安倍新内閣を論評。小泉進次郎など無派閥の「お友達」を大量入閣/倉山満

日刊SPA! / 2019年9月28日 15時50分

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9月11日、新内閣(第4次安倍第2次改造内閣)が発足した/画像は首相官邸ホームページ

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◆皇室への不敬甚だしい横畠裕介内閣法制局長官の勝ち逃げ退任を許してしまった

 ど~~せ、やる訳ないと思いつつ、以前の本欄で「皇室典範担当大臣を新設し、衛藤晟一氏を据えよ」と述べた。史上最長任期の首相を目前にしているのだから、一つでもマトモな実績を残せとの意味で、首相の盟友で皇室に対する尊崇の念では自他ともに認める衛藤議員を登用しては如何か、と述べたのだ。

 アベノシンジャーズが批判を封じる際の常套句が「安倍さんに無理難題を押し付けるな」だが、閣僚任命は首相の専管事項で、これ以上低いハードルはない。ところが、安倍首相は皇位の安定継承のための皇室典範改正に踏み込む気は無いようだ。案の定、としか言いようがない。

 さて、今回の改造人事を、重要な順に論評する。

 まず、横畠裕介内閣法制局長官が退任した。皇室に対し不敬の限りを尽くした御仁だ。その悪行三昧は、本欄でも再三、取り上げてきた。天下り先は、最高裁判事と取り沙汰されている。6年の在任中、やりたい放題の憲法解釈を政府と国民に押し付けられたのには辟易していたが、勝ち逃げを許したのは間違いない。

 なお後任の長官は、近藤正春次長の昇格だ。法制局長官は、財務省、検察庁、経産省、旧自治省の出身者が輪番で就いている。今回は検察庁出身の横畠氏から経産省出身の近藤氏だ。政権発足当初の安倍首相は人事介入を行ったが、見る影もなく順当な順送り人事に復している。

 各省の長は事務次官である。事務次官会議を取り仕切る、杉田和博官房副長官(事務担当)は留任である。杉田氏は78歳、横畠氏は67歳である。安倍首相は、よほど杉田副長官を頼りにしているのだろう。

 杉田副長官と同じ警察官僚出身で、内閣情報官の北村滋氏は国家安全保障局長に転出した。外務事務次官出身の谷内正太郎前局長は退任となる。北村氏は、北朝鮮が寄越した「横田めぐみさんの遺骨」を偽物と見破った実績が買われ、事務次官と同格の内閣情報官のポストが新設されたほどだ。安倍首相は、多難が続く国際情勢に外務省への不信を露わにしたということか。

◆主流派体制に変わりはないが、変化は如実に表れている

 安倍政権では、「首相官邸で石を投げれば、経産官僚に当たる」と言われる。その象徴が今井尚哉首相秘書官だ。その今井氏が首相補佐官に昇格した。これまで首相秘書官として7年に及ぶ政権を支えてきたが、今後も兼務するという。実力秘書官は並の大臣よりも実力者だが、今井氏の権勢はさらに強まるか。

 彼ら官邸官僚を束ねる立場にあるのが、菅義偉官房長官だ。自民党では表向き無派閥だが、その影響下にある議員は多い。

 政府の要は麻生太郎副総理・財務大臣、党を預かるのは二階俊博幹事長。首相の出身派閥は細田博之派だ。これまで通り、細田・麻生・二階の三派連合の主流派体制に変わりはないが、変化は如実に表れている。

 下の表を見て欲しい。

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<表>第4次安倍再改造内閣 (’19年9月11日認証式)
※自民党四役(幹事長、政調会長、総務会長、選挙対策委員長)も追加

【細田派 97人】
四役・主要閣僚/選挙対策委員長 下村博文
重要閣僚/経済財政担当大臣 西村康稔
伴食大臣/文部科学大臣 萩生田光一
長官級/五輪担当大臣 橋本聖子

