避妊も男女平等へ。男性用「避妊ピル」の研究が進む

日刊SPA! / 2019年10月9日 15時51分

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欧米では避妊薬も男女平等の時代へ。男性はコンドームをするか、避妊薬を摂取するかを選ばなければいけない

 世界では長らく男性優位の社会だったが、男女平等を求める声が次第に大きくなり、さまざまなシーンでジェンダーギャップの解消が進んでいる。その波はついに避妊薬にも及んでいた!

◆日本も世界と同レベルの避妊法を

 世界と同レベルの避妊法を――日本の女性たちがツイッター上で「#なんでないの」というハッシュタグとともに声を上げ始めた。彼女たちが主に求めているのは、経口避妊薬へのアクセスの改善だ。

 1か月のうち3~4週間飲み続けることで避妊効果が得られる低用量ピルや、避妊に失敗したりレイプされた際に服用するモーニングアフターピルは、多くの国で薬局やドラッグストアで購入が可能。しかし、日本ではともに入手には医師の診断と処方箋が必要で、薬価も諸外国に比べて高価なのだ。

 多様な避妊薬を望む理由について「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子氏は語る。

「避妊に失敗したときに妊娠するのは女性です。それなのに、コンドームによる避妊は男性に決定権がある。コンドームのみを1年間使用し続けたときの避妊失敗率は18%にも及ぶというデータもあり、欧米では避妊具としてよりも、性感染症予防策として用いられています。また海外では女性主導で行えるさまざまな避妊方法が普及しています」

 経口避妊薬を毎日服用することに抵抗がある人には、体に貼ることで、薬の成分が浸透して排卵が行われなくなる避妊シールや、1回で3か月効果が続く避妊注射、体内に避妊薬の成分を埋め込むことで3年効果が続くインプラントなどがあるという。これらはいずれも、日本では現在、正式に入手することが不可能で福田氏はそうした状況を改善しようと運動を行っている。

◆避妊も男女平等へ

 日本では彼女たちが求める、「女性主導の避妊」すら実現にはまだ時間がかかりそうだが、欧米社会では、すでに「避妊の負担」の男女平等へと向かい始めている。男性用の避妊薬の研究が盛んに進められているのだ。

 現在、販売実現に最も近いのが米LA BioMedが開発中の避妊薬「11-beta-MNTDC」。精子の生成を阻害する男性用の経口避妊薬で、臨床試験も始まっている。同チームは10年以内の発売を目指しているというが、ほかに「DMAU」という副作用の少ない別の経口避妊薬の研究も進んでいる。経口薬以外では上腕や肩に塗り込むことでホルモン成分が体内に吸収され、72時間にわたって精子の量を減少させる避妊ジェルや、1回で効果が約2か月持続する男性用避妊注射薬もあるのだ。

◆《海外で研究が進む男性用避妊薬》

●「11-Beta-MNTDC」<経口>
米LA BioMedが開発する避妊薬。男性ホルモンと黄体ホルモン双方の特徴を持つ「変性ホルモン」を主成分とし、精子の生成を抑制。臨床試験では副作用はほぼ認められなかったが、避妊の確率については検証中

●「DMAU」<経口>
米LA BioMedが開発するもうひとつの避妊薬。28日間の臨床試験ではテストステロン欠乏による合併症は起こらなかったが、1~4kgの体重増加と一部の善玉コレステロールの低下が認められたという

●「ユリーフ」<経口>
キッセイ薬品と第一三共が共同開発した前立腺肥大症の改善薬。射精を司る器官を弛緩させることで、射精感を残して精子や精液を排出しない“空砲”状態に。海外の論文で避妊薬としての可能性が指摘された

●「The NES/T gel」<ジェル>
米ワシントン大学が研究を進める男性用避妊ジェル。一日1回男性の肩や背中に塗り込むだけで、成分が体内に吸収され、精巣内のテストステロンの製造を妨げて、精子の数を限りなくゼロに近づけるという

●「MCI(男性避妊注射)」<注射>
英エジンバラ大学などが研究を進める注射剤。主成分はテストステロンとプロジェステロンで、1回の摂取で2か月効果が持続するとされ、96%程度の避妊率を達成できるとか。ただうつや焦燥感などの副作用も

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 ただ、実用化までの道のりは平坦ではない。千葉西総合病院泌尿器科の久末伸一医師はこう話す。

