かんぽ生命を売っていた元郵便局員が語る、地獄のノルマ・研修・安月給

日刊SPA! / 2019年8月6日 8時54分

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 郵便局といえば、安定度バツグンだし、のんびり仕事してそうで羨ましいなぁ…というイメージがある。ところが、「とんでもない。地獄のような日々でした」と言うのは、日本郵便の元社員で「かんぽ生命」の保険を売っていたAさん(20代後半・男性)だ。

「実際に中で働いていた経験から言えば、かんぽ生命の不正販売は、起こるべくして起こったと思います。
 郵便局に入るまでは、安定した公務員の仕事を想像していました。のんびりした雰囲気の職場で、事務作業をできると思っていた自分がつくづくバカだったと思う。実際の郵便局は軍隊のように過酷で、二度と戻りたくない地獄のような日々でした」(Aさん)

 日本郵政グループのかんぽ生命の保険は、同グループの日本郵便が販売を受託していた。保険料の二重取りや、必要のない保険の乗り換えなど、顧客に不利益になる契約は、過去5年で18万3000件にのぼる。
 7月31日、日本郵政・日本郵便・かんぽ生命の社長が記者会見を行い、背景に「過剰なノルマ」があったことを認め、今年度のノルマを廃止すると述べた。
 
◆研修はまるで軍隊、新人から飛び込み営業

 いま、メディアで郵便局員たちが、過酷な内情を明かし始めている。
 Aさんは、5年前に日本郵便に入り、「地域基幹職・渉外営業社員」として1年間、かんぽ保険の営業をしていた。

 新人営業マンは、まず「営業力養成センター」というところで研修を受けるという。

「一県に一個ある中央郵便局で研修を受けます。かんぽ保険の営業で、全国トップクラスの実績を誇る4人のインストラクターが教官としていました。
 そこはまるで軍隊のようでした。大声で挨拶。声が小さいと『君たちのやる気はそんなものか!』と叱られます。最初に教官に言われたのは、『この2ヶ月間で覚悟を決めろ。この世界で一生飯を食っていく覚悟があるのか』ということでした」

 研修では、座学の授業と、自局での実践飛び込み営業が一週間おきに交互に行われたという。

「飛び込み営業は、基本1人だけでやりました。当然ながら保険は簡単には売れません。正攻法で言えば、玄関越しで断られる。100軒に飛び込んで1軒で話せればいいほうです。

 一番つらかったのは、大雨のなかで雨合羽(あまがっぱ)を羽織りながら飛び込み営業をしたこと。決して傘をさしてはいけないと指導されていたんです。玄関前でびちょびちょになっている姿で、営業相手のおじいさんおばあさんの同情を買え、というわけです」

◆「君たちを給料ドロボーにしたくない」

 1週間の自局での営業実践が終わると、研修所に戻る。

「研修所での席順は成績順でした。最初は、みんな仲間と思っていましたが、次第に順位によって差がでてくる。上位と下位の成績で顔色が変わるんです。

 教官は彼らの表情をよく見ていますが、『頑張れ』などの甘い言葉はかけません。『この仕事続けられるのか? 別の道もあるんじゃないか?』と決断を迫ってくる。

 毎日のように誰かが辞めていきました。朝、研修所に行くと隣の席に人がいない。教官は何事もなかったように授業を始め、しばらくすると別の教官が、彼の机の上の荷物を部屋の外に運び始める。異変に気がつきながらも誰もそのことに触れなかった。いなくなった彼と会うことは二度とありませんでした」

 Aさんと一緒にこの研修に参加した40人のうち、2ヶ月後に研修が終わるころには約3分の1が辞めていたという。
 また、ノルマを達成できなかった人対象の研修もあり、NHK『クローズアップ現代』(2018年4月24日放送)では多くの郵便局員が”恫喝研修”として実態を明かしていた。

 それでもAさんは、「教官は営業のプロで、基本的に良い人たちだった」と振り返る。

「後に飲み会で教官が話していたのは、『会社が大量に営業を採用して、使い物にならないやつを辞めさせる方針である以上、やらなきゃいけなかった』と。
 むしろ、40代以上でお荷物社員になって、局の上司から『給料ドロボー』といじめられながら、家族のために定年までしがみつくしかない郵便局員がたくさんいる。『君たちにはあのようになって欲しくない』と教官は言うのです」