【菅系 ?人】
四役・主要閣僚/官房長官 菅義偉
重要閣僚/経済産業大臣 菅原一秀
伴食大臣/法務大臣 河井克行

【無派閥 ?人】
重要閣僚/総務大臣 高市早苗・農林水産大臣江藤 拓
伴食大臣/環境大臣 小泉進次郎

【麻生派 55人】
四役・主要閣僚/財務大臣 麻生太郎・総務会長 鈴木俊一
伴食大臣/防衛大臣 河野太郎
長官級/復興担当大臣 田中和徳

【竹下派 53人】
四役・主要閣僚/外務大臣 茂木敏充
重要閣僚/厚生労働大臣 加藤勝信

【二階派 46人】
四役・主要閣僚/幹事長 二階俊博
長官級/国家公安委員長 武田良太・沖縄・北方担当大臣 衛藤晟一

【岸田派 46人】
四役・主要閣僚/政調会長 岸田文雄
長官級/科学技術担当大臣 竹本直一・地方創生担当大臣 北村誠吾

【石破派 19人】

【石原派 11人】

【公明党 57人】
重要閣僚/国土交通大臣 赤羽一嘉

=====

 主流派の証は、自民党四役を占めることだ。三派連合に加え、岸田文雄派にも政調会長を宛がっている。

 また主要閣僚は、ただ二人留任した菅・麻生両氏の他に、竹下亘派に外務大臣の椅子を分け与えている。

 五大派閥の均衡には気を配っている格好だ。

 連立与党の公明党には国土交通大臣の1ポスト。指定席と化している。

 悲惨なのは石破茂派と石原伸晃派だ。これでは自民党内において、存在しないに等しい。

 それでも石原派は、表には無いが、自民党で四役に次ぐ国会対策委員長を得ているだけマシだ。

 石破派は完全に干されている。昨年の総裁選挙で安倍首相の対抗馬として出馬し、激しく争った報復だ。

 党内で唯一、石破氏を応援したのが参議院竹下派だ。重みのある大臣2ポストが振る舞われているが、2人とも衆議院議員で首相に近い。派閥領袖の竹下氏が病気入院中なので、切り崩された格好だ。かつ、実力者として知られた吉田博美前参議院幹事長が引退し、組織の立て直し中なのが大きいと言えよう。

 岸田派も、切望した幹事長は得られず、大臣も2ポストながら軽い。

 石破、岸田氏は将来の総理総裁候補と目されてきたが、政治力の低下が如実に表れている。岸田派、石破派、それに石原派が弱小派閥と軽く扱われているのは、やむを得まい。

 主流派の二階派も幹事長こそ占めたが、獲得した大臣2ポストは軽い。

 麻生派は他派閥と比べ優遇されているようだ。消費増税を悠々と実現した、官庁の中の官庁としての復活ぶりが著しい財務省がバックについているからだが。

◆麻生・二階の両氏と組んでいる限り無敵の安倍首相

 今回の人事の肝は、テレビや新聞では「無派閥」としか報道されない人たちの実態だ。

 組閣は派閥の領袖の推薦により、首相が決める。通常、無派閥議員の登用は「首相枠」とされてきた。かつて小泉純一郎首相は「無派閥」や民間人の登用で、自分の側近で閣内を固めたことがある。そうすると「派閥の意向にとらわれない人事」とマスコミが勝手に持ち上げてくれる、というボーナスまでついてくる。もっとも、それができたのは小泉首相に派閥の意向を無視する政治力があったからだが。

 安倍首相も、麻生・二階の両氏と組んでいる限り無敵なのだから、今回は遠慮なく無派閥の「お友達」を大量に入閣させた。野党が参議院選挙を勝たせてくれたのも大きい。

 サプライズ結婚で話題の小泉進次郎環境大臣も、この枠である。

 さらに、菅官房長官に近い議員も、重要ポストで入閣している。

 細田派、菅系、無派閥の三者を足すと、9大臣を占める。しかも、その内5ポストが主要・重要閣僚だ。

 ここまで、永田町の常識を解説してきた。「安倍一強」は続いている。自民党内に目ぼしい敵がいないのだから、当たり前だろう。ライバルが石破茂や岸田文雄では話にならない。

 こうした形勢の中で、菅義偉官房長官が勢力を伸ばしている。菅系を眺めて見ても、細田派、麻生派に次ぐ勢力であり、岸田・石破の弱小派閥はもちろん、竹下派や二階派をも凌駕する。

 菅官房長官は、安倍首相の復権以来一貫して政権を支えてきたが、最近は「令和おじさん」として一般の知名度も上がっている。ポスト安倍の最有力なのだ。

 内には消費増税、外には露中朝の脅威。安倍首相は頼りにならないが、菅後継首相は期待できるだろうか。

 天下睥睨(へいげい)しよう。

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数。9月27日には、『13歳からの「くにまもり」』が刊行される

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