東京で浸水しやすい区は? 夏の大雨で水没の危険も…

日刊SPA! / 2019年8月2日 9時50分

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 気象庁によると、1時間に50mm以上の大雨が降る可能性は’70~’80年代に比べて3割増加している。1時間に50mmの大雨は、東京が水没する危険なラインだ。迫り来る首都水没の恐怖を解き明かす。

◆経済被害は合計115兆円、395万人が避難の予想も

 停滞した梅雨前線が活発化し、鹿児島県と宮崎県で記録的な雨量を観測した7月上旬の九州豪雨。20日には大型の台風5号の影響で、長崎県を中心に再び九州で大雨の被害が広がった。そして24日には、栃木県で1時間におよそ120mmの猛烈な雨が降り、気象庁は「記録的短時間大雨情報」を発表して注意を呼びかけた。わずか1か月の間に、日本各地で猛威を振るう大雨による被害。

「いずれ東京でも、大雨による大規模な水害が起こるでしょう」と警鐘を鳴らすのは、都庁で長年防災事業に従事し、現在も災害対策に取り組んでいる公益財団法人リバーフロント研究所の土屋信行氏だ。

「特に満潮時の水位よりも低い、海抜ゼロメートル地帯が広がる江東5区(江東区、江戸川区、墨田区、足立区、葛飾区)は危険です。長雨で荒川や江戸川が氾濫して堤防が決壊した場合、ほとんどの場所が浸水してしまいます。また、’47年に発生して大規模な被害をもたらしたカスリーン台風のように、上流で決壊した水が下流の地域に流れ込む可能性もあります」

 雨による水害は、洪水だけではない。東京ではスーパー台風による高潮の被害も予想される。’18年に土木学会が発表した試算によると、東京湾で巨大な高潮が発生した場合、経済被害は合計115兆円にも上るという。また、東京都は’18年、想定最大規模の高潮が襲来すると最大水深が約10mに達し、浸水が想定される区は23区中17区に及ぶと公表。17区で暮らす395万人が、避難を余儀なくされる可能性もあるのだ。

「危険なのは東東京や湾岸部だけではありません。東京は1時間の雨量が50mmを超えると、排水が間に合わずに水が地上に溢れ出してきます。いわゆるゲリラ豪雨が発生したときに危ないのは、河川の上に道路を造った暗渠(あんきょ)のある場所や谷になっている場所。具体的に言うと、渋谷の駅前は近寄ってはダメ。地下から水が溢れ出すうえ、高い場所から水が流れてきて水位が一気に上昇します」(土屋氏)

 さらに土屋氏は、小さな河川や多摩川沿いに暮らす人々もゲリラ豪雨に注意が必要と続けた。

「小さな河川は、短時間の大雨で溢れる可能性があります。また、多摩川は流れが急なので、ゲリラ豪雨で増えた水が一気に海へと流れていく恐れがあります」

 浸水が想定されるエリアは、区や市が公表しているハザードマップを見ると一目瞭然だ。海抜ゼロメートル地帯が広がる江戸川区は、5月に改定したハザードマップの表紙に「ここにいてはダメです」という言い回しを使って話題になった。

 同区の危機管理室防災危機管理課の本多吉成氏は、「リスクを正しく知ってもらい、正しい認識のもとでご自身の命を守ってもらうため、表紙は区民にわかりやすい表現にしています」とその意図を教えてくれた。

「江東5区で協力し、早めの広域避難を呼びかけています。現在は国や都の動きも加速し、広域避難先の検討も進めています」(同)

◆明日は我が身の心構えで日頃から水害の対策を

 行政が対策を講じる一方で、茨城NPOセンター・コモンズの代表理事を務める横田能洋氏は、「自主防災の取り組みも必要」と訴える。’15年9月に発生した関東・東北豪雨で被災した横田氏は、「指定された避難所が、準備不足で開設されていなかった」と憤った。

「高齢の両親を連れて遠くに避難するのは大変ですし、周囲の住民もほとんど家に残っていたので、いざとなれば2階があるからと自宅にとどまりました。結論から言うと、この判断は失敗でした。周囲はあっという間に水に囲まれ、車が動かせなくなり、翌朝にはライフラインがストップしました」

 幸いにも、自宅は床下浸水で済んだうえ、近くを通りかかったボートに救助されたことで横田氏一家はことなきを得た。だが、対策本部が置かれた常総市の市庁舎が冠水して孤立するなど、住民だけではなく、自治体の危機管理能力の低さも浮き彫りに。横田氏は地域住民と協力し、避難所の整備や避難地図の作成、避難訓練を実施するなど自主防災の取り組みを推進。体験をもとに「豪雨災害に備えるガイドブック」も公開した。

「特に役に立った防災グッズは、災害用のトイレキット。近所の方にもとても喜ばれました。また、避難するときは、下水の逆流に備えてトイレにタオルなどを詰めておくといいですよ。玄関をブルーシートや土嚢で覆うと、浸水を多少は止めることができました。被災後は、罹災証明を申請するために、浸水位置がわかる写真を残しておきましょう。ボランティアが来る前に、捨てられると困るものだけ整理しておくのも重要です」

 水害に巻き込まれたとき、生き残れるかどうか、再建に向けた好スタートが切れるかどうかは、自らの備えと行動にかかっている。

◆関東以外で危険な地域

 海抜ゼロメートル地帯が広がるのは、東東京だけではない。前出の土屋氏は、「大阪や名古屋も、海抜ゼロメートル地帯が広範囲に広がる」と指摘する。

「土木学会は、ふたつの地域で巨大な高潮が発生した場合の被害総額を、大阪湾は128兆円、伊勢湾は20兆円と試算しています」

 大阪を襲った水害といえば、’18年9月に上陸した台風21号が記憶に新しい。停泊中だった巨大タンカーが、台風の強風で関西国際空港と対岸を結ぶ連絡橋に衝突する事故の映像は衝撃的だった。

「台風21号に伴い、近畿地方の沿岸部では過去最大級の高潮が発生しました。関西国際空港がある大阪府では、最高潮位が329cmにも達しています。この高潮により、関西空港第1ターミナルの地下1階の電源設備に海水が流れ込んで停電が発生したほか、搭乗タラップ橋や手荷物運送システムも故障しました」

 当然ながら、関東平野のように大きな河川が流れる平野部も水害に遭いやすい。暮らしている地域のハザードマップで、安全な場所を確認しておくのが重要だ。

【土屋信行氏】公益財団法人リバーフロント研究所
都庁で長年防災事業に従事した水害対策のエキスパートで、広く災害対策に取り組む。著書に『首都水没』『水害列島』(共に文春新書)

【横田能洋氏】茨城NPOセンター・コモンズ
NPOの代表理事。派遣切りにあった日系ブラジル人、東日本大震災の被災者の支援に尽力。地元が被災後は復興や自主防災に取り組む

<取材・文/黒田知道 写真提供/茨城NPOセンター・コモンズ>
※週刊SPA!7月30日発売号「首都が水没する日」特集より

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