前澤氏はZOZOの経営に失敗したのか?見落とされる3つの誤解

日刊SPA! / 2019年9月30日 8時51分

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※公式インスタグラムより

―[あの企業の意外なミライ]―

 9月12日に発表されたヤフーによるZOZOの買収発表会見。涙ながらに自社への想いを伝える前澤社長の姿を目にした人は少なくないでしょう。この令和最初の衝撃的買収劇を受け、週刊誌等のメディアでは「前澤・前社長の裏側」を報じる記事が目立っています。

 それらの記事を眺めてみると、彼個人のパーソナリティにフォーカスを当てたものが目立ちます。しかし、この買収劇の背景を前澤氏の「個人的資質」ではなく、あくまでZOZOという一つの企業が「経営戦略」として行った合理的判断と考えて分析すると、本件はまったく違った側面が見えてきます。
 
 なぜ前澤氏は、ZOZOをヤフーに売却したのでしょうか。そして、彼はなぜ退いたのでしょうか。(株)フィスコの企業リサーチレポーターである筆者・馬渕磨理子が、前澤氏退任の理由を分析していきます。

 キーワードは「3つの誤解」です。

◆1)「ZOZOARIGATO」の“割引と寄付”が理解されなかった

 今年に入り、ZOZOに出店している企業側の「ZOZO離れ」が加速していました。理由は、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」が行なっていた、ZOZO負担による値引きサービス「ZOZOARIGATO」(ゾゾ アリガト)です。

 各ブランドが、自社商品がZOZOで値引きされることでブランド価値が棄損されることを懸念し、撤退が相次いだのです。結果、「ZOZOARIGATO」サービスはスタートからわずか5か月の2019年5月で終了。

 しかし、この「ZOZOARIGATO」、本来の目的は「おトクに買って、誰かを応援する」という、割引と寄付が一体となったサービスだったのです。

 具体的に言えば、商品の購入金額に応じた10%の割引が適用され、その一部または全額を、同社が指定する団体への寄付や購入先のショップへの金額還元に使用できるというもの。つまり、ブランド側は“損”をするわけではありません。

 ところが、割引という事実のみに引きずられ、ブランド価値の毀損につながるのではないかという取引先側による論点のズレが生まれてしまったのです。ちなみに「ZOZOARIGATO」で、サービス終了までに総額2919万9955円もの寄付が集まっています。

◆2)ZOZOSUITの本当の目的が伝わらなかった

 ファッション通販サイトの運営で収益をあげていたZOZOですが、ここ数年は自社でつくるプライベートブランド(PB)への参入に力を入れていました。そのPBの本来の目的が達成されなかったことも、売却を決めた要因だと考えられます。

 その根拠を示す、ZOZOのPL(損益計算書)を見ていきましょう。

 2019年3月期の業績は、売上高2割増の1184億円でしたが、営業利益は2割減の256億円となっています。特に、営業利益率は48%(2015年)から21%まで低下しています。

 この営業利益率の低下の背景にあるのは、販管費の増加。販管費の具体的中身は明らかです。それが「荷造(にづくり)運賃」。

 これは何かというと、決算報告資料によると「配送運賃の変更」と「ZOZOSUITの大量配布」があげられています。この「荷造運賃」が販管費を増やし、利益を圧迫していたのです。しかし、そこまでして同社はなぜZOZOスーツを配布したかったのでしょうか?

