星野容疑者は、フィリピンの首都マニラの歓楽街エルミタ地区に滞在していたという。今年1月には、積水ハウスを狙った地面師詐欺事件の主犯のカミンスカス操(みさお)被告が、逃亡先のフィリピンで拘束された。覚せい剤取締法違反容疑で逮捕状が出ていた元グラビアアイドルの小向美奈子が一時逃亡していたのもフィリピンだったし、六本木クラブ襲撃事件の主犯とされる見立真一容疑者もフィリピンに逃亡したとされている。犯罪者がフィリピンを選ぶのは、いったいどうしてなのだろうか。

◆なぜ犯罪者はフィリピンに逃亡することが多いのか?

 すぐに思い浮かぶのは、安い物価と警察や役人に賄賂が通用しそうな緩い国というあたりだろうが、これは大いなる“誤解”である。

 物価が日本の三分の一と言われるフィリピンだが、それは底辺コミュニティやローカルの屋台や食堂を軸に暮らした場合である。実際にまともに暮らすとなると、日本とさほど変わらない生活費がかかる。たとえば、まともなアパートに暮らそうと思えば家賃で4~5万円は軽く飛ぶ。食事もきちんとした店で日本食など食べようものなら、1万円ぐらいは平気で使ってしまう。

 これは筆者の経験上の意見だが、節約しなければならない長期滞在者であればあるほど、どうしても日本食を食べてしまうのだ。わかっていても染み付いた日本の生活を再現しようとしてしまうものなのだ。

 また、汚職撲滅をかかげるドゥテルテ政権発足後は、賄賂も極端に通用しにくくなった。特に大きな犯罪に関わるようなケースは、露見したら警察官が粛清の対象になるため敬遠されているという。

 もはや物価や賄賂だけなら、ほかの発展途上国のほうがはるかに条件に見合う。それでもフィリピンが逃亡先に選ばれてきたのは、これまでの歴史の積み重ねから生まれる“幻想”があるからだ。

◆「フィリピンは逃亡しやすい場所」という過去の“幻想”

 幻想の原点となるのは過去の逃亡者たち。元々フィリピンを逃亡先に選んでいたのは裏社会の人々である。日本とフィリピンは犯罪人引渡し条約を締結していないので、警察の捜査が及ぶことがなかったからだ。ちなみに裏社会の人に追われている人の逃亡先は、犯罪人引渡し条約が締結されているアメリカだったりしたという。いまでも広域指定暴力団の組員は、アメリカから入国を拒否されることがある。

 さて、裏社会の人々は誰を頼ってフィリピンに逃げていたのか。それは、フィリピン人の女性である。日本のフィリピンパブなどで働くフィリピン人女性と恋愛関係になって、その伝手を頼って渡るという、ごくごく単純な流れである。ほかにも、何度かフィリピンに行ったことがあり現地の女性と懇意になっていたというケースもあった。

 日本から持っていったある程度のお金があれば、それなりに暮らすこともできた時代もあった。ただし、それはあくまでそういうことができた人がいたというだけで、組織的にバックアップされていたとか、受け入れてくれるコミュニティがあるという話ではないという。アジア専門のライターの室橋裕和氏がこう話す。

「最近は逃亡先をフィリピンにするのは難しいですね。ビザを厳格化する前はフィリピンパブルートが多かった。フィリピンから女の子が日本に年間8万人も送り込まれていましたが、手がけていたのはやはりヤクザ関係者。それでなにか日本で揉めるとそのルートを使ったり、あるいは個人的に親しくなったフィリピン人女性を頼って逃げることがあったようです。組織的なものがフィリピン側にあるというわけではありません」(室橋氏)

 日本に出稼ぎに来るフィリピン人女性は、2004年をピークに一気に減少している。背景には、アメリカが『人身売買に関する年次報告書』で、人身売買容認国として日本を名指ししたことがある。日本政府が就労ビザ発給を一気に厳しくしたことで、フィリピン人をはじめとする多くの外国人出稼ぎ労働者が、日本への門戸を閉ざされた。

 それでも近年まで逃亡しやすい場所のイメージに引きずられるように、犯罪者はフィリピンを逃亡先に選んできた。今回の星野容疑者の件では女性の存在の有無はまだはっきりしていないが、多くの犯罪者を待ち受ける末路は悲惨なものである。

◆多くの犯罪者たちの末路

 女性まかせの逃亡生活というのはかなりのリスクをともなう。過去の逃亡者の中には、数千万円を持っていきながら、最後はその日暮らしになっていたというケースもある。これは、最初こそ協力的だった女性が、足元を見て徐々に財産をむしり取っていき、金の切れ目が縁の切れ目となって見捨てたり警察に密告しているのだ。

 さらに追い打ちをかけるように、昨今ではフィリピン政府も外聞を気にして捜査協力に積極的になってきているように見える。

 実際、星野容疑者が拘束されたのも、フィリピン政府が捜査に本腰を入れたからである。

「在フィリピン日本大使館の要請を受けて、ハイメ・モレンテ委員から星野容疑者の逮捕を強く命じられたという。犯人の居場所を確定するにあたってBI(入国管理局)の協力を受け、さらに任務自体も東京のインターポール(国際刑事警察機構)と連携して実施されました」(プレスリリース訳文より一部抜粋)

 このように日本からの要請に対して、きちんと動いた結果なのである。

 こう言っては語弊があるかもしれないが、これまで日本の警察やフィリピン政府が厳しく取り締まってこなかったのは、取るに足らない犯罪者が多かったからだ。微罪だったり、世間を騒がすほどの規模ではない横領で日本から逃亡したような人もいる。そうした犯罪者がフィリピンには何人も暮らしていると、筆者も取材の過程で聞いたことがある。

 そういった人々は、フィリピンはもちろん日本にも居場所はない。帰るに帰れず、ただ惨めな暮らしを続けながら、人生の終わりを待っているだけである。もはや「犯罪者の楽園」と呼ぶにははばかられる状況ではあるが、微罪の逃亡者が逃げ切っているのも事実。そこを拡大解釈した逃亡者の中には「もしかしたら自分だけは逃げ切れるかも」と淡い期待と幻想を抱いて、これからもフィリピンを逃亡先として選ぶ者がいるかもしれない。被害者やフィリピンにとってはこのうえなく迷惑な話である。<取材・文/丸山ゴンザレス>

【丸山ゴンザレス】
1977年生まれ。宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト・編集者。國學院大学学術資料センター共同研究員。大学院修了後、無職、日雇い労働などから出版社勤務を経て独立。現在は国内外の裏社会や危険地帯の取材を続けるかたわら、TBS系『クレイジージャーニー』に出演するなど、多方面で活躍している。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)、『危険地帯潜入調査報告書』(竹書房)など多数ある。

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