関係悪化で得をするのは日韓の政治家と中国。そのワリを食うのは日韓の庶民

日刊SPA! / 2019年9月3日 8時54分

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輸出管理上の優遇対象となる「ホワイト国」から韓国を外すと発表した世耕経産大臣

◆日本は、韓国に対して1兆9404億円の黒字

 日韓両政府の対立がエスカレートしている。経済産業省が7月1日に韓国向け輸出管理強化を発表したのに続いて、安倍政権は8月2日、「ホワイト国」除外を閣議決定した。

 すると韓国の文政権はこれに猛反発、日本を「ホワイト国」(輸出管理上、優遇対象となる国)から除外することを12日に発表。さらに22日には日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を宣言。これに対して日本政府は8月28日、「ホワイト国」から韓国を正式に除外した。両国関係は、かつてないほど悪化している。

 エコノミストの藻谷浩介氏は、現在の日韓関係の悪化について「非常に危険な状態にある」と警告する。

「日本は、韓国に対して1兆9404億円の黒字です。日本の世界各国に対する黒字の中で、トップ5前後の数字をずっとあげています。

『韓国を懲らしめる』と言っているけれども、実は日本は自国の身内を傷つけているのです。日韓関係の悪化で得をしているのは、国内では対韓強硬姿勢の安倍外交にスカッとした人。

 一方、韓国で確実に得をしたのは文大統領。日本の貿易規制のおかげで、韓国経済の低迷や支持率下落などの大ピンチを脱しました。さらには、韓国企業が調達先を日本から変更、受注が増えるであろう中国です」

◆日本メーカーは世界最先端企業との独占的協力関係を失う可能性

 元経産官僚の古賀茂明氏は製造業への悪影響について「レアアース輸出制限に踏み切った中国の二の舞になる恐れがある」と警告を発する。

「2010年に尖閣問題での対日報復策として中国はレアアースの輸出制限をしましたが、使用していた日本のメーカーは代替ルートを探したり、レアアース使用料の少ない製品の開発やリサイクル技術を発展させたりして対抗しました。

 こうして中国依存度を下げた結果、長期的に損失を被ったのは中国のほうでした。同じように今回の安倍政権の輸出規制強化で、日本のメーカーが大打撃を受ける恐れがあります」

 また、対韓強硬路線を世界中に発信したことで、「日本のメーカーは世界の最先端企業との独占的協力関係を失う可能性がある」ともいう。

「例えば、サムスンに部品や材料を輸出している日本メーカーは、協業することによって技術的進歩を得ています。フッ化水素にしても、単純に純度を挙げれば良いというものではありません。

 サムスンのどの製品向けには、どの程度のコストをかけてどこまで純度を上げるのか、不純物の成分は何がどこまで許容されるのかなど、新規製品開発に合わせて微妙な調整が必要。それが日本メーカーにとっては、他国企業と決定的に差別化するための技術的蓄積にもなる。

 今後、サムスンが新製品開発をする際、『日本メーカーは危ないから、国内か日本以外のメーカーに乗り換える』と決断した場合、協業によって得られる技術進歩を日本メーカーは得られなくなる。

 半導体分野ではサムスンが世界一で、有機ELではLGが世界一。日本メーカーが最高水準の部品や材料を作るには、最高水準の元請け会社がないとできない。安倍首相も世耕大臣も経産官僚も、韓国企業に日本のメーカーを育ててもらっていることを分かっていません」(古賀氏)

 こうした事態が最先端の分野で起きかねないということだ。

「製造業の国際的協業でも日韓以外の部分、例えば、中国や台湾などと韓国との関係が強化されていくでしょう。もちろん短期的には韓国もダメージを受けるかも知れませんが、蚊帳の外で技術進歩から取り残される日本メーカーのほうが大打撃を受けるでしょう。対韓強硬路線は国益を損ねる一方、中国や台湾などを儲けさせることになるのです」(同)

◆製造業界の本音は「日韓関係を改善してほしい」!?

 しかし、こうした製造業界の声に安倍政権が耳を傾けて軌道修正をする気配はまったくない。

「経産官僚が安倍首相や世耕大臣に製造業の実情や声を伝えていない可能性があります。『日本メーカーが大変なことになります。日韓関係を改善しましょう』などと進言すると、耳を傾けるどころか干される恐れがある。だから本当のことは怖くて言えない。

 国益よりも安倍首相への忖度が優先されることが、経産省にはびこっていることは確実。『強く出れば韓国は謝ってきますよ』といったことを口にする官僚はいても、苦言を呈する官僚はいない。

 経済界も同じです。懇意の国会議員に本音を話す企業トップはいても、公の場で言ったらどんな嫌がらせを受けるのか分からないからです」(同)

 いま家電量販店は、来年の東京オリンピックに向けて有機ELの大型テレビ購買キャンペーンをしているが、日本で売っている有機ELはすべて韓国製だ。日韓関係悪化がさらにエスカレートして韓国が供給停止をしたら、韓国企業の損失はもちろん大きいが、日本の家電メーカーも大打撃を受けるだろう。

「安倍政権の対韓強硬外交で日韓関係がさらに悪化、日本経済が打撃を受けるとともに、ジャパンブランドも毀損して、『歴史的大愚策だった』と後悔する可能性が高まっています」(同)

◆日本の黒字分減少のツケを払うのは、民間企業と庶民

 藻谷氏は、「『対韓強硬策を止めたほうがいい』という人に対して『反日』と言う人こそ『反日』です」と語る。

「安倍政権の対韓強硬外交に快哉をあげる人たちこそ、日本の国益を損ねている。韓国と商売をしている人たちの売り上げが落ち、約2兆円の対韓黒字が減るであろうことを考えていない。

 強硬策に出る両国の政治家たちは支持率が上がっていいでしょうが、メーカーや観光業者が損をしても責任もとらない。日本の黒字が減る分のツケを誰が払うのかといえば、日本の民間企業であり、庶民です。

 いまや官邸と経産省が暴走して戦前の軍部のようになっている。感情に流されることを放置したままにしていると、戦前の日本に戻ってしまう。経済的な損失について考えないで、感情で物を言っていると国全体が損するということです」

 日韓関係の悪化を招いていて、得をするのは両国の政治家と中国。そのワリを食うのは両国の庶民で、特に対韓黒字国である日本側の損失は大きいのだ。

文/横田一 写真/時事通信社

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