 ZOZOは、「あなたの身体を瞬時に採寸することのできるボディースーツ」と銘打ち、伸縮センサー内蔵のZOZOSUITを無料配布することを発表していました。これは、フリーミアムモデル戦略を取りたかったからです。

「フリーミアムモデル」とは、無料サービスで大勢の人を集めて、その一部の人に有料サービスを利用してもらうことで利益を上げるフリー戦略のビジネスモデルです。つまりZOZOSUITを無料で配ることで、消費者に自社のPB商品を買ってほしかったのです。

 しかし、ZOZOSUITは体型データを計測する側面にばかり焦点が当たってしまい、PB商品の売上に大きく結びつきませんでした。販管費がかさんだZOZOSUITは、2018年の10月31日には将来的になくしていくことを明らかにしています。こうした「世間の反応」はZOZOが当初描いていた戦略から軌道修正を迫られることになったのです。

◆3)「借金して自社株買いは…ヤバい」説が流布

 3つ目の誤解は、自社株買いに対する誤解です(2018年5月、前澤氏が所有するZOZO株・約240億円分を、ZOZOが買い取った)。

「自己資本比率」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか?

「自分で稼いだお金だけで生活しているお金に余裕がある会社」と考えた人がいるかもしれません。しかし、それは半分正解で、半分不正解です。

 ZOZOのBS(バランスシート)は、4年で資産が2.2倍(2016年→2019年)、自己資本は408億円(2018年)に拡大していましたが、2019年には約半分に急減しています。このため、自己資本比率も57.7%から28.7%へ急激に低下しています。

 ここで「自己資本比率」についておさらいしておきましょう。

 一般的に、自己資本比率は40%あれば良いとされています。黒字企業でも自己資本比率は27%前後の企業が多いため、安全性に問題が出る水準ではありません。ではZOZOが自己資本比率を低下させたのはなぜでしょうか。自分のお金だけで生活するのが難しくなったからでしょうか。それは不正解です。

 ZOZOが自己資本比率を下げた背景には、ROEを高める企業努力が挙げられます。

 ROEとは「Return On Equity」の略。Returnは「利益」、Equityは「資本」を意味しています。つまり、自己資本に対して、株主が得る利益がどれだけあるかを示す指標で、株主に入れてもらったお金を、どれだけ有効活用しているかを見るための数字、ということです。ROEは次の式によって導き出されます。

ROE=純利益(PL)÷自己資本(BS)

ROEを高めるには、分子の「純利益」を大きくするか、分母の「自己資本」を小さくするかの2通りの方法があります。そこで、ZOZOは自己株式を購入し「自己資本」を小さくするために自社株買いを行うのです。実際、ZOZOも2019年3月期に「自己株式」の取得によって自己資本を約244億円小さくしました。

その自社株買いの原資は「短期借入金」。つまり、240億円を借金して、自社の株式を買ったのです。借金して、自社株買いを行うのっていいの?と思った方もいるでしょうが、これこそが、誤解の3つ目。

 現在、時価総額世界第1位に返り咲いている、マイクロソフトは、「借金して自社株を買う」を行っている典型的な企業です。それ自体はまったく問題ないと言えますが、世間では「ZOZOは業績が悪いので借金してまでも自社株を買ったのではないか」という説が一部で広まってしまったようです。

◆営業キャッシュフローの低下

 以上の「3つの誤解」がZOZOの前澤社長が責任をとって退任した背景ではないかと私は考えます。また、それをさらに裏付ける根拠がキャッシュフロー計算書です。ZOZOの営業キャッシュフローは、今期20%減の148億円になっています。

 理由は上記にも記載しましたZOZOSUITの影響でしょう。

 消費者にピッタリのサイズの服を提供することは喜ばれますが、それは多品種小量生産となることを意味します。在庫が増加することでキャッシュフローが悪くなっていた可能性があります。とはいえ、こうした業績悪化は一時的である可能性が高いと私は考えます。しかし、企業の株価は、業績の変化以上に大きく反応してしまうもの。それは下記の株価推移を見れば明らかです。

 カリスマ経営者である前澤社長は、そんな「誤解」を生む原因となっていることに責任を感じたのではないでしょうか。

 財務諸表を見るだけで、ここまで企業とニュースのイメージは変わるもの。

 メディアが報じるセンセーショナルな経営者像だけに注目するのではなく、無機質な財務諸表のグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。

【馬渕磨理子】
日本テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

―[あの企業の意外なミライ]―

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