日本で初めて三連単が始まったとき。人生二度目のビギナーズラックと違和感<江戸川乞食のヤラれ日記S>

日刊SPA! / 2019年9月11日 15時49分

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平和島の水面

―[江戸川乞食のヤラれ日記S]―

◆<江戸川乞食のヤラれ日記S>=ここでは昔の話をしよう・2=

 これはまだボートレースが競艇と言われていた時代の話。

 住之江競艇場、平成12年(’00年)10月13日初日開催の第4回ブルースターカップ、ここから現在の舟券の主流である三連勝式の歴史が始まった。

 その後、住之江に続いて関東では11月1日の平和島競艇場初日開催から三連勝式の発売を開始することが決まっていて、当時はさまざまなメディアで告知されていた気がする。

 その前日、競艇客デビュー前の「明日江戸川に競艇を見に行くぞ」と思った日みたいに、そして「三連勝式っていう初めての賭式の舟券を買うんだから、もしかしたらすでに艇歴十余年を余裕で超えてるけど、きっと二回目のビギナーズラックがあるんじゃないか」とかいう甘い期待をしながら、無邪気に次の日を楽しみにしている自分がいた。

 そして迎えた11月1日初日の開催。平和島「第45回日刊スポーツ旗争奪レース」……なんの変哲もない一般タイトル戦競走、しかし、客の空気は全く違っていた。

 直前まであおりにあおった三連単効果と、初日中央特観が1000円で入れる大サービスがあり、京急平和島駅には朝の通勤客とはまったく違う、ひと目でそれとわかるいでたちの客が朝から降りてきて、雨だというのにみんなイキ巻いて駅前のオケラバス乗り場に一直線に歩いていった。

 そしてバス停でバスを待つほとんどの客が誰彼構わず三連単の買い方談義で盛り上がっていた。

 一般戦の、しかも朝10時ちょいだというのにSG開催なみの混み具合、いくら三連勝式が本場のみの発売とはいえ、特観席の指定席が1R展示開始前に完売。

 みんな欲の皮が突っ張ってますわなぁ……とその時は思っていた。自分もその中のひとりということをきっちり忘れて。

平成12年(’00年)10月13日
第45回日刊スポーツ旗争奪レース 1R 進入固定競走
1 井上 弘  60歳 B1
2 酒井壽賀夫 52歳 B1
3 市川澄男  53歳 B1
4 井上嘉広  41歳 B1
5 内田光信  50歳 B1
6 中野秀彦  27歳 B2
(年齢・級別は当時)

 記念すべき平和島での三連勝式発売対象レースのメンバーはこんな感じ。誰だこいつら? と思うか、懐かしさで滂沱の涙となるかは世代によるかと思うけど、この頃の一般戦の初日1Rのメンバーなんかどこもこんな感じで、それは半ばお祭りみたいな三連勝式発売初日でも変化はなかった。

 今なら確実にシード戦やA級選手重点の番組で初日の第1レースを飾るのではないだろうか?

 失礼を承知で言えば、当時の彼らの評価は終わった選手とほぼ新人の中野秀彦(実はこの中野秀彦、翌年6月に開催された江戸川競艇場の三連勝導入記念競走でデビュー初優勝を決めているというのは何かの因縁か?)あげくに進入固定競走。

 特観席の客から「なんだこのメンバーと進入固定って? 江戸川で三連単売るときの練習かこれ?」と不満の声、それでも進入を予想しないでいいぶん、予想は立てやすい。

 ざわつく場内が、展示タイムを発表するアナウンスが流れると一斉に静まり返る。

 こういう雰囲気を見ると、やはりなんだかんだ言ってみんな博打打ちなんだなと思いながら自分も予想紙に数字を書き入れていた。

 展示タイムの発表が終わるといよいよ発売開始。

◆記念の準優や優勝戦を見ているような空気感

 初めての三連単発売ということで、1R目から大混雑、幸い……なのかはわからないが、有人窓口がまだ多かった時代でもあり、マークカードの塗り間違いをその場で売り場のおばさんたちに修正してもらいながら買っている客の姿がちらほら……。

 発売締切から出走、特観席の空気が緊張する、最初の三連単舟券を当てたい、という空気がなんとなく記念の準優や優勝戦を見ているような空気を作り出していた。

 レース結果は井上弘が逃げ、酒井が差し追走。若手らしく握って回った大外中野が3着追走の1-2-6で二連単860円、平和島初の三連単は1850円……。

 発表された配当金を耳にした客のなんとも言えない空気、もえ、三連単なのにそれだけ? そんな気配であった。

 実際、客が大きくざわついたのは、2Rで8530円。10Rで39800円の配当がでたときくらいだった気がする。

◆違和感はあったけど、比較するものがない三連単

 この日、人生初の三連単の結果は12打数6安打、回収率182%とそれなりの浮きで終了。

 人生二度目のビギナーズラックは確かにあったのかもしれない……のだが、浮いておいて贅沢な話なのだけど、この時の自分は前日のはしゃぎっぷりが嘘のようになんとも言えない違和感に包まれていた。