 むしろ問題は、保険営業の大変さを知らない自局の上司たちだったという。

◆営業手当のために危ない営業に走る「赤い詐欺師」

 かんぽ生命を強引に売った背景には、厳しいノルマだけでなく「売り上げに応じた営業手当」が指摘されている。日本郵便は2014年4月から、成果主義的な給与制度を導入したのだ。
  
「入社してすぐの研修で、新たに成果主義の給料体系を導入したという話を説明されました。
 驚いたことに、数年後に基本給が2割下がり、あとは、かんぽ生命保険を売った営業手当で稼げ、という制度なんです。
 入社前には、『初任給は一般企業よりも低いが、公務員のような安定と、充実した福利厚生がある』と聞いていたのに、全然違うじゃないか!と。

保険の営業ノルマをクリアできないと暮らしていけないような給料を設計されてしまったら、無理な営業をせざるを得なくなる。今回の事件は当然の成り行きですよ」

 2014年から導入された制度とは、「基本給を80%にダウン=役割基本給」+「基本給の8%=役割成果給」+「営業手当=保険の売り上げに応じて」(渉外営業の場合※)。給与に営業成績がダイレクトに響く。
 この営業手当は、新規契約の初月支払い額に応じて決まる。たとえ10年契約でも、手当は最初の1回だから、営業マンはとにかく新規契約をさせようと必死になる。
 いま問題になっているような違法スレスレの手法で稼ぐ営業マンを、郵便局のイメージカラーにちなんで「『赤い詐欺師』と現場では呼んでいました」とAさん。

 また、顧客がかんぽ生命を2年以内に解約すると、なんと、もらった営業手当を返さねばならない。Aさんのところには、辞めたあとでも、会社から営業手当返還の請求書が来たそうだ。

※労働政策研究・研修機構の機関誌「ビジネス・レーバー・トレンド」2014.4月号、郵政グループ労組による解説

◆同僚の営業マンは血を吐いて辞めた

 Aさんがいよいよ退社を決意したのは、かんぽ生命を売っていた同期の退職がひとつの契機だった。
 
「ある日、携帯で順位表を見たら、自分の順位が上がっていました。嬉しいことですが何かがおかしい。逆に成績トップだった彼の名前がない。どうしたんだろうと、彼個人の携帯に何度もかけてやっと繋がると、彼はこう言いました。

『ごめん、もう無理なんだよ。毎週成績が発表されるたびに、自分が落ちるのではないかと怖くて怖くて。いつも胃がキリキリ痛みながら続けていたんだ。
 こないだあまりにも吐き気がしたんでトイレに駆け込んだ。そしたらトイレが真っ赤に染まって。血を吐いたんだ。もうなにがなんだかわからなくなって、病院に行ったよ。
 これ以上は仕事を続けることができないと思った。だからごめんな、もう辞めることにしたんだ。あとは頑張ってくれ』と。

 彼は、キックボクシングをやっていて、ガタイが大きい好青年です。頑張り屋で、お客さんのファンをつかんでもいました。そんな彼でも壊れてしまったのです」

◆システムだけ過激な成果主義?

 長い間、お役所のような存在だった郵便局が、民営化されて「企業」になったのが2007年。Aさんが勤めていた当時は、2015年11月の日本郵政上場に向けて、上司たちは口を開けば「上場するからには、なんとしても成長企業でなければいけない」と言ったという。
 非効率だった組織が、民営化で業績アップを求められ、システムだけ過激な成果主義にしたのが問題の発端なのだろうか。

 Aさんは、「這いつくばっても飛び込み営業で契約を取ってくる、という経験ができたことは、自分にとってはよかった。ただ、あのやり方を続けることはできないし、目先の利益に走る日本郵便の方針は間違っている」と振り返る。

 今回の問題を受け、日本郵便は当面、かんぽ生命の販売を自粛する。現役郵便局員の目下の悩みは、「営業できなくて営業手当が入らないと、生活が苦しい」ということだという。

<取材・文/日刊SPA!取材班>

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