「女性用の避妊薬は血液中のホルモン濃度を高め、体に妊娠していると勘違いさせることによって、排卵をストップさせます。しかし、男性用の避妊薬は精子の排出を抑えるために逆に男性ホルモンを抑制する必要がある。そうすると、性欲減退や勃起障害にも繫がってしまうというジレンマがある。精子の生成だけを抑えて性欲と勃起力は維持するという『いいとこどり』が難しいのです」

 そうしたなか、非ホルモン剤の経口避妊薬が、近く実用化される可能性があるという。

「前立腺肥大症による排尿障害の改善薬として日本でも承認を受けている『ユリーフ』という薬があります。この薬を服用すると、射精管や精嚢、前立腺などの機能を弛緩させる効果があり、勃起力や射精感は残したまま、精子や精液が出なくなる。この薬を男性用避妊薬として応用しようという論文が、海外で発表されています」

 また、非ホルモン剤の避妊法としては、インプラント型の避妊具「Bimek SLV」がスイスで開発中だ。この避妊具は男性の陰嚢内の精管に開閉可能な弁を取り付け、必要な期間だけスイッチを開閉し、精子が通るのをブロックする。開発メーカーは’23年までの市販化を目指しているという。さらに「ヴェイサルジェル」という避妊薬は精管にジェルを注入して精子をブロックする仕組みで、2年前にサルでの実験に成功している。

◆パイプカットも日本はいまだに旧式の手術

 ただ、こうした最新の男性用避妊法が日本に上陸したからといって、普及するかどうかは別問題だろう。例えば日本でも、男性のための避妊法としてパイプカットが長い歴史を有しているが、普及しているとは言えない。パイプカット手術専門の銀座MUクリニック院長、上野学氏は言う。

「欧米では、『子供はこれ以上つくらない』という家庭計画に基づいて、パイプカットを受けるのは責任感のある男だと評価されます。しかし、日本では『パイプカットを受けるのは遊び人』という負のイメージが根強い。日本では年間16万件以上の堕胎手術が行われていますが、中年女性が夫との間にできた子供を中絶する例も少なくない。夫がパイプカットを受けていれば防げる悲劇です。海外では当院でもやっているNSV法というメスを使わない方法が主流ですが、日本ではメスで陰嚢を2か所切開する旧式の手術法を用いる医師がほとんどで技術も遅れている」

 前出の福田氏もネガティブイメージが避妊法の普及を妨げていると指摘する。

「日本ではピルを飲んでいるというだけで、『性に奔放な女性』というレッテルを貼られてしまう。まずはそうした偏見から変えていかなければいけません。ただ、経口避妊薬の開発から、日本で処方できるようになるまで40年近くかかっており、容易ではない」

 日本で避妊薬の選択肢が増えない理由について、厚労省医薬食品局安全対策課はこう答える。

「新薬の承認やOTC化(市販化)は、基本的には製薬会社からの要望を受けてから検討に入ることになりますが、低用量ピルやモーニングアフターピル、そのほかの避妊薬については、そうした要望を受けていない。また、弊省のHP上には、一般消費者の方からのご意見を頂戴する窓口もありますが、低用量ピルやその他の避妊薬へのアクセスを容易にすべきという世論は高まっているという認識は現在のところありません」

 日本が世界レベルに追いつくためには、「避妊は二人の問題」という意識が必要だろう。

◆葉っぱを食べて避妊。民間伝承の秘薬とは

 男性用避妊薬に関しては、紹介したようなホルモン剤のほか、植物を利用したものも存在する。

 例えばインドネシアでは’16年から販売されている「避妊サプリ」がある。パプア州に住む男たちが古来から避妊に使用してきた「ガンダルサ」だ。キツネノマゴ科の低木の葉から抽出した成分で作られ、精子に含まれる酵素の働きを抑制する作用があるという。持続的に摂取することで99%の避妊率を誇るという。

 民間伝承の避妊法としてはアフリカのソマリ族に伝わる「ウアバイン」もそうだ。ソマリ族は伝統的に、キョウチクトウ科の植物から抽出したこの毒物を、狩りに使用する矢に塗ったり、避妊薬として男性が摂取していたという。近年、米オレゴン国立霊長類研究センターの研究チームによって科学的に避妊効果が認められ、この成分を使った避妊ジェルの開発も進められているとか。

 いずれも試すのは怖いが、避妊も男女平等の時代へ進んでいるのは間違いなさそうだ。

取材・文/奥窪優木 アズマカン 写真/ShutterStock

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