 目の前を走る6艇の中から上位に入る舟を予想して当てる。

 但し、三連勝式は2着までではなく上位3着までを予想するという変更にすぎない。

 そう口で言うには簡単なのだが、ただそれだけでなにかいままで自分が培ってきた展開予想や舟券予想のセオリーが崩れていくような感じもしていた。

 京急平和島駅のホームで電車を待ちながら、なんとなく捨てずに持って帰ってきた全レースの外れ舟券を改めて取り出すと、その厚さは5ミリを余裕で超えていた。

 二連単でこれだけ外れ舟券の山を積み上げていたら、その日はいくら負けてきたのか想像ができない、あとは目の前を通過する快特にダイブするしかないだろうってくらい負けが込んだ厚さである。

◆三連単初体験をしたおっちゃんたちの会話は?

「競艇と……いや平和島と三連単って相性悪いんじゃねぇか? いつもの伯仲番組を組んでおいて三連単で3ケタ配当がでるんだからなぁ」
「それは今日みてぇな日に、朝から来る客がクロいせいもあるだろうけどけどよ、確かに思ったより二連単と配当に差がつかなかったよな、万舟も一本しかでなかったし」
「そういや平和島って、3着がよく紛れるよな、二連単なら3着の舟は考えないでいいけど、これからは3着に入る舟のことまで考えねぇとまずいってことか?」
「二連単なら4点くれぇまでに絞れるけど、さすがに3着まで考えたら三連単ではイヤでも買い目が増えそうで大きく張れねぇよなぁ、それでも配当でかけりゃいいけど、終わってみれば3ケタ配当ってんじゃまるっきしお話になんねぇ」
「でもその今日でた万舟はそこそこでけぇし、二連単でなかなかでにくい中穴クラスの配当もあるから、そのへんは狙いやすいってのはあるかもしれんな」
「とはいえな。この先、下手したら昔しくじった全レース進入固定競走みたいな枠なりレースがメインになっていくんだろ? そしたら今日の1Rと6Rみてぇな展開ばっかりになるのか……なんかイヤだな」
「どうせ進入固定でやるなら、居直って昔みたいに総ガマシのブイ付きでやってほしいぜ」

 そんな感じで電車を待っているおっちゃんたちの会話を耳にして、なんとなく抱いていた違和感の正体が掴めた気がした。

 買える目30通りから120通りと4倍に増えたが、二連単と三連単との配当の差がそれほど大きくなかったという印象が自分だけではなかったということ、そして、自分を含めて大多数の客が買い目4倍なら二連単と三連単の配当の差が4倍以上になるだろうという謎のオケラ理論が頭を支配しているに違いないこと。

 そういうこともあって、当初に三連単へ抱いていたイメージとは少し……かなり……微妙だけど確実に乖離していたという点。

 そして、大多数の客が三連単に慣れた現在ではあたりまえの行動に近いものあるが、当てても外してもレースが進むごとに無意識のうちに買う点数を増やしていったこと。

 たぶんこれが自分なりの違和感の正体。いままで二連単を買うスタンスとはまるで違う形で三連勝式の舟券を買っていた、買うのを強いられていたという結論に達した。

 この日から関東でも三連勝式の発売が始まって、そして自分が初めて三連単を買ってから今年で19年。そしてその期間で確実に競艇、ボートレースの賭式もほぼ完全に三連勝式にシフトしている。

 さらに、当時のおっちゃんたちの予想通り、現在では枠なりが主流のレース構成になり、いつの間にか客の方もそれを納得済みで予想を立て、その結果、確かに内側から順に人気になるオッズの偏りに関しては納得できるようにはなっていたが、本当にそれが良いことなのか悪いことなのか、今も答えが出せていない。

第45回日刊スポーツ旗争奪レース 初日成績
1R 1-2-6 1850円(進入固定競走)
2R 5-1-2 8530円
3R 4-3-1 970円
4R 3-1-5 950円
5R 5-2-6 2390円
6R 4-2-5 1610円(進入固定競走)
7R 3-4-5 1880円
8R 3-5-2 4220円
9R 6-1-5 7440円
10R 6-3-4 39800円
11R 4-2-3 2290円
12R 4-1-2 1600円

 なお、この開催の優勝戦は、初日のモーターの吹けの悪さだけを見てたらまず買えない花田和明が道中モーター立て直したのか優出6枠に残り、優勝戦では4コースを強奪してきっちりまくり差しを決めて優勝。

 2着にはこれまた初日だけを見てたらまず買えない鈴木茂正、3着に初日10Rでこの日の三連単最高配当を叩き出した立役者である松元保徳が残り、三連単配当15660円の万舟決着で平和島三連勝式導入の初開催は無事終了した。

※平成22(’10)年度以前の話題につき当時の名称にて表記しております
※本文中敬称略

【江戸川乞食】
シナリオライター、演出家。親子二代のボートレース江戸川好きが高じて、一時期ボートレース関係のライターなどもしていた。現在絶賛開店休業中のボートレースサイトの扱いを思案中

―[江戸川乞食のヤラれ日記S]―

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